かけ算の順序の昔話

算数教育について気楽に書いていきます。

「2×3? 3×2? どっちでもいい?」第3版

 スライドを「第3版」にアップデートしました。Q&Aについて,以下のとおり,変更しました。
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 「「タコが2匹で足は何本ですか」に2×8と式を書く子どもは,タコが2本足だと考えている?」のほうは,「[坪田2010]にあるブラジルの子の話も同様です」を追加しただけです。[坪田2010]とは,以下の本です。

坪田耕三の算数授業のつくり方 (プレミアム講座ライブ)

坪田耕三の算数授業のつくり方 (プレミアム講座ライブ)

 「ブラジルの子の話」は,p.138に載っています。

ブラジルに行ったときに6の目のサイコロを見せて,「サイコロの目の数はいくつですか」と言うと,みんな「6」と言った。「どうして6と考えたの」と尋ねるとある子が出てきて,「3×2」と書いたんです。これを3×2と見たわけを聞きました。私がどうしてそんなことを聞いたかというと,式の後ろに潜んでいる感覚は,日本語圏以外では普通意味が逆です。3×2と言えば,日本では「3個のかたまりが2個ある」という意味ですが,英語圏も中国語圏もみんな「3個ありますよ,2つのものが」という意味です。
一番わかりやすい例は,陸上競技で4×100mリレーという表示がありますね。日本で正しく勉強している子なら,4mを100人で走ると言うことになる。でも,誰もそう解釈しませんね。これは世界共通で4人で走りますよ,100mずつを,という意味の表示です。日本とは式の意味が逆なんです。だから,3×2とブラジルの子が書いたから,あえてちゃんと聞いてみたいと思ったんですね。そうしたら,はじめに出てきて説明した子は3個ずつのかたまりを作ってそれが2つ分と言いました。おやっ,これは日本と同じだぞと思っていると,他の仲間みんなが違う違うと言うのです。要するに間違っていたのです。どこの国も同じですね,間違える子がいるのは。本当は2個のかたまりが3個分だと別の子が説明してくれました。

 最後の文の,別の子の説明は,「3×2と書いたら,2個のかたまりが3個分になるんだよ」なのだと理解すれば,納得がいきます。
 Q&Aの「算数と数学は違うの?」について,回答の最初の項目を完全に書き換えました。「数学的活動」という言葉は,現行より前の学習指導要領でも見かけますが,今年,文部科学省が公開した学習指導要領では,算数の最初(第1 目標)のところでも,「算数的活動」が消えて「数学的活動」が使用されています。このことは例えば,https://www.kyobun.co.jp/wp-content/uploads/2017/02/c33e44592b6634beaefde66e279aa70a.pdf#page=66の新旧対照表より確認ができます。
 回答の2番目の項目は,「[蟹江2009]」と「[中島1968]」を交換しました。それぞれより感銘を受けた記述を,書き出しておきます。

数学教育は, 数学ではない. 数学教育は, 高度に専門的な数学の知識を基本的に使用する, 専門分野のひとつである. この意味において, 私の思うに, 数学教育応用数学の一種と見なすことが有用となる. そして, 数学者が「応用数学としての数学教育」への貢献を望むのなら, 最初の課題は, 他の応用数学の場合と同様, 応用の対象領域における数学的な問題の性質, そして, この領域で有用ないし利用可能な数学的知識の形式を, 感覚的(sensitively)に理解することである.
(p.30)

こどもには,アレイも集合の直積も学習させてよいが,だいじなことは,こどもに学問のしかたを教えることであって,学問からはじめることを主張すべきではない.
(p.75)

かけ算の意味,式の意味

「資質・能力」を育成する算数科授業モデル (小学校新学習指導要領のカリキュラム・マネジメント)

「資質・能力」を育成する算数科授業モデル (小学校新学習指導要領のカリキュラム・マネジメント)

