かけ算の順序の昔話

算数教育について気楽に書いていきます。

「1つ分」の数,いくつ分の数

 「2023年5月初版第1刷刊」という,明治図書の2冊の本のそれぞれに,少しずつ異なる,かけ算の言葉の式が書かれていました。

 「わり算」は「かけ算」の逆だといわれます。例えば「4×3=12」のかけ算は,「1つ分×いくつ分=全ての数」という意味を表しています。わり算には,この「1つ分」を求める「12÷3=4」という等分除と,「いくつ分」を求める「12÷4=3」の包含除がありますが,どちらも「1つ分」の数が揃っている「かけ算」が前提となっているから計算で答えを求めることができるわけです。(以下略)
(p.122)

 次に,つまずいている子供に対して,どういう手立てを打つかを考えます。
 まず最初に既習を振り返ります。かけ算の式について,本時までにどのように教えてきたのか,子供が学んできたのかを,教科書で振り返ります。
 かけ算の式では,かけられる数に「1つ分の数」を書き,かける数に「いくつ分の数」を書くことを教えてきました。このときの同じ大きさの数量が「1つ分の数」で,それがいくつかあるときのいくつかが「いくつ分の数」です。そして,(1つ分の数)×(いくつ分の数)=(全体の数)とまとめてきました。
(p.7)

 それぞれで,言葉の式が書かれた経緯は異なります。『どの子もわかる算数授業づくりのシン・スタンダード』は,引用からも読み取れるように,「わり算」の学習のため,「かけ算」を見直しています。それに対し『教材研究×算数』の該当箇所は,「第2学年のかけ算の単元で「2人がそれぞれ4本ずつ鉛筆を持っています。鉛筆は何本ですか。式と答えを書きましょう」という問題」*1に対する授業展開の検討となっています。
 引用部から,かけ算の言葉の式を取り出します。

  • 『シン・スタンダード』:「1つ分×いくつ分=全ての数」
  • 『教材研究×算数』:(1つ分の数)×(いくつ分の数)=(全体の数)

 個人的に把握している,かけ算の言葉の式と,少しずつ異なります。『小学校学習指導要領解説(平成29年告示)算数編』に書かれているのは,「(一つ分の大きさ)×(幾つ分)=(幾つ分かに当たる大きさ)」です。教科書で,目にしてきたのは,「1つ分の数×いくつ分=ぜんぶの数」です。これらから*2,「被乗数と積が同種の量で,乗数はそれらと異なること」「被乗数と積に対応する数量は連続量*3でもよいのに対し,乗数のほうは分離量に限られること」を得ることができます。
 ですが,「いくつ分の数」も,理解できないわけではありません。鉛筆の文章題に対して「2人」のほうが「いくつ分」の数量(分離量)に対応し,小学校の算数ではこういった式に単位は書かないので,「4×2」と書いたときの「2」を,「いくつ分の数」とみなせばよいのです。
 「1つ分×いくつ分」の表記も,書籍で見ることはありますが,今回の引用に入れた,「「1つ分」の数」については,思い浮かぶものはありません。
 令和6年度より使用となる小学校教科書について,今夏の教科書展示会に足を運んで,2年の導入時だけでなく,上の学年でも,かけ算の言葉の式がどのように書かれているかを,チェックしておきたいと考えています。

*1:p.6; https://takexikom.hatenadiary.jp/entry/2022/12/29/062638には追加済みです。

*2:とはいえこれらの字面を見るだけでなく,教科書・書籍その他の出版物と照合する必要もあります。Greer (1992)の"For a situation to be assimilable to this model, the crucial factor is that the multiplier must be an integer; no restriction applies to the multiplicand."は,本ブログ開設(2012年)の前年に読んでなるほどと思ったものです。

*3:関連:https://takexikom.hatenadiary.jp/entry/2019/05/31/061224