かけ算の順序の昔話

算数教育について気楽に書いていきます。

8×3を,表から見つける

  • 山田剛史: 日常の問題に役立てたかけ算を数学内の問題に役立てる授業, 数学教育学の礎と創造―藤井斉亮先生ご退職記念論文集―, 東洋館出版社, pp.102-112 (2017). isbn:9784491034447

数学教育学の礎と創造-藤井斉亮先生ご退職記念論文集-

数学教育学の礎と創造-藤井斉亮先生ご退職記念論文集-

 「都内国立大学附属小学校第2学年の児童35名を対象に2016年11月に行われた授業」(p.103)の分析です。タイトルの中の「数学内」というのは,「学習者の立場からすると,日常の問題(数学外の問題)に役立てていたかけ算を様々な数のかけ算の答えを求めるという数学内の問題に役立てるという学習過程を経験することになる」(p.102)という文に出現します。
 数学内の問題に関して,「ねらい」(p.105)には,「23×3」や「23×5」といったかけ算の式が書かれています。いずれも,標準的には3年での学習です。例えば23×3なら,20×3と3×3に分けて計算をしてから加え,69を得ます。「一の位と十の位に分け」ることも,ねらいに含まれており,先取りの感もあります。
 しかし本文を読む限り,20×3あるいは2×3や,3×3の答えを得るのには,九九を使用していません。代わりに活用されているのは,「かけ算の表」です。この授業より前につくられた,かけ算の表の写真が,p.104で以下のとおり,図となっています。
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 いずれも,2行・任意列の表です。どの表も,左端の上下には,異なる種類の量の名称が書かれています(「何枚」の「枚」のように,2年では学習しない漢字も,使用されています)。数の並びについて,上段は「1」「2」「3」…となっています。下段は,それぞれに対応する値ですが,マスの数に対する長さ(mm)のように,九九の範囲を超えている数もあります。累加により,右に伸ばしながら数値を入れていったものと推測でき,p.105には「本授業では「同数ふえセット表」と呼ばれている」が,カッコ書きにされていました。
 ページを進めると,「かけ算の順序」の議論がありました(p.107)。

②8×3の答えを求める場面
 教師が8×3の式を示し,学習者たちは答えを求めた。このとき,1人の学習者は積を24と求めるときに図2の丸で囲った箇所を使ったと発言し,もうひとりの学習者は図3の丸で囲った箇所を使ったと発言した。このことから「あの,何枚だと,~ちゃんの折り紙の答え方(図2の答え方)だと,3個目で24って出てるけど」「そっち(図2の答え方)だと,たぶん,みんな言っているのは,3×8しているのかな,と思ってる」と8×3は図3に示されているというかけ算の表現を誤って捉えている意見が出された。そこで教師から8×3は8+8+8,8が3こ,であることを伝え,8×3は図2の丸で囲った箇所であることが確認された。
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 引用した文のうち,「そっちだと,たぶん,みんな言っているのは,3×8しているのかな,と思ってる」は,ビデオ記録からの文字起こしで,カギカッコのない「8×3は図3に示されているというかけ算の表現を誤って捉えている意見が出された」は,著者による分析と考えられます。「そっちだと…」を言った子は,図3の丸で囲った箇所が8×3だと考えたが,その後の教師の発言により(いきなり否定はしなかったでしょうが)それは誤りと,読むことができます。
 図1,図2,図3のいずれの表にも,共通点があります。「かける数」と「積」との対応表になっているのです*1。「かけられる数」は,明示されていないと言うこともできますし,上の行が1のときの,下の行の値が,実際には「かけられる数」になっています。これらに気づくと,図2の丸囲みは8×3=24なのに対し,図3の丸囲みからは3×8=24を,効率よく読み取ることができます。
 ところで図2の上段左に何が書かれているのか,理解するのに苦労しました。どうやら「何こ」です。「何」の下に「~」と縦線があり,「1」と書いてしまったのを,波線で訂正したものと思われます。子どもが書いたのだと解釈すれば,「枚」を用いたことも,納得が行きます。

*1:「上の段×定数=下の段」という捉え方は,この授業では期待されていません。学習するとすれば4年です:http://takexikom.hatenadiary.jp/entry/2017/09/11/215947