2×3=6であることは誰も不思議には思わないでしょう.それは掛け算の定義が2×3=2+2+2だからです.つまり3倍するとはおなじものを3つ足し合わせることなのです.より一般に自然数による掛け算の定義は
m×n=m+…+m,mのn個の和
であり,特に1×1=1になります.しかし掛け算をこのように定義する理由はなんでしょうか? つまり,×にはどんな意味があるのでしょうか? 例を考えてみましょう.毎日2kmのジョギングをする人が,3日間で走る距離は2km+2km+2km=6kmです.これを2×3kmと表わしているのです.つまり,2×3とは2+2+2を簡便に表わすための記法といってもよいでしょう.このような具体的な例では,掛け算の定義には何の問題も起こりません.
(『わかっているようでわからない数と図形と論理の話 (学術選書)』p.17)
累加によって自然数のかけ算を定義すること,それによって「2×3は2+2+2」となることには,異論ありません.
しかし「2×3km」には,しばらく目を止めて,考えてしまいました.
累加によるのなら,「2km×3」と書きたいところです.すると「2km×3=2km+2km+2km」となります.
そうして,違和感の正体がわかりました.「2×3km」は,「(2×3)km」と構文解析をすればいいのですね.「2×(3km)」ではなく.
この種のかけ算の式は,教科書にもあります.
- http://ameblo.jp/metameta7/image-11120967919-11702746634.html(教科書にある,「いくつ分」×「1つ分の数」の実例|メタメタの日,http://mackie23450.blogzine.jp/blog/2013/07/post_d9d8.html#comment-55833171経由)
「学校図書小6上89頁」とのこと.あおいさんの吹き出しを,書き出します.
1番目は4人のうちの1人を決めるので,
4通りの決め方があるね。
2番目は,その1人に対して
3通りの決め方があるね。
ということは,2番目までは
4×3通り
あるんだね。
ここの「4×3通り」も,「(4×3)通り」と読むことができます.「4×(3通り)」とするのは,発言の流れから,無理があります.
ただし,「2×3km」と「4×3通り」には,意味上の違いがあります.前者は,「2km×3日間」あるいは「2km/日×3日」と考える*1ことができるのに対し,後者について「4通り×3通り」とできるとしても,パー書きの量で表すのが困難です.
これらの意味上の違いは,Greerの分類に当てはめると,もっと明確になります.「毎日2km,3日間」は同等の量(Equal measures)なのに対し,「2番目までは4×3通り」のほうは,デカルト積(Cartesian product)の一例となります.
「2×3km」と「4×3通り」を統一の枠組で,そして小学校の学習事項をもとに理解するには,「伴って変わる二つの数量の関係」を使うのがよさそうです.2行の表をつくって,どれだけ増えるかを見ていけばいいのです.これはVergnaudの「スカラー関係に基づく乗法」と密接な関係があります*2.
当ブログを設置したきっかけの一つについてもリンク: