かけ算の順序の昔話

算数教育について気楽に書いていきます。

長方形を選ぶときに,正方形も選ぶのかどうか

 「正方形は長方形」あるいは図形の弁別に関して,以前に購入しており久しぶりに読んだ,2つの本を取り上げます。

  • 中島健三, 瀬沼花子, 清水静海, 長崎栄三: 算数の基礎学力をどうとらえるか―新世紀に生きる子どもたちのために, 東洋館出版社 (1995).

算数の基礎学力をどうとらえるか―新世紀に生きる子どもたちのために

算数の基礎学力をどうとらえるか―新世紀に生きる子どもたちのために

 はしがきによると,著者の一人,中島健三氏はこの出版の前年(1994年)に急逝とのこと。213ページから始まる「講演 子どもたちは,学校で何をどう学んでいるか」は,中島氏による平成4年(1992年)10月22日の講演の記録です。
 読み進めると,p.221に,③に続いて「数学教育の現代化での対応」に下線が引かれており,pp.222-223に(したがって昭和40年代の話として),「正方形は長方形」に関するテスト問題や授業でのとらえ方などが書かれていました。

 それから,「論理的な思考力を伸ばす」ということも,当時非常に大事にしました。算数では,例えば,正方形と長方形があったときに,正方形も長方形の仲間に入れるかどうか,こういう包摂関係にかかわる問題がしょっちゅうあった。テストなんかするときに,「長方形に○をつけなさい」という問題を出したときに,正方形も○にするのかどうかと。そこで,この際,論理的な思考力を伸ばすということで,定義をはっきり子どもたちにわかる範囲でおさえて,それに基づいて考えさせることにした。そうすると,長方形と言うのは「4つの角が直角のもの」という定義になるが,正方形というのも4つの角が直角であるから,辺の長さはみんな等しいが,長方形の仲間に入るという格好になります。
 そこで,子どもによっては,「真四角なんかは長くないんだけれども,長四角の中にいれるんですか」という発言も出てくると思うんですね。そこが大事なことで,子どもに,「おやっ?」と思わせることが大事です。親切にしすぎるんじゃなくて,「これは長くないんだけれども,長四角の中にいいんだろうか」と,先生の方から質問するぐらいのことがあってもいいと思うんですね。そう考えざると得ないのだと。

 このことに関する個人的な見解は,「弁別では区別し,論証では包摂する」と表せます*1。弁別に関しては,『算数教育指導用語辞典』(第四版,第五版)に書かれた「一般の図形の集合から,条件が付加されて特殊な図形の集合が作られたとき,その特殊な図形の集合に名づけられた名称が,その図形の名称となるということである。」が関わってきます。この辞典の初版*2だとどう解説されているのか,ちょっと気になってきました。
 ともあれ,もう1冊の本に移ります。

  • 西上周作: 通知表に役立つ観点別算数プリント集 小学2年, フォーラムA企画 (2011).

通知表に役立つ観点別算数プリント集 小学2年―コピーしてすぐに使える

通知表に役立つ観点別算数プリント集 小学2年―コピーしてすぐに使える

 図形の弁別の問題は,p.139です。アからコまで,10個の図形があり,その最初の問題が「長方形は どれですか。」です。
f:id:takehikoMultiply:20181130222709j:plain
図形の弁別の問題
 そして「(正方形は のぞきます。)」を添えています。こうすることで,「正方形は,長方形ではない」と学習する子どもたちも,「正方形は,(『4つの角が直角のもの』という定義を満たすから)長方形である」と理解している子どもたちも,イとケを答えに書けば正解となります。

*1:メインブログのhttp://d.hatena.ne.jp/takehikom/20141127/1417036309http://d.hatena.ne.jp/takehikom/20180404/1522783460で整理してきました。両方の記事でリンクしている,http://blogs.yahoo.co.jp/tamusi22/39103164.htmlの「あっ,正方形になってしまった。」は,今回の引用の「真四角なんかは長くないんだけれども,長四角の中にいれるんですか」と密接に関係しており,表現は違えど,子どもたちはそういう反応をし,先生方がすくい上げてきたわけです。

*2:第四版を見ると,「発刊にあたって」「はしがき」にはともに「昭和59年7月」とあります。