かけ算の順序の昔話

算数教育について気楽に書いていきます。

「割合の深い理解」の調査問題を,数直線図で

 この中のpp.81-82の調査問題が興味深い内容でした。理由は2つあり,一つはp.81の左カラムに「これらの問題を理解し解決できることが,筆者らの目指す「割合の深い理解」に相当すると考える.」と記されていること,もう一つは小数の乗法と除法,そして割合・百分率を学習した,小学5年生でも解くことができる内容なのでした。
 すべて,二重数直線をベースに図で表し,解いてみました。

大問1

  • 定価2000円のケーキを30%引きで売るとき,割引後の価格はいくらになりますか.

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式 2000×0.7=1400
答え 1400円

大問2(抜粋)

  • ある会社のサケの缶詰は,今年から内容量が20%増量して180gで販売されています.昨年までの内容量は何gでしょうか.

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式 180÷1.2=150
答え 150g

大問3(1)(題意を変えない範囲で改変)

  • フィンランドのおよその国土面積は34万㎢で,日本のおよその国土面積は38万㎢です.日本の国土面積を基準にするとき,フィンランドの国土面積のおよその割合を求める式を書きなさい.

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フィンランドの国土面積のおよその割合を□とすると,38×□=34なので,□=34÷38

大問3(2)(題意を変えない範囲で改変)

  • フィンランドのおよその国土面積は34万㎢で,日本のおよその国土面積は38万㎢です.フィンランドの国土面積を基準にするとき,日本の国土面積のおよその割合を求める式を書きなさい.

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日本の国土面積のおよその割合を□とすると,34×□=38なので,□=38÷34

大問4

  • A中学校では,全校生徒の30%が自転車通学で,そのうちの60%は男子です.自転車通学をしている男子は,全校生徒の何%ですか.求め方と答えを書きなさい.

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男子=全校生徒×0.6
自転車通学をしている男子=男子×0.3=(全校生徒×0.6)×0.3=全校生徒×(0.6×0.3)=全校生徒×0.18
答え 18%

大問5(抜粋)

  • A動物園における2015年から2017年までの年間入場者数を調べました.2016年の入場者数は2015年の入場者数に比べて10%増えています.逆に,2017年の入場者数は2016年の入場者数に比べて10%減っています.2017年の入場者数は,2015年の入場者数と比べるとどうなりましたか.

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2016年度の入場者数=2015年度の入場者数×1.1
2017年度の入場者数=2016年度の入場者数×0.9=(2015年度の入場者数×1.1)×0.9=2015年度の入場者数×(1.1×0.9)= 2015年度の入場者数×0.99
答え 減った
これは「損益算」です*1

大問6

  • A町の全面積に対する森林の面積の割合を調べたら,10年前は50%でしたが,今年は30%でした.10年前の森林の面積を基準にすると,今年の森林の面積は何%減少したでしょうか.求め方と答えを書きなさい.ただし,10年前と今年でA町の全面積は変わっていません.

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10年前の森林の面積を1としたときの今年の森林の面積の割合を□とすると,50×□=30なので,□=30÷50=0.6
10年前の森林の面積を100%としたときの今年の森林の面積は60%である.100-60=40より,40%減少している.
答え 40%

問題と解き方の一覧,ほか

 ここまでの問題および解き方は,PowerPointで作成し,PDFに変換して,Googleドライブよりファイルを共有(ダウンロードできるように)しました.

 ところで,本記事冒頭の文献のp.85には,次の記述があります.

類型4の「数直線図」は,2(1)の正答者に限定すれば1人もいなかった.不正解の解答を含めても,中1で1人のみであった.算数教科書で扱われている説明にも関わらず,2本の数直線図をかかない生徒が大多数であることから,指導者が有効なツールであると感じていても,子どもは必ずしもわかりやすい図とは感じていない実態が明らかになった.小学校での図の活用のあり方についても検討する必要がある.

 この文献,および翌年のhttp://doi.org/10.14945/00027105の文献を通して読み,今回の調査問題を小学生に解かせた形跡が(参考文献にも)ないのが気になりました.
 子どもが文章題に対して数直線図を使用している事例は,今年出版された資料の中にあります。

 分数のわり算で,p.65,【図4】「十分満足できる」状況の記述例として,数直線図の絵と,「数直線図」という手書き文字が,入っています。

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 この図のすぐ上には,【図2】「おおむね満足できる」状況の記述例と,【図3】「十分満足できる」状況の記述例があります.図を描ければよい,というのではないのは,p.66の「【図4】の記述には」から始まる文とその次の段落から見て取ることができます。
 Googleドライブに置いたPDFファイルでは,1ページ目に次のように書きました。

  • 上記文献では,2(2)で数直線図の使用が皆無であることを報告していますが,小学校の算数で利用可能な(より正確には,利用が推奨されている)手法と中学・高校の数学のそれが異なるというだけの話です.翌年の紀要を見ても,小学生に解答させていないのは残念なところです.

 小学算数と中高数学との違いは,例えば,『算数再入門』*3のpp.174-180で読むこともできます。他の教科からだと,英語,それも英単語はどうでしょうか。中学と高校の違いです。単語"could"の意味はというと,まずは「できた」や「canの過去形」です。しかし高校の英語でcouldの用法を学ぶときには,辞書を引き,教科書などでの出現(そして文脈)をもとに,意味を考えることになります。その際に,「couldは中学で習った」という,生徒のつぶやきは,あってもいいでしょう。しかし,中学の何年の教科書の何ページに,どのように書かれていたかまで,思い出させることはないのです。高校の学習において,中学で学んだことを持ち出さないからといって,中学の英語の教科書は(あるいは中学での学びは)不要だ意味がないのだと,主張するわけにはいきません。「割合の深い理解」として,中学生・高校生が解答した調査問題においても同様です。