かけ算の順序の昔話

算数教育について気楽に書いていきます。

「算数教育の専門家」と自称する人々が狂信的な教条を振り回しているらしい

数学の二つの心

数学の二つの心

 算数の本2冊,靴の中敷きと合わせて,Amazonで発注し,今日届きました。
 まずは前書きと,奥付に記されたhttp://www.tecum.world/のコンテンツを読みました。小中高の算数・数学教育に対して挑戦的だけれども直接指導する機会を持ってなさそうだなあ,「かけ算の順序」にもカジュアルに言及してそうだなあと思いながら,本文をそこそこに,「コラム」と「脚注」を重点的に見ていきました。予想どおり,p.158の脚注に,書かれていました。

 1) 対照的に小学校では,奇妙に専門的な術語が使われる.掛け算の「乗数」と「被乗数」,割り算の「除数」と「被除数」はその代表格であろうか.後者は概念的な区別が付けやすいのでまだいいが,乗法a×bにおいて,a,bのうち,どちらをどちらというのか.このような数学としては気を配るに値しない問題について,「算数教育の専門家」と自称する人々が狂信的な教条を振り回しているらしい.これなどはまだ軽症の方で,割り算に関する「等分除」,「包含除」の区別に至っては,算数の応用場面での区別の意味は想像できないわけではないが,業界外の普通の人には理解できない世界である.漢字だけではない.デシリットルとヘクタールという単語の接頭辞(deci-,hect-)の意味を介して,これらの概念を理解している教員,生徒ははたしてどれだけいるのだろうか.多くの子どもたちがここで苦しむと聞くが,指数表現を学んだ後に学習すれば苦労する意味がないほど単純な話ではないだろうか?

 打ち出して,読み直してみると,前書きで抱いた不信感がさらに強まりました。「奇妙に専門的な術語が使われる」「狂信的な教条を振り回しているらしい」「業界外の普通の人には理解できない世界である」は,小中高の算数・数学の解説書で見かけない,いわば外からの根拠薄弱な文言だなと感じました(だからこそ脚注なのでしょうが)。「はたしてどれだけいるのだろうか」には統計情報が欲しいし,最後の文についても,著者自身で実証する気がないのですねでおしまいです。
 デシリットルについて,掘り下げておきます。もし「なぜ小学校でデシリットルを学ぶのか」と問われたら,「実感や操作のできる『かさ』として都合がよいから」と理解しています。1Lはまだしも,5Lや9Lになると,扱いが容易ではないし,かといって5mLや9mLとなると,あまりにも少量です。「数デシリットル」や「十数デシリットル」は,リットルやミリリットルに比べて,測りとりやすいのです。
 1dLが10杯で1L,逆に1Lの10分の1は1dLといった,10に基づく量の関係は,小数の計算にも活用できます。例えば4年で,0.3×3を「0.3Lの水が3杯のときの総量」に対応づけ,デシリットルで考えると,整数のかけ算に帰着でき,9dL=0.9Lとなるわけです。
 小学校ではリットル・デシリットル・ミリリットルは学習するけれど,その間の「センチリットル」は学習対象外だっかどうだか,と思いながら,現行(2008年)および今年(2017年)の『小学校学習指導要領解説算数編』のPDFファイルにアクセスすると,どちらにも「飲料などの量の単位としてミリグラム(mg)やセンチリットル(cL)などが使われ,水道の使用量,タンクローリーの容量としてはキロリットル(kL)の単位が使われている。これらの単位は,メートル法に従って接頭語,m(ミリ),c(センチ),k(キロ)を付けて作られた単位である。」が記載されていました*1.ただし現行は第6学年,新しい学習指導要領では第3学年の学習事項です。ともあれ,「cL」の算数教科書への記載は問題なし,というわけです。


 上記引用のうち,かけ算の順序の最も中心となる問題意識は,「乗法a×bにおいて,a,bのうち,どちらをどちらというのか」のところですが,小学校の算数から少し離れて,「aにbをかける」と「aとbをかける」との区別にも,配慮したいものです。この区別を知るきっかけの一つに,メインブログでGreer (1992)と書いてきた文献があり,海外では,「かけ算の順序」「たし算の順序」についてどのような見解を出していますか? - わさっきで主要部を取り出して私訳を添えています。グリアの名前は,今年読んだ芳沢光雄『かしこい人は算数で考える』*2に出現していました。

*1:その次の文は,現行と今年のとで少し表記が異なりますが,いずれも,こういった単位の仕組みや関係を踏まえて,子どもたちは何を行う/何ができるようになるかを示しています。

*2:isbn:9784532263515