かけ算の順序の昔話

算数教育について気楽に書いていきます。

東京新聞「日本の算数・数学 大丈夫?」を取り上げたブログ記事

 いくつか検索語を与えて,上位に出てきた記事です。いずれも,小学校教師ではなさそうです。自分の教えている範囲で,あるいは地域や日本全体で,小学校算数で「割合」「速さ」を学んだり,問題を解いたりする中で,「はじき」「くもわ」がどのくらい使われているかを,知ることもできません。筑波の算数の「算数授業研究」あたりでそのうち,「『はじき』『くもわ』が新聞記事になったが…」とマクラに使われながら,小学校であるべき/なされてきた,「割合」「速さ」の指導が文章になるのかなとも思います。
 ところで,上に並べたうち最後の記事には,「弟は、家から学校に毎分120mの速さで出発し、兄は忘れ物を届けるために10分後に家を出発し、毎分200mの速さで追いかけた。兄が弟に追いつくのは兄が出発して何分後か、求めなさい。」という問題をもとに,はじき図をそのまま使えますかと疑問を投げかけています。
 なのですがこの問題は,「速さ×時間=距離」と,中学1年の「文字を用いた式」「一元一次方程式」を用いれば答えが求められます。具体的には,兄が出発してx分後に追いつくとしたとき,120(10+x)=200xと表せます。わり算も,「はじき」も不要なのが,意図*2されています。
 それと,この「弟は…」の問題は「旅人算」として中学受験で知られており,例題や解き方などを,wikipedia:旅人算より見ることができます。小学校の算数の解き方と,中学校の数学の解き方との違いを知る機会*3ともなりまして,結局のところ,「はじき」で解けない(解くことが困難)という主張に旅人算を持ち出すのはミスリードということです.
 この問題にせよ,東京新聞記事中の「15分間で30キロメートル進んだ時の時速は」「2億円は50億円の何%にあたるか」にせよ,間違えやすい問題であり,特定の解き方しか知らない子には手も足も出ないと言うための例示である一方,では実際にどのくらいの児童・生徒が正解にたどり着いているのかについては,情報を得られそうにありません。
 速さに関しては,東京都算数教育研究会の学力調査で,問題文と正答率,指導にあたっての注意などが公開されています。問題文は以下のとおりです。

2時間で240km進むA列車と、3時間で420km進むB列車があります。
(1) A列車の時速を求めましょう。
(2) この2つの列車が同時に同じ方向に走り出したとすると、5時間後に進んだ道のりのちがいは、何kmになりますか。

 http://tosanken.main.jp/data/H28/gakuryokuzittaityousa/h27jittaityousa_kousatu_6nen.pdf#page=2より読むことができます。平成27年度の調査人員(解答者数)は64,398人で,「はじき」の適用で解くことのできる(1)の正答率は91%,「はじき」では困難で,旅人算と同様の数量関係の把握を必要とする,(2)の正答率は77%となっています。他の出題と比較して,まずまずの出来ではないでしょうか。


 東京新聞の記事の末尾,「デスクメモ」の中に「足し算の文章題」のことが書かれています。メインブログから,過去のやりとりを見直すと,2012年に盛り上がっていました。

 次に盛り上がったのは2015年です。

 書籍や論文を通じて知ることのできる,海外の算数教育や授業でも,a+bとb+a,a×bとb×aの対比が試みられており,答えは同じでも意味は違うことを重視しているのを,以下にて整理しました。

*1:東京新聞記事の本文も書かれていますが,デスクメモにいくつか誤記が見られ,手打ちではないかと思われます。

*2:「速さ×時間」に基づく,小学算数のかけ算の式を,中学数学の文字式にする際には,「×」を取り除くだけでよく,左右をひっくり返すことをしていません。これも,混乱を生じさせないことに寄与します。左右をひっくり返す事例については,http://takexikom.hatenadiary.jp/entry/2017/06/25/050555をご覧ください。

*3:鶴亀算の,小学算数・中学数学の比較は,中山理『算数再入門』isbn:9784121019424より読むことができます。