28分弱の動画ですが,はじめ5分ほどは「3人の大人が8コずつアメをもっています.アメは全部でいくつありますか.」,5:26から始まる次の5分ほどは「3人の大人が24コずつアメを持っています.このアメを6人のこどもに均等に分けるとき,1人あたり何コのアメを受け取れますか.」という文章題で,いくつかの式を書いています。
前者については「3×8=24」は間違い,「8×3=24」が正解と話す一方で,後者については「3×24×6」「24×3÷6」「24÷(6÷3)」「」といった式を提示して,9:30ごろから「ぜんぶの解き方でオッケーだし,ぜんぶの解き方で答えが同じになる,ということです.で,むしろ,これをひっくり返せるっているのを知ってれば,こっちの式にたどり着きやすくなるわけですね.もうどれだけ,この議論が無駄か,あの,意味がないかっていうのがよくわかると思います」と評しています。
そのあと,「かけ算の構造」という言葉を入れながら,黒板の内容を一新し,「①足し算・かけ算は順序を気にしなくてよい.」などを解説しています。
動画を離れて,「かけ算の構造」で連想するのは,次の2つです。
- Vergnaudが1983年と1988年に,異なる編著書でいずれにも"Multiplicative Structures"と題して,小学校で学習するかけ算について解説しています。(かけ算と構造 - わさっきhb)
- 中島健三が1980年に著し,第二版が他の出版社で復刊された『復刻版 算数・数学教育と数学的な考え方』では,「A×p(=B)という「かけ算の本質(構造)」を,「Aを1としたときpに相当する大きさを表すこと」」として構造を与える---動画の3:50ごろの「サンドイッチ」は,この「構造」なのです---とともに,かけられる数とかける数の区別(合わせて,いつも区別する必要のないこと)があとのページに記されています。(かけ算の本質(構造)とは〜『復刻版 算数・数学教育と数学的な考え方』を読む - わさっきhb)
動画に戻って,はじめの文章題では,なぜ「3×8=24」が間違いなのかの説明が十分ではなく,次の文章題では,子どもたちは他の式を書くのではないか,と感じました。
間違いの理由として,「3×8は,3コずつのアメを8人の大人が持っている場面の式だ」というのと,「3人がかけられる数だったら,8をかけると答えは24コではなく24人になってしまう」が知られています。後者ような式の読み方は,リンゴの上におさらが9個~2019年の「積は皿の枚数になってしまう」事例にて,戦後すぐ,昭和の終わり,平成の途中,令和元年5月という4つの時期,そして異なる情報源のものを,簡単に紹介しています。
「3人の大人が24コずつ,このアメを6人の子どもに均等に分ける」に対して,板書されなかった中で,まず思いつく式は,「24×3=72 72÷6=12 (答え12コ)」です。関連するのは3要素2段階の問題,そして「分解式」です(動画の2番目の文章題に対する式はいずれも「総合式」となっています)。
「24÷(6÷3)」という総合式に対応する分解式は,「6÷3=2 24÷2=12 (答え12コ)」です。こう式を立てたときには,どうして6÷3としたのかという疑問(授業中なら先生または他の子どもからの質問)が生じますが,これは動画の7:58ごろからの説明が有用そうです。
表記面では,ずっと左上に表示されている「特別講議」は「特別講義」ではないかと思いました*1し,板書の内容を変えた直後の「(a)交換法則」「(b)結合法則」の番号付けと,それぞれを表す等式の両方に「a」「b」の文字を使用したため,Point!の下に書いた「(a)(b)」は,aとbの積と誤読される余地があるように感じました。
四元数を考慮した上で,小学校低学年のかけ算指導にも言及したものが,『算数教育指導用語辞典』で読めます。主要部を,積の非可換性についてと算数教育指導用語辞典 第五版を読んだで取り上げました.
「かけ算の順序」批判の動画を見るのは,2018/08/02に公開の動画以来となります。問題を実際に子どもたちに解いてもらって*2反応を見ることをしていない,「かけ算の順序」批判の動画が,また一つ作られた,というのが率直なところです。
*1:「講議」もありという立場はhttps://blog.goo.ne.jp/syaraku0812/e/b4ce2fafee2ac090ace32cd08123fee6,誤字としているのはhttp://www.tt.rim.or.jp/~rudyard/jiji002.htmlよりそれぞれ読めます。
*2:「3人の大人が24コずつ,このアメを6人の子どもに均等に分ける」を形式化すると,「a×b÷cおよびa÷(c÷b)という式を立てることができる文章題」と書くことができます。なのですがこのタイプの文章題は,必ずしも教科書に載っていません。類似した問題は,教育出版『小学算数4上』に「500円玉を持って買い物に行きました。230円のパンと150円のジュースを1つずつ買うと,お金は何円残るでしょうか。」というのがあり,総合式としては500-230-150と500-(230+150)が考えられます(教科書では穴埋めになっています)。「a-b-cおよびa-(b+c)という式を立てることができる文章題」です。