かけ算の順序の昔話

算数教育について気楽に書いていきます。

「2×3? 3×2? どっちでもいい?」第3版

 スライドを「第3版」にアップデートしました。Q&Aについて,以下のとおり,変更しました。
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 「「タコが2匹で足は何本ですか」に2×8と式を書く子どもは,タコが2本足だと考えている?」のほうは,「[坪田2010]にあるブラジルの子の話も同様です」を追加しただけです。[坪田2010]とは,以下の本です。

坪田耕三の算数授業のつくり方 (プレミアム講座ライブ)

坪田耕三の算数授業のつくり方 (プレミアム講座ライブ)

 「ブラジルの子の話」は,p.138に載っています。

ブラジルに行ったときに6の目のサイコロを見せて,「サイコロの目の数はいくつですか」と言うと,みんな「6」と言った。「どうして6と考えたの」と尋ねるとある子が出てきて,「3×2」と書いたんです。これを3×2と見たわけを聞きました。私がどうしてそんなことを聞いたかというと,式の後ろに潜んでいる感覚は,日本語圏以外では普通意味が逆です。3×2と言えば,日本では「3個のかたまりが2個ある」という意味ですが,英語圏も中国語圏もみんな「3個ありますよ,2つのものが」という意味です。
一番わかりやすい例は,陸上競技で4×100mリレーという表示がありますね。日本で正しく勉強している子なら,4mを100人で走ると言うことになる。でも,誰もそう解釈しませんね。これは世界共通で4人で走りますよ,100mずつを,という意味の表示です。日本とは式の意味が逆なんです。だから,3×2とブラジルの子が書いたから,あえてちゃんと聞いてみたいと思ったんですね。そうしたら,はじめに出てきて説明した子は3個ずつのかたまりを作ってそれが2つ分と言いました。おやっ,これは日本と同じだぞと思っていると,他の仲間みんなが違う違うと言うのです。要するに間違っていたのです。どこの国も同じですね,間違える子がいるのは。本当は2個のかたまりが3個分だと別の子が説明してくれました。

 最後の文の,別の子の説明は,「3×2と書いたら,2個のかたまりが3個分になるんだよ」なのだと理解すれば,納得がいきます。
 Q&Aの「算数と数学は違うの?」について,回答の最初の項目を完全に書き換えました。「数学的活動」という言葉は,現行より前の学習指導要領でも見かけますが,今年,文部科学省が公開した学習指導要領では,算数の最初(第1 目標)のところでも,「算数的活動」が消えて「数学的活動」が使用されています。このことは例えば,https://www.kyobun.co.jp/wp-content/uploads/2017/02/c33e44592b6634beaefde66e279aa70a.pdf#page=66の新旧対照表より確認ができます。
 回答の2番目の項目は,「[蟹江2009]」と「[中島1968]」を交換しました。それぞれより感銘を受けた記述を,書き出しておきます。

数学教育は, 数学ではない. 数学教育は, 高度に専門的な数学の知識を基本的に使用する, 専門分野のひとつである. この意味において, 私の思うに, 数学教育応用数学の一種と見なすことが有用となる. そして, 数学者が「応用数学としての数学教育」への貢献を望むのなら, 最初の課題は, 他の応用数学の場合と同様, 応用の対象領域における数学的な問題の性質, そして, この領域で有用ないし利用可能な数学的知識の形式を, 感覚的(sensitively)に理解することである.
(p.30)

こどもには,アレイも集合の直積も学習させてよいが,だいじなことは,こどもに学問のしかたを教えることであって,学問からはじめることを主張すべきではない.
(p.75)