 この本で,「かけ算」(実施学年2年)の授業例がpp.36-39に載っていました。はじめの2ページにまたがって,単元計画が箇条書きになっていたので,書き出します。

(3)単元計画
かけ算(1)
 第1次 かけ算の意味
 ・「1つ分の数」×「いくつ分」のかけ算の式の意味と答えの求め方(累加)を知る
 第2次 5の段までの九九の構成
 ・かけ算の意味を基に九九の構成の仕方を知る
 ・積と乗数の関係(かける数が1増えるとかけられる数の分だけ積が増える)、交換法則、分配法則を発見的に学ぶ
かけ算(2)
 第1次 6の段~9の段の九九の構成
 ・5の段までの学習で見出したきまりを活用して、自分で九九を構成する
 第2次 かけ算の問題解決
 ・九九の構成で見出したきまりなどを活用して問題解決する(略)

 「かけ算の意味」と「かけ算の式の意味」が,書かれています。それらの違いは,明示されていませんが,語感としては,こうでしょうか。まず「かけ算の意味」に「を理解する」をつけ加えれば,文章題や絵で提示された場面に対し,子どもが「あ,これはかけ算で答えが出せる」と判断し,式で表してから,累加や九九などを使って答えを求めることと,結びつけられます。
 それに対し,「かけ算の式の意味」を「理解する」というと,式の表現と式の読みになってきます。「1つ分の数」を乗算記号の左に,「いくつ分」を右に置いて,かけ算の式で表すのが,式の表現なのに対し,式の読みとなると,4×3のような式から,それに合うようおはじきを並べるような活動が含まれます。「えんぴつを 2人に 5ほんずつ くばります。えんぴつは,ぜんぶで 何本 いりますか。」に対して,かけ算の式は2×5か5×2かというのは,式の表現と式の読みの両方を扱った討議として,授業で活用できます。
 「意味」の語が見当たらないものの,「かけ算の意味」と「かけ算の式の意味」の違いに注意した,学習指導案のPDFファイルが,以下よりアクセスできます。

 終盤に,「かけ算が使えるようにする考え方をルーブリックにより評価する。」を2重線で囲んで,1つの文章題を提示し,子どもの自由な表現を引き出す試みを行っています。文章題は以下のとおりです。

2年生は「みどり組」「白組」「赤組」の3クラスあります。
では,ふぞく小学校ぜんぶでは,何クラスあるでしょう。なるべくかんたんにもとめる
方ほうを考えて,図やしきやことばをつかってせつめいしましょう。
(ヒント 1年生は「月」「空」「にじ」「ほし」の4クラスあるよ)

 注意したいことが1つあります。3×6+1=19も6×3+1=19も,正解となっています。というのもこの学校では,1階・2階・3階に6クラスずつ*1,そして4階に4年緑組があるからです。
 どんな解答または反応をとったら,どんな評価にするかが,ルーブリック(評価指標)としてあらかじめ作成され,授業後に,どこに位置するのが何人と,集計されています。
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 ここで興味深いのは,「2」の右側に,「被除数と,除数のまちがい。」が入っていることです。文書全体で,わり算のことは書かれていませんので,これは「被乗数と,乗数のまちがい。」に読み替える必要があります。
 そうしたとき,「3クラスずつ6学年,だけど1年生だけ1クラス多い,だからしきは6×3+1=19」のような答案に対しては,2の評価になりそうだな,と読むことができます。
 また7×3+1=22は,2の評価となるのが想像できるのに対し,5+5+5+4=19は,場面はイメージできているけれどもこの基準では1の評価となっています。このルーブリックにおける0から3までの値は,「順序尺度」であることにも,留意したいものです。3と2とを分断するのは「かけ算の式の意味」なのに対して,「かけ算の意味」の理解は,2と1の境界(より正確には,「0・1」と「2・3」の分割)を定めています。


