かけ算の順序の昔話

算数教育について気楽に書いていきます。

等分除の拡張の実態調査

 上記文献はhttps://twitter.com/seiya_sasaki/status/1601577055119736832をきっかけに知りました.題目には「等分除とその拡張」と表記されていますが,本文内には「等分除の拡張」も書かれています。該当する段落を取り出します(p.2)。

(略)なお,本稿でいう「等分除」や「等分除の拡張」について,簡単に説明しておく。「等分除」とは,例えば,「45個のりんごを9人で同じ数ずつ分けると,1人分は何個ですか」のように,自然数で等分できる場合のわり算のことで,「ある数を幾つ分かに等分して,1つ分の数量を求めるわり算」を指す(日本数学教育学会,2000,p.13;2010,p.205)。また,「等分除の拡張」というのは,除数を自然数から小数や分数へと拡張してわり算を考えることであり,この場合には,「1に相当する大きさ」を求める計算として,等分除を見直すことが求められる(日本数学教育学会,2010,p.307)。

 「日本数学教育学会,2000」は[isbn:4491016445]Kindle版あり),「日本数学教育学会,2010」は[isbn:9784316802640]*1と思われます。前者は手元にありませんが,『小学校学習指導要領解説算数編』で補完できます。今回の文献は平成20年告示の小学校学習指導要領に基づいていますので,文科省サイトより,https://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/micro_detail/__icsFiles/afieldfile/2009/06/16/1234931_004_2.pdf#page=107にて「P等分した一つ分の大きさを求める」「1に当たる大きき(基準にする大きさ)を求めている」を見つけることができます。現行の解説だとhttps://www.mext.go.jp/content/20211102-mxt_kyoiku02-100002607_04.pdf#page=246です*2
 当ブログでは,速さの包含除・等分除にて,「12kmを4時間で歩いたときの速さ」と「12個のあめを4人で同じ数ずつ分けたときの1人分の個数」が同じ二重数直線で表現できることを例示しています。あめの話で,「3.6人」などと,除数を小数にすることわけにいきませんが,速さについては長さも時間も,整数・純小数・帯小数のいずれにすることもできます。
 今回の論文について,引用・参考文献の多くを過去に読んだことがあり,また1.1節(問題の所在)についてもスムーズに読み進められました。調査としては「等分除とその拡張」に特化した上で,【問題文の諸条件】(p.3)で「小÷大」のほか「被乗数と除数の順序」を考慮した出題も用意されていること,また「答えを求める式がわり算にならない問題(加減上の問題)を“ダミー問題”として加えて」(同)いることにも,好感を持てました。
 二重数直線を含む出題について違和感があったので,以下に記録しておきます。

  • 「図や数直線が併記されなくても既に高い正答率となっている「小数のわり算」の問題においては,図や数直線がむしろノイズになり,結果として,正答率の低下を招いたことが推察される。」(p.15)に関して,二重数直線を出題に含む小数の等分除の問題はP18で,小6・中1がいずれも解答し,p.10の表7によると小6正答率は72%,それに対し二重数直線を含まないものはP16で正答率は80%です。問題文を読み比べてみると,P16は「リボンを2.4m買ったら,代金は360円でした。」から始まっており,算数の授業でも,また経験上も,360をわる数にすることへの抵抗が大きくなり,結果として,正答(360÷2.4)を得やすくなります。P18は「長さが3.2mの鉄の棒の重さは11.2kgでした。」から始まり,3.2÷11.2の誤答にもなりやすいと考えられます。
  • 「正答率が低い「分数のわり算」の問題では,教科書や授業で比較的利用されている数直線が「分数のわり算」の理解に一定程度の好影響を与え,正答率の底上げにつながったものと推察できる。」(p.15)に関して,二重数直線を含む分数の等分除の問題はP29で,中1の半分が解答しています。場面は同一で二重数直線がない問題はP28で,中1の残り半分です。P29は問題場面と二重数直線の直後に,「重さ□長さ=1mの重さ」の□に+-×÷のいずれかを入れるという誘導問題が入っており,これが,式の正答率向上に影響しているように思われます。

*1:第五版[isbn:9784316804620]ではp.185に「整数の除法の拡張として包含除と等分除による導入を考える。」という文がありますが,あとは「拡張」という言葉はなく,かわりに「包含除の考え」「等分除の考え」と表記しています。「包含除の考え」「等分除の考え」は,一つ前および現行の小学校学習指導要領解説算数編でも使用されています。

*2:(解説のつかない)小学校学習指導要領と対応する事項は,当時がhttps://w3id.org/jp-cos/7250253131000000,現在はhttps://w3id.org/jp-cos/8250253132100000です。