かけ算の順序の昔話

算数教育について気楽に書いていきます。

TIMSS2003の〈かけ算の順序〉

 本記事では,TIMSS2003についてWeb上で公開されている算数・数学の問題を取り上げ,「言語間でかけ算の順序が異なる問題」「英語版でかけ算の順序に配慮がなされている問題」を紹介します。
 「かけ算の順序を問う問題」,より正確には,「a×b,b×aの一方が正しく他方は間違い」というような出題はありませんでしたが,「a+bとb+aが選択肢にあり,どちらも間違い」というのはありました。


 TIMSS2019の出題内容に関して,https://twitter.com/flute23432/status/1464418447060725763のツイートを発端として,前の日曜日にはいろいろなツイートが出ました。
 takehikomのアカウントでツイートした最初は,https://twitter.com/takehikom/status/1464683513727225861です。その後,https://twitter.com/takehikom/status/1464688436485386243https://twitter.com/takehikom/status/1464798376721993736でも,TIMSSの本から一部書き出しています。
 事実と意見とを区別しておくと,https://twitter.com/takehikom/status/1464798611334524930は意見です。https://twitter.com/miyuki_MathT/status/1464525774887657474のうち「子どもが2割"も"間違えていた」について,そもそも仮定が間違っていた(Dの選択肢の式は日本では出題されなかった)のですが,そのような仮定に基づかなくても,算数・数学の大規模テストで正答率約80%というのは,比較的高いものであり,問題や正答率などが公開されている,全国学力テストや,東京都算数教育研究会の学力実態調査を通じて,知ることができます。
 英文では式の選択肢が「12+(2×3)」,日本語版では「12+(3×2)」となっている件について,TIMSSの過去の調査にも,入っているのではないかと思いながら,調べてみると,あっさり見つかりました。
 TIMSS2003です。日本語については,TIMSS(国際数学・理科教育動向調査)*1TIMSS2003 算数・数学問題例です。英語版はTIMSS 2003 Released Items: Four Grade Mathematicsを参照しました。ページ番号はそれぞれのPDFからです。また英語版は丸囲みの英字が選択肢番号になっていますが,以下では括弧書きにしています。
 TIMSS2019と同じように,言語間でかけ算の順序が異なっていたのは,英語版ではp.17,日本語版ではp.3です。問題文と選択肢は次のとおりです。

□ represents the number of magazines that Lina reads each week.
Which of these represents the total number of magazines that Lina reads in 6 weeks?
(A) 6+□
(B) 6×□
(C) □+6
(D) (□+□)×6

 □は,まゆみさんが,まい週読んでいる本の数を表しています。まゆみさんが6週間で読む本の合計を表す式は,次のどれですか。
① 6+□
② □×6
③ □+6
④ 6×(□+□)

 正解は,英語版では(B)の6×□,日本語版は②の□×6で,かけられる数とかける数が反対になっています---TIMSS2019と同じです。
 誤選択肢も見ておきます。英語版の(A)と(C),日本語版の①と③は,ともに6+□と□+6です。たされる数とたす数が反対の,2つの式の,どちらが正しいかを問うものではありません。どちらも間違いです。
 なおTIMSSから離れますと,多肢選択式で被加数・加数が反対の式はともに間違いというのは,平成28年全国学力・学習状況調査の中学校数学Aに入っています。https://www.nier.go.jp/16chousa/pdf/16mondai_chuu_suugaku_a.pdf#page=5の「ア (+3)+(-2)」と「ウ (-2)+(+3)」です(この問題の正答は,イの(+3)-(-2)です)。
 TIMSS2003の英語版で,上記よりも前のページにも,かけ算の式が選択肢に入っている問題があります。それはp.9で(日本語版には収録されていません),問題文と選択肢は次のとおりです。

It takes Chris 4 minutes to wash a window. He wants to know how many minutes it will take him to wash 8 windows at this rate. He should
(A) multiply 4×8
(B) divide 8 by 4
(C) subtract 4 from 8
(D) add 8 and 4

 問題文を訳してみると「クリスは1枚の窓を拭くのに4分かかる。このペースで,8枚の窓を拭くのに何分かかるかを知りたい。求めるには」となり,正解はAの「4×8のかけ算にする」です。
 たし算・ひき算・かけ算・わり算のどれかというと,この問題ではかけ算なのですが,選択肢の並びに違和感もあります。かけ算だけ「4×8」で,あとは2つの数の間には,前置詞または等位接続詞の英単語が挟まっています。
 もう一つ,引っかかるのは,"multiply 4 × 8"という表記です。2通り解釈が考えられて,一つは,×をbyに読み替え,他動詞multiplyの目的語は4だけとするものです。もう一つは「4 × 8」を目的語とする解釈です。後者の用法は,英辞郎でmultiplyを引いても,見当たりませんでしたが,https://www.merriam-webster.com/dictionary/multiplyを見たところ," to find the product of by multiplication"が当てはまるように思えます。
 問題としては,加減乗除のいずれかを選ぶ,演算決定に関するものです。4×8か,8×4かを問うものではありません。4+4+4+4+4+4+4+4のように累加で考えると(そして英語圏なら),これは「8つの4」で8×4のはずですが,"at this rate"に着目して,「1あたり」の問題とみなすと,ある英語論文*2に書かれていた"unit price × quantity","speed × time"と同様であり,これに当てはめるなら4×8です。

*1:多くツイートが交わされた日曜日は,国立教育政策研究所計画停電のため,サイトにアクセスできませんでした.

*2:https://takehikom.hateblo.jp/entry/20140808/1407450328