(2019年12月追記)「えんぴつを 2人に 5ほんずつ くばります。えんぴつは,ぜんぶで 何本 いりますか。」は,東京書籍の教科書に載っており,https://ten.tokyo-shoseki.co.jp/text/shou_current/sansu/files/web_s_sansu_gakuryoku1.pdf#page=2より見ることができます。
 このPDFファイルは,平成27年度用の内容解説資料ですが,今年3月検定済で,来年度から使用される教科書にも,同じ出題が収録されているのを,教科書展示会にて確認しています。東京書籍に限った話ではなく,算数教科書6社のうち4社において,2年のかけ算の単元で,a×bとb×aの違いを理解するための出題が入っていました。

 外国に目を向けると,子どもが具体的な数量をもとに,a×bとb×aの違いを説明するのに対し,先生がきちんと聞いて,拍手をうながしたり,話の整理をしたりする状況を,読むことができます。

 外国の状況については,メインブログの以下の記事もあわせてどうぞ。

*1:ある子どもの吹き出しには「1階に7クラス(以下略)」とありますが,誤記というよりは,ルーブリックにおける「学年,クラスの数をまちがって考えている」に該当する例として,記載したものと思われます。

姑息手段

 このp.200(コマ番号110)には,「分数に於ける姑息手段」と題した話があります。主要な箇所を取り出します。

掛け算の場合の困難は,種種工夫して遂に掛けると云ふ言葉の意味を変へて,掛けると云ふは一を土台として乗数を得るために行ふものと同じ計算を被乗数に行ふものであると箇様に其意味を変へえたのです(略)

所が若し此解釈が正しいものならば数の範囲が段段と広くなつても何処迄も当嵌まるなければなりませぬ,然るに此れは一歩進むと最早当嵌まらなくなります,手近い一例を申しますれば既に無理数の所で当嵌まりませぬ,唯一例を以て次にこれを説明致しませう
ここに\sqrt3\sqrt2を掛けて積を求むるものとすれば御存知の如く\sqrt6と云ふ積が得られませう,然るに試みに只今申しました様な掛け算の意味を当嵌めると,先づ第一に此乗数の\sqrt2は1を土台として如何にして求めたかと云ふと,1を二倍して其平方を取るのでせう,故に此意義によりて前の掛け算をやりますと,\sqrt3\times\sqrt2\sqrt3を2倍して2\sqrt3とし,其平方根\sqrt{2\sqrt3}は求むる所の積なりと云ふこととなりまして,即ち其誤って居ることは一目瞭然でせう(略)

 分数のかけ算のはずなのに無理数が出てくるのは,気になりますが,「一を土台として乗数を得るために行ふものと同じ計算を被乗数に行ふもの」という意味では都合が悪い例として,持ち出したと,とりあえず判断しました。
 関連情報を探してみました。同時期に書かれた算術の本で,手に取ったのは,高木貞治の『新式算術講義』です。

新式算術講義 (ちくま学芸文庫)

新式算術講義 (ちくま学芸文庫)

第五章 分数,(五)分数の乗法及除法について書かれた,p.131の脚注に,上の意味づけではよくないことが,無理数を交えて,記されていました*1

12) 乗法の定義を次の如く言ひ表すは不正確なり.aにbを乗ずるは1よりbに達すべき手続きをaに施こすなり.例へば\frac{2}{3}\frac{1+1}{1+1+1}a\times\frac{2}{3}\frac{a+a}{a+a+a},又2=\sqrt1+\sqrt1a×2\sqrt{a}+\sqrt{a}.上述の定義を完全ならしめんと欲せば次の如く之を修正すべし.1より倍加及等分によりてbに達すると同様にしてaより倍加及等分によりてabに達す.これは勿論正し,然れども亦平凡なり.bが無理数なる場合には斯の如き定義は用に堪へず.要するに,これ数の観念の明瞭ならざりし時代の遺物なり.

