かけ算の順序の昔話

算数教育について気楽に書いていきます。

4×8=32という計算で答えを出すようなお話をつくってください


 画像の下半分,「子どもがつくった問題の例」として,書かれているのは,次の3つです。

  • 「スズメが4わいるでんせんに8わとまっていました。でんせんにはなんわとまっていますか」
  • 「りんごが4つあって、8つのなしをかけたらいくつでしょう」
  • 「パンが4つありました。8人にあげるには何こ必要ですか」

 そしていずれも,「4×8=32という計算で答えを出すようなお話」になっていません*1
 しかしながら,「8×4」の式というわけでもありません。前後のツイートを見ていると,「かけ算の順序を間違っている子ども」の提示という意図ではなさそうです.
 画像の右上の「放送大学」と,左上の「教育・学校心理学」を組み合わせると,次の授業,そしてテキストであることが分かりました。

 画像の下段には「佐伯 胖(1989) 子どもの納得世界を探る 佐伯他(著)「すぐれた授業とはなにか―授業の認知科学―」(pp.49-109)東京大学出版会から作成」と書かれています。本棚に,この本がありました。

 読み進めると,p.52に,「4×8=32という計算で答えを出すようなお話をつくってください」の調査課題と,3年生・6年生の正答率のほか,誤答となるお話が7つ,書かれていました。

 私たちが横浜市の長坂敏彦先生の協力で行った調査で、横浜市内の三年生から六年生までの子どもたちに「4×8=32という計算で答えを出すようなお話をつくってください」と言って作問させたところ、きちんと意味のある文章題がつくれたのは三年生で四四%、六年生で四八%でした。あとはほとんどナンセンスと言っていいものばかりです。たとえば、「すずめが四わいるでんせんに八わとまっていました。でんせんには何わとまっていますか」(三年)とか、「四ほんのリボンがあります。八人の子どもにわけたいとおもいます。リボンは何本あればいいでしょう」(五年)とか、「パンが四つありました。八人にあげるには何こ必要ですか」(六年)などはまだいい方です。「四人が八人いました。かけると何人になるでしょう」(三年)、「りんごが四つあって、八つのなしをかけたらいくつでしょう」(五年)、「りんごが四つあります。バナナがいくつかあります。答えが三二だとすると、バナナはいくつでしょう」(六年)などというスゴイのもあります。あるいは「ある人がみかんを四こ持っています。もう一人がみかんを八こ持っています。このみかんの積を出しなさい」(六年)なんていうのもあります。
 このような作問をするのは、彼らに作文力がないために、「本当はわかっているのだが、うまく文章に表現できないのだ」という可能性もあるので、実際に彼らのつくったナンセンスな問題を、まったく別のクラス(五年生)で、正常な問題に混ぜて与えてみました。

 7つのいずれにも,「8×4=32」だから間違いというものはありませんでした。放送大学で紹介されている3つの問題の例のうち,「スズメ」と「パン」の件は*2,「まだいい方」としています*3
 引用した文章では,最初の文の「調査」の右に,(1)の番号がついていました。巻末の記載と少しの検索を通じて,以下の文献であることが分かりました。

 しかしこの文献(特定研究成果報告書)は,手元にありません。
 メインブログ(わさっきhb)の記事を見直すと,この報告書を出典とした本を,取り上げていました。

3.5 子どものつまずきと授業づくり

小学校教師の主人公が,教室の児童,同僚や大学教員とコミュニケーションをとりながら成長していくフィクション『子どものつまずきと授業づくり』では,実際になされた調査をもとに,「4×8の計算で答えを出す問題(お話)を作って下さいっていう問題」を取り上げている.
正しく問題を作れたのは、50%弱で,学年の違いはない.そして,「式を逆にして問題を作った子どもが、どの学年でも15%くらいいるでしょ。かたいことを言わなければ、これもまあ正解だよね。そこまで正解とすると、三年生から六年生までどの学年でも、65%くらい」と大学教員が話している.
「実際になされた調査」の出典は以下のとおり.

かけ算の順序問題のための文献・情報源

 この著者(麻柄)は,特定研究成果報告書を読んだ上で,取り入れたことが,推測できます。「正しく問題を作れたのは、50%弱で,学年の違いはない」は,佐伯(1989)の記述,そして放送大学の内容と合致します。そして「式を逆にして問題を作った子どもが、どの学年でも15%くらいいるでしょ。」は,佐伯(1989)や放送大学の中では,出現しないものの,この報告書の中には記載されている可能性が高いです。
 「式を逆にし」たのが「15%くらい」というのは,昨年,米国の本を読んだ中にも入っていました。アメリカで7×3の絵を描かせるとのおわりのほう,"Kristen demonstrates a common confusion, shared by about 15 percent of the third graders surveyed."と「クリスティンはよくある取り違えを示している。調査においてこのような解答をした3年生は約15%に及ぶ。」のところです。
 正解率などの定量情報は書かれていないけれども,作問課題で式を逆にしている事例について,メインブログにリンクしておきます。

*1:例えば,「1本の電線に,スズメが4羽います。そのような電線が8本あります。スズメは全部で何羽いますか」「リンゴが4つ,ナシが8つあります。どれも産地が違います。リンゴとナシを1切れずつ取って食べ比べをします。何通りの組み合わせが考えられますか」「パンを1人に4つあげます。8人にあげるには何個必要ですか」とすれば,いずれも,4×8=32という計算で答えを出すお話になります。

*2:最初の公開時に「りんご」も,「まだいい方」に入れていましたが,勘違いでした。ところで「りんご」と類似した作問事例を,https://takehikom.hateblo.jp/entry/20121222/1356112738で取り上げています。McIntosh (1979)の調査で,"Tim had 6 books Marg had 3 books=6×3"と"In the farmyard there were 6 chickens and 3 pigs. My father said six times three is 18."の文です。

*3:この作問課題や,ナンセンスな問題を解かせた件の総括は,p.58にあります:(略)学校算数での「確かめ」というのは、「正しい手順に従って答えを出したか」という点に焦点が当てられ、「現実的な意味」との照合がなされることがないわけです。そこから、学校算数では、長坂先生の調査に見られるように、「意味のない文章題」を作問したり、「解けるはずのない問題」を平気で解いてしまうようなことも当然起こり得ることなのでしょう。