かけ算の順序の昔話

算数教育について気楽に書いていきます。

■■■■□+■■■□□=■■■■■■■□□□

 目次の直後の座談会(「現行学習指導要領の成果と課題を整理する」)について,最初のp.4は6名の参加者の氏名・所属と顔写真で,次のページ(2段組)の右カラムには文章題や「96÷1.6」の式,また二重数直線の図を見ることができます。
 本記事では,pp.18-19の,稲垣悦子氏の発言に注目します。なお分数について,見やすさのため(はてなTeX記法内で)ディスプレイスタイルを採用していますが,原文はテキストスタイルです。

 稲垣 授業参観のある日,\displaystyle\frac15+\frac25の授業をしたことがありました.\displaystyle =\frac35と,附属小の子はほぼ全員,\displaystyle\frac15+\frac25=\frac35と言うのです.でも1人の子が,「それはわかるけれど,今までたし算はブロックを使った.同じようにして(左に5個のブロックのうち1個が白,右に5個のブロックのうち2個が白のブロックを置く)ガッチャーンと合わせたら,\displaystyle\frac3{10}(10個のブロックのうち,白が3個)になる.これも正解だと思う.だって図を使って説明したから」と言い始めたのです.そうすると,学級半分の子どもたちは誤答に賛成し始めたのです.いかに始めの\displaystyle\frac35と言っていたことが,あいまいだったのかがわかります.
 そして,子どもたちで話し合って,私が「どうなったの?」と聞くと,「先生,決まりました.答えは二つになります」と言われたのです.答えが二つ……それだけは勘弁してほしい.ここで,初めて「ん?」という問いが生まれてきました.
 子どもは,「リットルマスの図だと答えは\displaystyle\frac35で,ブロックの図だと\displaystyle\frac3{10}です.なぜなら図で根拠があるから」とまで言うのです.やっとある子が,「いや,こっちのブロックの図も,この1は空で何もないんだ.だからこっちの1が大切で,答えは\displaystyle\frac35」と発言.1の大切さに気づくまで,25分間ぐらいかかりました.でも,それでやっとすっきりします.
 やはり,間違えたときに正解を言われても駄目だと思います.間違えた子には,その子なりの論理があり,「ここまで合ってるよ.ただ持って来たここ(既習事項)が違ったんだ.ここ(1の考え)が大切なんだ」ということに,本人が納得しないといけない.そうでないと,また同じ間違いがずっと続くと思います.

 参観をしたという授業の学年は,明記されていませんが,約分も仮分数の処理もない,分数の加法ですので,第3学年と思われます*1
 「ブロックの図だと\displaystyle\frac3{10}」について,次のように表せます。

  • 「左に5個のブロックのうち1個が白」は,■■■■□。これが\displaystyle\frac15
  • 「右に5個のブロックのうち2個が白」は,■■■□□。これが\displaystyle\frac25
  • 合わせると,■■■■□■■■□□となり,並べ替えると■■■■■■■□□□。これは\displaystyle\frac3{10}

 数理的には,2つの分数の分母と分子をそれぞれ足して,新たな分数を得るという演算を考えることができます。野球の打率や,バスケットボールのシュートの成功率などに,適用が可能です。wikipedia:ファレイ数列に書かれた「中間数」でもあります。
 しかしながら,「分母と分子をそれぞれ足して,新たな分数を得る」(\displaystyle(\frac{a}{b},\frac{c}{d})\rightarrow\frac{a+c}{b+d})のは,分数のたし算とは呼ばれません。この授業で期待されるたし算は,\displaystyle(\frac{a}{b},\frac{c}{b})\rightarrow\frac{a+c}{b}です。
 子どもの発言のうち「こっちの1が大切」,上記引用の最後の段落のうち「1の考え」は,単位分数を念頭に置いているように思われます。\displaystyle\frac15は単位分数の一つであるとともに,「\displaystyle\frac15が1つ分」と表せます。同様に,\displaystyle\frac25は「\displaystyle\frac15が2つ分」です。
 「■■■■□を\displaystyle\frac15に対応づける」のではなく,「■■■■□のうち□を\displaystyle\frac15に対応づける」ことにします。そうすると,■■■□□は□が2つなので,\displaystyle\frac25に対応づけられます。
 合併により得られる量は,「\displaystyle\frac15が(これを1と見てその)3つ分」であり,リットルマスでもブロックでも,分数のたし算の結果は,同じ数で表される,というわけです。
 「この1は空で何もないんだ」については,次のように解釈しました。合併して■■■■□■■■□□としたとき,最初に■■■■□と並べた箇所には,■も□もありません(\displaystyle\frac00と,表すわけにもいきません)。これが「空で何もない」の正体です。「この1」は,最初に■■■■□と並べたうちの□のことです。

 以下は創作であることを明記した上で,2年のかけ算の単元の授業に置き換えることも可能です。「さらが 5まい あります。1さらに りんごが 3こずつ のって います。りんごは ぜんぶで 何こ あるでしょう。」*2について,1つ分の数×いくつ分=ぜんぶの数に当てはめると,期待される式は「3×5=15」です。ですがトランプ配りや,りんごの長方形配列を示して,「5×3=15」でいいじゃないかと主張する子が出現し,「学級半分の子どもたちは誤答に賛成し始めた」という展開になります。子どもたちの話し合いの結果,「先生,決まりました.式は二つになります」を聞いて,参観者が困惑した状況で,やっとある子が,「5×3は,『さらが 3まい あります。1さらに りんごが 5こずつ のって います。』というときの式です」かつ/または「5+5+5=15と計算すると,結果はさらの数になってしまいます」と発言し,最終的に「3×5」のみが正解となります。
 ここまでの創作のうち,授業で「トランプ配りや,りんごの長方形配列を示して,「5×3=15」でいいじゃないかと主張する子」は現実に見かけません。「やっとある子が」以降のセリフと同様のものは,3×2の,子どもたちの発言で紹介しています。