 1904年に刊行されたものですから,「分数に於ける姑息手段」やそれまでの状況を踏まえたものと認識して良さそうです。
 「倍加」は今でいう「整数倍」,「等分」は「整数で割ること」ですが,「1よりbに達する」「aよりabに達する」に関しては,「有限回の操作で」が,暗黙の了解事項なのでしょう。無限回の操作が許されるなら,例えば連分数を用いて\sqrt2が得られます。
 『新式算術講義』では,第八章(量の連続性及無理数の起源)にてデデキント切断を取り入れながら無理数を定義し,続く第九章(無理数)で加減乗除を定めています。かけ算の定義では,第五章と同じ比例式を用いていますが,文字のとる範囲が異なるという点で,異なる演算となっています。
 ここまでを書く契機となったツイートは以下の3つです。

 さて,現在の算数で,無理数の存在にも注意しながら,どのようにかけ算の意味を決めたり活用したりするか,と意識を切り替えると,思い浮かぶ論文が1つ,本が1冊あります。論文は,以前から[中島1968b]と書いてきたものです。念のため,書誌情報は次のとおりです。

 ただしそこでは,かけ算の意味をこのようにすれば,無理数にも適用できる,と主張しているわけではありません。「\pi\times\sqrt2」という,かけ算の式は,アメリカの雑誌における論争を取り上げる中で出現します。
 有理数を対象とした,かけ算の意味づけは,次のとおりです(p.76)。

 b) 小数・分数(有理数)の場合に,どんな意味づけをするか.
 累加の考えの問題点は,周知のように,整数の場合でなく,乗数が有理数の際に起こる.わが国の場合は,累加という考えをそのまま用いないで,次のような意味に一般化(拡張)する方法をとっている.すなわち,
 A×Bについて,A,Bを次の意味に対応させる.下の図では,A×Bは,Bの目盛に対応する大きさをよみとることに当たる.
  A……基準(単位)とする大きさ
  B……Aを単位とした測定数(measure)
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 これは,割合の考えともいわれているが,A×BはAという単位量のスカラー倍(Bに比例して拡大縮小した大きさ)を表すという考えである.

 上記は『新式算術講義』の「1より倍加及等分によりてbに達すると同様にしてaより倍加及等分によりてabに達す」と合致します。「倍加及等分」は,「拡大縮小」です。
 中島による公開授業は,『小数・分数の計算 (リーディングス 新しい算数研究)』p.84より読むことができ,そこではじめに出現するかけ算の式は120円×3.4です。上記と同じ考え方で,小数の乗法における意味の「拡張」が,小学校学習指導要領解説算数編にも記載されています。
 「Bの目盛に対応する大きさをよみとる」や「測定数」といった表記から,Bに無理数がくる(例えば測定数が\sqrt2になる)というのは,算数において非現実的だと言えます。ですが,そのことを取り入れた授業例が,最近出た次の本に収録されていました。

「資質・能力」を育成する算数科授業モデル (小学校新学習指導要領のカリキュラム・マネジメント)

「資質・能力」を育成する算数科授業モデル (小学校新学習指導要領のカリキュラム・マネジメント)

 4年の「面積の求め方」の単元です(pp.60-63)。4cm×8cmの長方形と,対角線の長さが8cmの正方形を横に並べ,先生は「どちらの面積が大きいですか」と問います*2
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 子どもらが,正方形の一辺の長さを測ると,5.6cmと5.7cmの間です。
 mmに直せば,4年でも,面積が計算できます。56mmだと,56×56=3136㎟,57mmだと,57×57=3249㎟で,長方形の面積(3200㎟)は,その間になります。
これは意図的なもので,p.61には「実際は、1辺を4\sqrt2cmとしているため、5.656…cmである。」と,根号を含む表記も見られます。
 三角形やひし形の面積は,まだ学習していないものの,先生のヒントにより対角線の長さが8cmであることを子どもらは知ります。図形を切って貼って,1辺の長さが4cmの正方形を2つ作り,最終的に,面積は32㎠となることを,導いていました。
 この授業から,平方根無理数の概念を,子どもたちが学んだわけではありません。\sqrt2を取り入れ,定規できちんと測れない長さの図形を用意したのは,先生による「姑息手段」です。その作為を乗り越え,面積を求めることができたという経験が,授業としては大事なところですが,切り貼りしても面積は変わらないこと(量の保存性)や,1cm=10mmだけれど1㎠≠10㎟であることなど,小さなポイントも,見逃すわけにはいきません。

