最近はTweetDeckで,#掛算を含むツイートを眺めるようにしているのですが,その中で,2人のやりとりにこのハッシュタグがあるのを見かけ,ツイートをたどってみました.
発端は以下のものです.
【算数教育批判への正しい考え方】1)掛算の順序(乗数,被乗数の区別)は無意味ではない。算数を通して固定することが馬鹿気て居るか否かは別問題。2)0は2の倍数。3)異種の量の比,比の値という概念は重要(歴史的にも)。知識として教えた方が好いに決まつて居る。以上について屁理屈は無用。
ここに振込伝票を入れたリプライが入って,2人でやりとりしていきます.IDは差し控えますが,発端のツイートをした人のほうが一貫しており分かりやすい内容となっています.
以下のやりとりにも,なるほどの思いがあります.
1:
@nomisukebot では、「分速」に変えて「分速3kmで5時間移動したら何km進むか」の場合はどうなるのですか?
@nemakineko48 単なる応用問題。分速3kmとは1分間に3km進むということ故1時間即ち60分間に進む距離として3に60を乗じて積として3×60=180を得る。その勢いで5時間進めば如何は前と同様。掛け算の本来的意味で素直に解ける問題。何の不思議もない笑。
2:
@nomisukebot ですから、単位を添えた場合はどうなりますか?後者の式は、3km×(60×5)なんだろうけど、カッコ内の掛算も同様に単位をつければ3km/分 ×(60分×5)分 になるのでは?一貫性が保たれなくなる、ということを言いたいわけです。
@nemakineko48 違いますな。高木を読めと申したい所だが,面倒故答を申して仕舞うならば(3粁×60)×5又は3粁×(60×5)何の問題も無い。「一貫性が保たれなくなる、ということを言いたいわけ」でも然うは問屋が下ろさぬ笑。
もうひとかたのツイートに出現する「(60分×5)分」は,高木*1に出現せず,構文的にも不適切だろうなと思います.「5時間は何分か」を,かけ算の式で表してみると,例えば,60×5=300ですが,ここに単位をつけるなら「60分×5=300分」です.
これを「(60分×5)分」と表記するのは,「カナコさんは3本のえんぴつをもっています。サワコさんから2本もらいました。タダコさんから1本もらいました。ぜんぶでなん本あるでしょう」という文章題に対し「3+2=5本+1=6本」と書く,というのと同様の性急さを覚えました.
ともあれ,「分速3kmで5時間移動したら何km進むか」を,被乗数と乗数に注意してかけ算の式に表すと,次のようになります.
- 1分間の移動距離は3km
- 1時間(60分)の移動距離は,3kmの60倍,すなわち3km×60
- 5時間の移動距離は,その5倍,すなわち(3km×60)×5
ここから結合法則を用いて,(3km×60)×5=3km×(60×5),としたいところですが,高木では名数を含む式に対しての適用は,想定されていません.とはいえ,「分速3kmで5時間移動したら何km進むか」に対して次のように考えることは可能です.
- 5時間は1分間の何倍か,というと,60×5〔=180倍〕
- 1分間の移動距離が3kmなら,5時間の移動距離は,3km×(60×5)
ここで「60×5」の式に単位をつけていないのは,3kmに対して乗数として作用することを念頭に置いているからです*2.今の算数でも考慮されており,啓林館のサイトでは乗法的オペレータの中で例示しています.
高木貞治が書いたころ,パー書きの量(の算術への適用)をうかがい知ることはできませんが,「分速3kmで5時間移動したら何km進むか」に対してパー書きを含む式にするなら,「3km/分×(60分/時間×5時間)」はどうでしょうか.
*1:例えば,http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1087461/16.「掛ケ算(乗法)」は,コマ番号16から始まります.
*2:「5時間は何分か」に限れば,5×60=300で求めても差し支えないのですが,3km×(5×60)と書き,ここに結合法則を適用して(3km×5)×60と書いてみると,もとの問題の状況において「3km×5」に適切な意味づけをすることができない,という問題点も浮かび上がってきます.