かけ算の順序の昔話

算数教育について気楽に書いていきます。

かける 数と かけられる 数

 第5章を重点的に読みました。章題(かける数とかけられる数は同じだった?)については,pp.76-77で,イラストを交えて,詳細が書かれています。5×3と書いたら,5がかけられる数,3がかける数だけれど,「(3を)どの数にかけるの?」「(3を)かける数はどれなの?」と問うことで,「(3を)かける数は5」だよという答えになる,としています。同様に,「(5に)かけられる数」が「3」になります(pp.78-79, p.84)。
 同書から離れます。「(3を)かける数」について,「3を」は「かける」を修飾し,「かける」は「数」を修飾するという関係になっています。「(5に)かけられる数」も同様で,「5に」は「かけられる」を,「かけられる」は「数」を修飾します。
 算数の知見に基づくと*1,「かけられる数」と「かける数」は,英語のmultiplicandとmultiplier,熟語の「被乗数」と「乗数」にそれぞれ対応する概念であり,学習者((日本の)小学生)向けに表記したものと言えます。修飾・被修飾の関係は,もはやなく,複合語となっています。
 小学校学習指導要領(平成29年3月告示)の算数を機械検索すると,「被乗数」「乗数」は出現しますが,「かけられる数」「かける数」はヒットしません。「かけ算」もなく,「乗法」です。ただし「かける」「かけても」が1箇所ずつ見つかります。
 複合語であることの傍証は,啓林館の乗法に関して成り立つ性質|算数用語集より見ることができます*2
 2年までの教科書では,文節ごとに空白が入るものが多いです。上記ページの画像(教科書の抜粋)は,次のようになっています。「かける 数」ではなく「かける数」,「かけられる 数」ではなく「かけられる数」です。

かけ算では,かける数が 1 ふえると,
答えは かけられる数だけ ふえます。

かけ算では,かけられる数と
かける数を 入れかえても
答えは 同じです。

 『算数教科書のわかる教え方 1・2』の中で見ることのできる,学校図書の教科書では,「たされる数」「たす数」「一のくらい」「十のくらい」について,文節区切りの空白がありませんでした。
 啓林館の『わくわく算数2上』も同じ表記でした。空白入りの記述に関して,「赤い ばらの 花が 12こ,白い ばらの 花が 5こ さいて います。」という文(「赤いばら」「白いばら」ではない点に注意)のほか,テープ図に添えた語句には「あわせた 数」「のこりの 数」といった表記も見られました。
 これらから,小学1~2年の教科書は文節で分ける(句読点や改行がなければ間に空白を置く)けれども,「かけられる数」「かける数」をはじめとして,算数の用語は分けないよう,扱っていると判断してよさそうです。
 『ことばと算数』において,第7章では算数の海外の論文をもとに,ひき算の筆算のつまずきの事例を詳しく解説している一方で,参考文献の第5章のところでは国内外の「かけ算」に関する学術文献が一切ないのが,読み通して気になりました。

*1:https://twitter.com/flute23432/status/1548480151926689794から始まる一連のツイートでも指摘されています。

*2:『ことばと算数』では,3章に2箇所,このサイトのURLを脚注に入れています。