*1:http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/827403/229でも読めます。対応する本文はhttp://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/827403/93です。

*2:画像生成のコマンド:convert -size 425x180 "xc:#eef" -fill "#66f" -stroke black -strokewidth 0.0666 -draw "translate 5,30 scale 30,30 rectangle 0,0 8,4" -draw "translate 250,5 scale 30,30 rotate 45 polygon 8,0 4,-4 0,0 4,4" -quality 92 boxes.png

「かけ算の順序の昔話」について

 3月31日に,はてなダイアリーのサブブログ(「×」から学んだこと)を,はてなブログへ移転し,「かけ算の順序の昔話」というブログ名にしました。
 ブログのURLには,takexikomというのを入れました。ただしブログ移転の仕様上,サブアカウントはてなIDは,takehikoMultiplyのままです。
 takexikomをあえて読むなら,「たけひこえむ」をおすすめします。ロシア語では,たけひこはТакэхикоと綴りまして,このхの文字を,ローマ字表記のhのところに割り当てた格好となっています。xが乗算記号として用いられること(画像のサイズを400x300と表すなど)も,反映させています。mはmultiplyの頭文字です。
 当ブログでは,これまでメインブログ(わさっき)で書いてきた「かけ算の順序」や「算数教育」を主なトピックとして,取り上げていく予定です。算数の本の紹介もです。ツイッターからの拾い読みも,継続します。
 思うところあって句読点を「。」「,」にしています。使用する漢字を,小学校で学習する字に限定して,少し文章を書いてみたものの,難しいことに気づいて断念しました。
 ブログ名ですが,「かけ算の順序」だけで書き続けるのはおそらく困難で,ネタを見つけてまとまった文章にしていくには,算数・数学教育くらいをターゲットにしたほうがいいと,考えています。ともあれ自分なりの経験をもとに,凝縮したのが,「かけ算の順序」となります。
 そんな認識ですので,書籍や雑誌も,ネットの情報も,すべてが過去のお話のように見えてくるのです。「最先端」であっても,学校の先生またはネットの発言者がまず発見し,図や画像と文章などを用いて発信したものであり,それをあとで自分が読んでいる,という時間の流れが,あります。「昔話」を加えたのは,そういった事情からです。
 今後ともご愛顧のほど,よろしくお願い申し上げます。

『小学校6年間の算数がマンガでざっと学べる』は大人向けの学習マンガ

小学校6年間の算数がマンガでざっと学べる

小学校6年間の算数がマンガでざっと学べる

「算数伝道師コスギ」と「マンガ家ゆみぞう」による掛け合いで,ゆみぞうが整数のたし算から場合の数までを学ぶ(学び直す)という漫画です。
気になったところを,あげていくと…

