かけ算の順序の昔話

算数教育について気楽に書いていきます。

割合を表す文字はPかpか

 いわゆる割合の第2用法について,次期『小学校学習指導要領解説算数編』では「B×p=A」という式を記載しているのに対し,現行の解説では「B×P=A」です。2015年に出版された複数の書籍で,小文字のpが採用されているほか,割合は,基準量および比較量とは異なる種類の量であることが分かりやすくなっています。


 書店で以下の本を見かけ,購入しました。

改訂新版 算数科教育の基礎・基本

改訂新版 算数科教育の基礎・基本

 目次より前の「はじめに」(p.2)によると,2010年に『改訂版 算数科教育の基礎・基本』を出していて,さらに改訂したものとなっています。巻末に近いところ(pp.134-135)では,平成29年の学習指導要領改訂の目標や算数科の内容,領域の変更などが,まとめられています。
 かけ算の解説は,pp.28-29より読むことができたものの,ここで特に取り上げる情報はありませんでした。それよりも,割合の解説に,興味深い説明がありました(p.97)。

 割合の3用法は,整数の乗法や除法から小数・分数の乗法・除法へと意味を拡張したものである。一般に,乗法では整数「倍」から割合の第2用法へ,除法では「包含徐」から割合の第1用法へ,「等分徐」から割合の第3用法への意味の拡張になる。
 つまり,乗法・除法を2つの量とそれらの割合という3つの要素の間の関係として,捉えるのである。まず,くらべる量(「比較量」,「全体量(全体だから1などと誤らないように使うこと)」,「割合に当たる量」などともよぶ)をAとし,もとにする量(「基準量」「単位量」「1とする量」ともいう)をBとして,割合をPとすると,次のような3つのパターンがある。

 文字で軽くびっくりします。「包含徐」「等分徐」は原文ママで,引用よりあと(同じページ)にも1回ずつ,出現します。そしてこの語句は,次期解説のp.146*1にも入っています。
 今回見ている本は,次期学習指導要領に対応したものだから,もとの情報の誤記に見えるものもそのまま,採用したのだと考えるなら,今度は,割合に対応するアルファベットが大文字のPであることに,違和感を持ちます。
 現行の解説では,AとBとPを用いて,割合の第2用法(小数の乗法の意味)は「B×P=A」ですが,次期解説では,割合に対応する文字は小文字のp*2であり,かけ算の式は「B×p=A」です。
 次期解説において,割合を表す文字がPからpになったのは,例えば2015年に復刻版が出た,中島健三の『算数・数学教育と数学的な考え方』*3が影響したと考えることもできます。中島氏が編集に関わっていないものでも,同じ2015年に出版された本で「A=B×p」と表記している本を,三用法は,掛算順序自由と両立するのかで取り上げていました。
 小文字にすることで,AとBが同種の量,pはそれらと異なる値,と区別することもできます。これは日本の算数に限った話ではなく,例えばGreer (1992)の分類表*4において,1つのかけ算と2つのわり算で構成されている7つの場面では,いずれも,かけられる数とかけ算の答えが同種*5で,かける数はそれらと異なっています。
 ただし,pに対応するのは,「0.4」や,「\frac{3}{4}」や,25%を小数で表した「0.25」のように,純粋な数(無次元量)であるほか,「1メートルの長さが80円の布を0.8メートル買ったときの代金」における0.8のように,具体的な量(0.8メートル)の数だけの部分となることもあります。純粋な数にせよ,量に含まれる値にせよ,例えば2重数直線で表したとき,「1」の何倍かを表すことになり,「1メートルで80円なら,0.8メートルの代金は80円の0.8倍」,そして80×0.8という式に至るわけです。
 B×p=Aの式において,Bはbase(基準(量)),pはproportion(割合),Aはamount(全体(量))の頭文字と解釈できます。小学校の算数から離れますが,先に述べたGreerの分類表で,1つのかけ算と2つのわり算で構成されている3つの場面については,A×B=Pとしたいところです。AとBは別個の2つの量(「Aさん」と「Bさん」のようなもの),そしてPはproductです。

*1:http://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/micro_detail/__icsFiles/afieldfile/2018/05/07/1387017_4_3.pdf#page=71

*2:http://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/micro_detail/__icsFiles/afieldfile/2018/05/07/1387017_4_3.pdf#page=164。なおここは「小数の乗法の意味」となっています。「割合」は,同じ第5学年で,別の領域となっていますが,その解説では,AもBもpも(Pも)使用していません。

*3:isbn:9784491031309, https://takehikom.hateblo.jp/entry/20150720/1437344285

*4:http://d.hatena.ne.jp/takehikom/20131226/1387983600

*5:ただし,「割合(Rate)」の「毎秒4.2メートル」については,4.2 m/sという1個の量(いわゆる内包量)ではなく,「1秒間に4.2メートル」と読み替える必要があります。