比例的推論(比例の考え方,proportional reasoning)といえば,「伴って変わる2つの量があって,一方の量がa倍になったら,もう一方の量もa倍になる,と考えること」と認識していたのですが,「ピアジェ流派」において加減乗除の関係が考えられてきたというのには少し驚きました。上の本のpp.199-200より抜き出します(該当箇所(第9章第3節)の執筆者は中和渚)。
3.3 比例的推論
割合や単位量あたりの大きさに関する問題の解決のために必要な数学的な考え方の一つとして比例的推論があります。比例的推論は,小学校算数科における集大成の思考であり,かつ,数学における高次の思考の最も基礎となる重要な考え方です。過去に,「比例的推論とは何か」という問いについて様々な論争がありました。ピアジェによれば,比例的推論の特徴としては2つの直接認知できる量同士の関係ではなく,2つの関係の関係性を考える,二次的な関係を含むものだとされてきました。ピアジェ流派では児童らの比例的推論をa-b=c-dと捉えていましたが,その後,a-b=c-d,あるいはa+b=c+dのような加法的な方程式で特徴づけられる問題で行う数学的考え方は,比例的推論とは言えないということになりました。それではa・b=c・dという乗法的な解決の思考が比例的推論だとされてきたのでしょうか。そうではなく2つの実数間の表現だと言えるで表される関係(4つの数の関係)が,比例的推論であるとされています。わかりやすく言えば,比例的推論は2つの量で一方の量がa倍になるときもう片方の量がb倍になるという,2量間の比例関係を前提として,未知の量を求めたり量を比較したりするということ,またそれに準ずる考え方を指しています。
ただし,引っかかるところもあります.まず比例的推論を「数学における高次の思考の最も基礎となる重要な考え方」としていますが,例えば中学の数学では,一次関数や*1など,比例で考えることのできないタイプの関数も学習します.比例的推論やの式と密接に関係し,中学数学で学習するのは,比例式(a:b=c:d)です。
もう一つ,「2つの量で一方の量がa倍になるときもう片方の量がb倍になるという,2量間の比例関係」は,に引きずられた誤記と思われます。「p倍...p倍」のように,同じ倍率にしないといけません。
今回取り上げた本には,「はじき」の字句や図は見当たりませんでしたが,p.200に書かれた「公式を使って,機械的に数的な処理ができることだけが教室の中での実質的な目標として捉えられてきた声を疑問視する声もあります。」の文は,「はじき批判」を学術的に表記したものであるように見えます。
「ピアジェ 比例的推論」で検索しまして,以下の文献を知りました。この文献では「比例的推理」と表記しており,「内包量比較」と対比する概念となっています。
- 藤村宣之: 児童期の比例概念の発達における領域固有性の検討, 教育心理学研究, Vol.41, No.2, pp.115-124 (1993). https://doi.org/10.5926/jjep1953.41.2_115
*1:解説のつかない中学校学習指導要領の数学https://erid.nier.go.jp/files/COFS/h29j/chap2-3.htmを見ると,「一次関数」には式がなく,「関数」については「2乗に比例」といった表記は見当たりません。