かけ算の順序の昔話

算数教育について気楽に書いていきます。

2021年のLSとDNL

 LSはLesson Study(授業研究),DNLはDouble Number Line(二重数直線)の略です。
 ツイートで本を知り,Kindle版を購入しました。

 なのですが,https://books.google.co.jp/books?id=bHnpDwAAQBAJ&hl=jaの「書籍のプレビュー」からでも(すべてではないですが)無料で読むことができます。
 Kindle版の巻頭(目次の前)には,「First published 2021」「© 2021 Rosa Archer, Siân Morgan and David Swanson」と書かれていて,驚きました。しかし実際の出版年としては,AmazonGoogleブックスで表示されているとおり,2020年と見るべきでしょう。3名の著者はみな,英国マンチェスター大学の所属となっています。
 "lesson study (LS)"と書いて,以後はLSで授業研究を表すのは,前書きと,1章の最初のページに出てきます。
 1章には,いくつかの言葉が斜体字になっていました。いずれも,日本の指導方法に由来するものです。出現する語句と,(本書にはない)対応する日本語は次のとおりです。

  • kyozai:教材
  • kenkyu:研究
  • kenkyu jugyou:研究授業
  • kenkyu kyougikai:研究協議会(会や組織ではなく,研究授業実施後の意見交換のこと)
  • koshi:講師(研究授業の指導者や,研究協議会におけるコメンテーター。"knowledgeable other")
  • kikan-shido:机間指導
  • hatsumon:発問
  • neriage:練り上げ("pronounced with a hard 'g'"がカッコ書き)
  • matome:まとめ

 4章に移ります。章題は"Proportional relationships and the double number line"で,訳すなら「比例関係と二重数直線」です。章の最初の文(p.63)には,"Within this chapter, we describe a lesson where the Double Number Line (DNL) was used in order to develop multiplicative and proportional reasoning."(この章では,かけ算の考え方・比例の考え方を育成するための二重数直線(DNL)を用いた授業について述べる)とあります。
 「二重数直線は,こんなのです」という写真は,p.64です。

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 この図から,「?=6.7×8.7」を認識することができます。なお「かけ算の順序」としては,乗数は乗算記号の右とする表記を採用しており,章を読み進めると「×1.5」というのも出てきます。乗算記号を省略する,文字式においては,その限りではなく,他書を紹介する中で"x→1.5x, or y=1.5x"というのが書かれています。
 興味深い,かけ算の関係も,この章にありました(p.69)。

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 本文ではある生徒が発言しており,和訳すると「Aは1リットルで216円ですが,Bは2リットルで420円,これは1リットルだと210円ですので,Bのほうがお買い得です」となります。
 Figure 4.5を見直してみると,「1L 216 yen」と「2L 420 yen」は,比例関係になっていません。かさを1リットルから2リットルにしたとき,値段は(ちょうど)2倍ではないのです。
 とはいえ「1L 216 yen」と「2L 420 yen」のどちらがお買い得("better buy")かは,Figure 4.5からはただちに分かりません。この次のページには,「2リットルで420円のとき,1リットルだと何円か」を表す,作成途中の二重数直線の写真が載っていました。
 4章のはじめに戻りまして,この章は,著者の一人(Archer)が日本の授業を参観して得た経験であることが書かれています。章末の文献リストの最初のものは,ダウンロード可能でした。

 訪問先は東京学芸大学です。この訪問報告ではFujii (2014)という文献が引用されていますが,連想するのは藤井斉亮氏(東京書籍の算数教科書の編集代表者で,現在は東京学芸大学名誉教授)です。
 4つの写真は,授業の実際の状況なのに対し,p.39の右カラム中央の二重数直線は,著者が作成したものと思われます。

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 問題は,「Aさんの家から学校までは4kmあります。我が家から学校までは3kmあります。これと比較して(我が家から学校までの道のりを基準として),Aさんから学校までの道のりは何倍ですか」と表せます。図について,「4」まで伸びている方のテープは,Aさんの家から学校までの道のり(比べられる量)です。「3」まで伸びている方のテープは我が家から学校までの道のり(もとにする量)です。そして"Times"(割合)は,3kmのほうを1と対応付けます。「4÷3=4/3」の計算により,4kmのほうの割合は,4/3となります。
 冒頭の本の4章の途中,"Suggested reading"として紹介されている文献*1からも,さまざまな形態の二重数直線を見ることができました。2つの(横向きで,右に行けば大きくなる)数直線どうしの対応付けについて,「縦線を入れないもの」「0だけ縦線を入れて揃えているもの」「0および着目する数量ごとに縦線を入れているもの*2」「帯図*3にしているもの」といったバリエーションがあるわけで,機会を設けて,国内外の文献整理をしておくのがよいように思えてきました。

*1:ただしそこに記載のURLでは,うまくアクセスできませんでした。https://nottingham-repository.worktribe.com/output/999043から,PDFが無料でダウンロードできました。

*2:Aecher (2016)にホワイトボードの写真が載っていますが,PDFで見ている限り,鮮明とはいえません。代わりに『小学校学習指導要領(平成29年告示)解説算数編』のp.239,https://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/micro_detail/__icsFiles/afieldfile/2019/03/18/1387017_004.pdf#page=245にある図が分かりやすいです。

*3:http://takexikom.hatenadiary.jp/entry/2018/05/03/024253でも紹介しています。