かけ算の順序の昔話

算数教育について気楽に書いていきます。

かけ算の意味,式の意味

「資質・能力」を育成する算数科授業モデル (小学校新学習指導要領のカリキュラム・マネジメント)

「資質・能力」を育成する算数科授業モデル (小学校新学習指導要領のカリキュラム・マネジメント)

 この本で,「かけ算」(実施学年2年)の授業例がpp.36-39に載っていました。はじめの2ページにまたがって,単元計画が箇条書きになっていたので,書き出します。

(3)単元計画
かけ算(1)
 第1次 かけ算の意味
 ・「1つ分の数」×「いくつ分」のかけ算の式の意味と答えの求め方(累加)を知る
 第2次 5の段までの九九の構成
 ・かけ算の意味を基に九九の構成の仕方を知る
 ・積と乗数の関係(かける数が1増えるとかけられる数の分だけ積が増える)、交換法則、分配法則を発見的に学ぶ
かけ算(2)
 第1次 6の段~9の段の九九の構成
 ・5の段までの学習で見出したきまりを活用して、自分で九九を構成する
 第2次 かけ算の問題解決
 ・九九の構成で見出したきまりなどを活用して問題解決する(略)

 「かけ算の意味」と「かけ算の式の意味」が,書かれています。それらの違いは,明示されていませんが,語感としては,こうでしょうか。まず「かけ算の意味」に「を理解する」をつけ加えれば,文章題や絵で提示された場面に対し,子どもが「あ,これはかけ算で答えが出せる」と判断し,式で表してから,累加や九九などを使って答えを求めることと,結びつけられます。
 それに対し,「かけ算の式の意味」を「理解する」というと,式の表現と式の読みになってきます。「1つ分の数」を乗算記号の左に,「いくつ分」を右に置いて,かけ算の式で表すのが,式の表現なのに対し,式の読みとなると,4×3のような式から,それに合うようおはじきを並べるような活動が含まれます。「えんぴつを 2人に 5ほんずつ くばります。えんぴつは,ぜんぶで 何本 いりますか。」に対して,かけ算の式は2×5か5×2かというのは,式の表現と式の読みの両方を扱った討議として,授業で活用できます。
 「意味」の語が見当たらないものの,「かけ算の意味」と「かけ算の式の意味」の違いに注意した,学習指導案のPDFファイルが,以下よりアクセスできます。

 終盤に,「かけ算が使えるようにする考え方をルーブリックにより評価する。」を2重線で囲んで,1つの文章題を提示し,子どもの自由な表現を引き出す試みを行っています。文章題は以下のとおりです。

2年生は「みどり組」「白組」「赤組」の3クラスあります。
では,ふぞく小学校ぜんぶでは,何クラスあるでしょう。なるべくかんたんにもとめる
方ほうを考えて,図やしきやことばをつかってせつめいしましょう。
(ヒント 1年生は「月」「空」「にじ」「ほし」の4クラスあるよ)

 注意したいことが1つあります。3×6+1=19も6×3+1=19も,正解となっています。というのもこの学校では,1階・2階・3階に6クラスずつ*1,そして4階に4年緑組があるからです。
 どんな解答または反応をとったら,どんな評価にするかが,ルーブリック(評価指標)としてあらかじめ作成され,授業後に,どこに位置するのが何人と,集計されています。
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 ここで興味深いのは,「2」の右側に,「被除数と,除数のまちがい。」が入っていることです。文書全体で,わり算のことは書かれていませんので,これは「被乗数と,乗数のまちがい。」に読み替える必要があります。
 そうしたとき,「3クラスずつ6学年,だけど1年生だけ1クラス多い,だからしきは6×3+1=19」のような答案に対しては,2の評価になりそうだな,と読むことができます。
 また7×3+1=22は,2の評価となるのが想像できるのに対し,5+5+5+4=19は,場面はイメージできているけれどもこの基準では1の評価となっています。このルーブリックにおける0から3までの値は,「順序尺度」であることにも,留意したいものです。3と2とを分断するのは「かけ算の式の意味」なのに対して,「かけ算の意味」の理解は,2と1の境界(より正確には,「0・1」と「2・3」の分割)を定めています。


(2019年12月追記)「えんぴつを 2人に 5ほんずつ くばります。えんぴつは,ぜんぶで 何本 いりますか。」は,東京書籍の教科書に載っており,https://ten.tokyo-shoseki.co.jp/text/shou_current/sansu/files/web_s_sansu_gakuryoku1.pdf#page=2より見ることができます。
 このPDFファイルは,平成27年度用の内容解説資料ですが,今年3月検定済で,来年度から使用される教科書にも,同じ出題が収録されているのを,教科書展示会にて確認しています。東京書籍に限った話ではなく,算数教科書6社のうち4社において,2年のかけ算の単元で,a×bとb×aの違いを理解するための出題が入っていました。

 外国に目を向けると,子どもが具体的な数量をもとに,a×bとb×aの違いを説明するのに対し,先生がきちんと聞いて,拍手をうながしたり,話の整理をしたりする状況を,読むことができます。

 外国の状況については,メインブログの以下の記事もあわせてどうぞ。

*1:ある子どもの吹き出しには「1階に7クラス(以下略)」とありますが,誤記というよりは,ルーブリックにおける「学年,クラスの数をまちがって考えている」に該当する例として,記載したものと思われます。