  • 加減乗除の表記は「たし算」「引き算」「かけ算」「割り算」(CONTENTS)
  • 整数のたし算では「さくらんぼ」使用(p.13)
  • 整数のかけ算は,「九九は大丈夫ですね?」のやりとりのあと,すぐに39×6,57×43の筆算(p.20)
  • 割り算では2つの意味を例示(p.25)
  • 0を含むかけ算は2種類(「Q1 0円のりんごを3個買ったらいくら?」「Q2 60円の消しゴムを0個買ったらいくら?)(p.27)。式は順に「0×3=0」「60×0=0」(p.28)で,かけられる数・かける数などの用語なくそれぞれを区別している
  • 小数の割り算の最初の式は,2m÷0.5m=4本(p.42)
  • 倍数に0は入れない。「5の倍数を小さい順に5つあげてみてください」には「6」「12」「18」「24」「30」(p.58)
  • 0は偶数(p.64)
  • 分数のかけ算には長方形の分割(p.88),長方形の面積は後ろ(p.132)
  • 分数の割り算で,ひっくり返してかける理由に3種類(pp.93-95)
  • 面積図は「平均」が横の長さ,「個数」が縦の長さ,「合計」は長方形の中央。縦横は「逆にしてもよい」の添え書きあり(p.105)
  • 単位量あたりの大きさ(第5章)が割合(第9章)よりも先
  • 「重い先生 綿100%」で「重さの単位は1000倍ずつ 面積の単位は100倍ずつ 大きくなりますよ」のゴロあわせ(p.108)
  • 速さは,時速・分速・秒速の表し方を言葉にし(p.116),「み・は・じ」も使用(p.120)
  • 割合の3公式には「く・も・わ」。「く=比べられる量」「も=もとにする量」「わ=割合」(p.170)
  • 「比例式」「内項の積と外項の積は等しい」を,小学生でも知っておくと超お得な裏技として紹介(p.188)
  • 4つの並べ方の計算に,「6通り×4で24通り」(p.215)

学習事項の順序や,式に単位を添えるところなど,そのまま小学生に教えるわけにはいかない(教えているわけではない)のでしょうが,大人向けの算数の復習としては,興味深い内容でした。

