かけ算の順序の昔話

算数教育について気楽に書いていきます。

実際には何をどう考えているのか―2冊読み比べ

  • Lannin, J., Chval, K., and Jones, D.: Putting Essential Understanding of Multiplication and Division into Practice in Grades 3-5, National Council of Teachers of Mathematics (2013). [isbn:0873537157]

 「タイル×タイル」のかけ算の調査に,興味深い結果と分析があったので取り上げることにします。
 出題はp.48の Fig. 2.11 (The Tile task)です。正方形の同一のタイルが長方形状に配置され,その上にオレンジ色のrug(じゅうたん)が乗っています。タイルは何枚あるか,そしてどのようにして答えを求めたかを,小学3年生が解答しました。提示されている図は次のとおりです。

f:id:takehikoMultiply:20191216061214j:plain

 じゅうたんの下で,図に明示されていないところにも,タイルがあるものとし,縦6枚,横8枚なのは,解答する子どもたちが数えることになります。
 次のページに2つ,その次のページにも2つ,子どもの解答があり,最初(Fig. 2.12)の枚数は「57」で数え間違いをしています。Figs. 2.13-2.14はいずれも正答で,「一つ分の大きさ」を,求め方から読みとることができます。
 「Fig. 2.15 Shelby's (grade 3) work for the Tile task」(p.50)が今回関心を持った解答です。数は「48」,そして手書きによる説明(と私訳)は次のとおりです。

I counted the top row
the counted the side row then
multiplyed the two numbers
一番上のだんを数えました
だんがいくつあるか数えました それで
2つの数をかけました

 この解答に対する分析は,p.51に見られます。ChaseはFig. 2.14の解答者です。

How did Shelby's reasoning differ from Chase's? First of all, whether she identified a multiplicative unit is not clear. Instead, Shelby might have learned that the numbers need to be multiplied in this type of situation. Although she appears to have known that multiplication would give her the answer, she might not know why. Further probing would be necessary to understand why she multiplied and what she saw as the multiplicative unit and number of multiplicative units.
シェルビーの考えはチェイスとどこが違うのか。まずはじめに,かける単位(一つ分の大きさ)の特定が明確ではない。かわりにシェルビーは,このような状況では,かけるのに2つの数が必要となることを学んできたかもしれない。かけ算で答えが求められることを,過去に学んだように見えるが,なぜ(かけ算で答えが求められる)かはわからないかもしれない。彼女はなぜかけ算を使用したのか,そしてかける単位(一つ分の大きさ)とその個数(いくつ分)をどのように捉えたのかについて,理解するには,さらに調査が必要と考えられる。

 日本でいう「一つ分の大きさ×いくつ分」,本書の表記だと「scaling factor × multiplicative unit」に基づいて2つの数を特定し,かけ算の式にしたのかどうかが,シェルビーの解答からはわからない(さらに調査が必要),ということです。
 ところで今月,「実際には何をどう考えて」いるのかは「本人にしかわからない」,そして「外部からの観測ではわからない」と書かれたものを,読みました。

 このp.132です。少し前のところから,会話を書き出します。

僕「確かにそういうことはありそうだね。……ノナちゃんの話じゃないけど、僕のクラスにも暗記にこだわっている友達がいる。高校数学は解法パターンの暗記に過ぎないと豪語していて、実際、点数もいいんだよ。本当のところはわからないけどね」
テトラ「本当のところって何ですか」
僕「実際には何をどう考えて数学の問題に向かっているのかということ。それは本人にしかわからないんだよ。《考える》や《理解する》って僕たちの頭の中で行われる活動だよね」
テトラ「確かにそうですね」
僕「だから、外部からの観測ではわからない。解法パターンの暗記で解いていると本人が言ってても、実際にはどうやって解いているのかはわからない」

 「さらに調査が必要」と訳出したものの,Tile taskで2つの数をかけ合わせたシェルビーに対し,実際に追跡調査したというのは,あとの文章に書かれていませんし,これはここまでという話のように思います。外在的調査を行う側は,タスク(出題)を通じて様々な反応をもとに類型化し,どの類型は何パーセントといった理解状況の数値化のほか,(調査者にとって)興味深い解答を発見し教育的に解釈づけを試みている,というのを読みとればいいのです。
 『数学ガールの秘密ノート/学ぶための対話』では,「実際にはどうやって解いているのかはわからない」でこのトピックを終えておらず,またこのやりとりをするきっかけとなった人物(ノナちゃん)に直接,聞き取りをするのと異なる方法で,「わからない」の次のステップを進めています。詳しくは同書をご覧ください。