かけ算の順序の昔話

算数教育について気楽に書いていきます。

3×2の,子どもたちの発言

 全国算数授業研究会月報284号に,「かけ算の順序を問う授業」が報告されていました。

 報告者は北海道札幌市立資生館小学校の中村光晴氏です。当ブログでは,同氏の著作を,式を具体的な場面に即して読み取る活動で取り上げています。
 授業で提示したのは,「「1つ分の数」→「いくつ分」の順に数値が出てくる問題場面」と「「いくつ分」→「1つ分の数」の順に数値が出てくる問題場面」です。文章題はそれぞれ次の通りです。

ボールが3こずつ入った入れ物が5ほんあります。ボールはぜんぶで何こあるでしょう。

今、教室に5人います。おり紙を1人に6まいずつくばります。おり紙はぜんぶで何まいいりますか。

 ボールの場面は,「3×5とした子どもは24人、5×3とした子どもは2人」でした。また「5×3とした子どもは、はっきりとした理由がなかった」なのに対し,「3×5と考えた子どもから」は3つの理由が出され,「どの子も、納得の表情」としています。
 おり紙の問題では,「5×6と考えた人は12人。6×5と考えた人は14人」と分かれました。
 教師による「5×6は、どうやって考えたのだろう?」に対する答えは,以下の3つでした。原文ではそれぞれカギカッコがついて連続していました。

問題文を見ると、先に5人が出てきて、後に6人が出ているから5×6

5×6にある6は、1人分の折り紙が6枚ということ。5人いるから、5×6

5×6は、5のまとまりが6つあって、全部で30枚になる

 関連情報を見ておきます。上記のいずれの理由も,https://www2.sed.tohoku.ac.jp/~edunet/annual_report/2011/11-06_miyata.pdfの文献の総合考察に書かれた,「Yが有していたスキーマ的知識は「かけ算の問題は,全体量=ある数×他の数という式に基づく」のような不十分な状態であったと考えられる。」と同様であるように見えます。かけ算の2つの数(ここでは,5と6)と式全体(5×6)で連想したのは,令和2年度全国学力・学習状況調査の,かけ算の式に対して「被乗数と乗数の関係」を書く問題です*1。上の3つは,児童の発言を,月報のため書き言葉で表されたものですが,「関係を正しく書いている」のが読み取れません。Page1879の報告の中では,「意味の捉えが曖昧」「辻褄が合わないことを言っても気づかない」といった表現が使われています。『アイディアシートでうまくいく! 算数科問題解決授業スタンダード』で記されているのは,「意味が欠落した手続き」です*2
 ここから,「6×5」に向けるためのスイッチング・レーン*3は,「もし、5×6だったら意味が変わる」という子どもの声でした。教師がこれを拾いあげ,問い返し発問をしました。子どもたちの反応を,上と同じように並べます。

もし、5×6だったら、『教室に6人いる。一人に5枚ずつ配る』という問題文になる

5×6だと、5は5人という人を表す。5人のまとまりごとに6つのグループをつくるという意味になる

5×6は、式が5+5+5+5+5+5になるから問題文と合わない

 「教室に6人いる。一人に5枚ずつ配る」という読み方は,理由の分類の2017年5月の画像のうち【B-3】と同等であり,「5人のまとまりごとに6つのグループをつくるという意味になる」は,【B-4】です。2番目と3番目の反応については,リンゴの上におさらが9個~2019年の「積は皿の枚数になってしまう」事例も関係します---累加にすると合わなくなるのを,海外文献から引用しています。

 本記事のタイトルを決めるのに,苦労しました。「3×2」は,授業で出た式ではなく,おり紙の問題で5×6という式の正当化を試みた発言3つと,それでは意味が変わる(問題場面と合わない)ことを示す発言3つに,由来しています。3つずつの発言が,上から順に対応していないので,「2×3の,子どもたちの発言」と表記するわけにもいきません。