掛算順序固定指導について

 「掛算順序固定指導」の条件を挙げています。具体的には「小学校において」「掛算の書き方に指示がないテストで」「式の掛算順序が特定の順序と逆という理由で間違いだと指導する」です。
 ぱっと見て,学術的にも実践的にも,算数教育に寄与しそうにない主張だなと感じました。
 用語を確認しておくと,小学校を対象とするのなら,「掛算」ではなく「乗法」とすべきでしょう。「式の掛算順序」もまた,見慣れない語です。小学校のかけ算で「じゅんじょをかえても,答えは同じ」は,交換法則*1と関連する,a×b=b×aといった形ではなく,結合法則,例えば3×25×4=3×(25×4)=3×100=300のような計算で活用されています。
 「テストで」と「指導する」の組み合わせも,引っかかりを覚えます。診断的評価・形成的評価・総括的評価のいずれを対象としているのかが気になりましたが,明記されていないのであれば,いずれも対象と見るべきでしょうか。そういえば「指導」とあり「評価」はどうなるのだろうかと思いながら,ツイートを読んでいくと,https://twitter.com/croce1/status/847685211659698183を見る限り「指導」は「評価」の同義語と思ってよさそうです。
 例えば,『教育評価 (岩波テキストブックス)』で読むことのできる作問法(算式法)の課題,「4×8=32となるようなお話をつくってください.そして,そのお話を絵で描いてみましょう.」について,同じページに書かれた「乗数と被乗数の意味が区別されているか」(とくに正比例型では「4」は「一あたり量」,「8」は「いくつ分」と区別されているか)という採点基準も,「掛算順序固定指導」に当てはまると考えられます。
 この本や,背景にある教育評価の実践,また学力調査などの成果に対し,いわば挑戦的な定義づけをしているのだなと理解しました。
 「指導はしない」場合が,あるのでしょうか。3×5でも5×3でも正解にする,という採点方法と別に,思い浮かぶのは,3×5と5×3(あるいはa×bとb×a)の違いを学び,先生は褒め,クラスで共有することです。
 授業例として,http://www.n-ishida.ac.jp/main-office/tyuto/kenkyukiyou/09/P3.pdfを見ていきます。イランの授業では,ある子どもからの「先生! そこの、16かける3と3かける16は違うの?」という質問を,先生が受け止め,何人かの子どもの発言のあと,「もし私たちが16を3でかけるなら、これは、私たち16人の集まりが3つあるということになります。でももし3を16でかけるなら、3が16あるということになります。だから意味が違っているけど、答えはどちらも同じです。」に対し拍手を促し,褒めています。
 もっと端的に,a×bで表される文章題と,b×aで表される文章題を,それぞれ作りなさいという課題を,洋書で1つ,和書(問題集)で1つ,見たことがあります。ただしいずれにも正解例は書かれておらず,1つの場面を,両方の式の答え(文章題)として書くのを認めるのかについて,それが読み取れる表記はありませんでした。
 a×bとb×aの違いについて,かけられる数とかける数の意味を大事にする立場*2では,式の意味が異なる(変わってくる)ことを重視し,授業やドリルなどで活用されています。違いを学べば,ある文章題に対して3×5が正解,5×3は間違いとなるわけで,バツにされたときでも本人が「あっそうか」と判断できることにも,つながります。
 念のため,「自学のスキルを身につける」ために,かけられる数とかける数の区別を設けて指導しているのか,という考えに至る,当ブログの読者はいないと思いますが,かけ算で表される状況において,「かけられる数とかける数の区別」がある場面と,そのような区別のない場面があるのは,『筆算訓蒙』や明治以降の「算術」の解説書,また現代ではVergnaud (1988)やGreer (1992),米国Common Core State StandardのMathematics Standardsでhttp://www.corestandards.org/Math/Content/mathematics-glossary/Table-2/より読める分類表からも,確認ができます。
 それに対し「掛算順序固定指導」といったラベリングをしたり,その種の指導を敵視する人々にとっては,「そんなことをする意味がない(That does not matter.)」に集約される,と認識しておけばよいのでしょうか。
 定義に立ち返りまして,「掛算の書き方に指示がないテストで」も,気になりました。「掛算の書き方に指示があるテスト」(特に総括的評価や外在的評価に関するもの)の事例が思い浮かばなかったからです。教科書や問題集を何冊か読み直し,×の左と右に何を書くかの指示は,導入段階だけだよな*3と思ってから,ツイートを見直すと,本人からのhttps://twitter.com/croce1/status/847720494728060928https://twitter.com/croce1/status/847722941483634688,また一連のツイートに批判的な立場からのhttps://twitter.com/tetragon1/status/847630241312854018https://twitter.com/flute23432/status/847681592428331008を見かけまして,「こなれていない定義」と認識しました。
 「掛算順序固定指導」でない指導事例(個別の出題ではなく,少なくとも単元指導まで,できれば1年から6年までの算数指導系統を)も,あるといいのですが。

*1:たとえば日文の3年上だと,「かけ算では,かけられる数とかける数を入れかえて計算しても,答えは同じになります。」

*2:学術文献からだと,http://ci.nii.ac.jp/naid/110007994852…ですがCiNiiから本文が取得できなくなっています。

*3:教育出版の小学算数2下だと,p.5で「コーヒーカップにいる人数を,式にあらわしましょう。」の下の式が□×□=□の穴埋めで,それぞれの□の上に,左から「1つ分の数」「いくつ分」「ぜんぶの数」が書かれています。問題集では,isbn:9784774318028を見ていくと,かけざんはp.61からです。最初の問題は「みかんが 1さらに 2こずつ のって います。みかんの のった さらは 4さら あります。みかんは ぜんぶで なんこ ありますか。」で,ミカンの絵の下の式は,2×4=8。「2」「4」「8」をなぞり書きするようになっています。それぞれの数の囲みの上には,「1さらの みかんの 数」「さらの 数」「ぜんぶの みかんの 数」です。またp.66には「ボートが 5そう あります。1そうに 6人ずる のれます。ぜんぶで なん人 のれますか。」に対し,□×□=□の穴埋めで,添え書きはありません。続く「子どもが 6人 います。ひとりに 7こずつ あめを くばります。あめは ぜんぶで なんこ あれば よいでしょうか。」の「しき」の欄は下線のみです。