かけ算の順序の昔話

算数教育について気楽に書いていきます。

はじき批判(4): 『数学的な見方・考え方が育つ 整理整頓の算数の授業』(2021)

▽第5学年「速さ」の指導と子どもにとっての難しさ
 第5学年の「速さ」の授業を例にします。「速さ」は、子どもにとって理解が難しい教材と言われます。私は、大学生にも算数科教育の講義を行っていますが、彼らに「速さ」の授業の思い出を聞いてみたことがあります。驚いたことに大学生の多くは、下の図を先生に与えられ「はじき」や「きはじ」、「きじは」という言葉を覚えたというのです。ところが、彼らは「その意味はよく覚えていない」と言います。実際には、それぞれの言葉は次のような意味を表すのでしょう。
 ○「はじき」
  速さ(は)×時間(じ)=距離(き)
 ○「きはじ」
  距離(き)÷速さ(は)=時間(じ)
 ○「きじは」
  距離(き)÷時間(じ)=速さ(は)
 つまり、彼らの中に残っているのは、速さと時間と距離の関係を表した「言葉」の記憶なのです。「小学生のときは、この言葉を問題にあてはめて解いていたけど、何をしているのかよくわからなかった」とも言いました。このような「速さ」に関する理解の実態は、おそらく大学生の彼らだけに限ったことではないでしょう。事実、現在の小学校現場でも、このような言葉を覚えさせる授業があると聞いたことがあります。このような言葉の「記憶算数」は、「速さ」の理解を促すための根本的な授業改善の手立てではありません。指導した教師はおそらく「速さ」がよくわからない子どもに対して対処療法的に教えたのでしょう。
(pp.127-128)

 「下の図」はp.127の右下に配置され,円を,上・左下・右下に分割して,上には「距離(き)」,左下には「速さ(は)」,右下には「時間(じ)」の各語句が書かれています。
 改善授業の案として,「速さ」の学習の導入教材に「電卓」を使用しています。「1++===…」と打つことで,表示される数値がカウントアップしていきます。これをもとに,子どもたちは,教師が決めた時間に何回打ったかを測定します。基本となるアイデアは,「「速さ」の導入で扱う量を連続量(距離)から分離量(キーを打った回数)に変えてみること」(p.130)にあります。「打った回数」と「時間(秒数)」から,速さを求めたり,(時間を変えた)異なるグループとの比較をしたりしています。一般的な走る「速さ」は,その次の時間の授業で扱っています。