かけ算の順序の昔話

算数教育について気楽に書いていきます。

絵をかきましょう

 つぎの しきを あらわす 絵を かきましょう。
(1) 3×4   (2) 3+4   (3) 4×3

 かけ算とたし算の違い,そしてかけられる数とかける数の違いについて,子どもが理解しているかどうかを確認するには,この問題がもっとも単純で効果的なように思います。
 出典は,以下の本のp.54です。

 問題の上には「ねらい:かけ算の式から具体的な絵に表すことによって意味を深めることができる。」を書いています。解答となる3つの絵のあと,指導のポイントとして,「かけ算の意味は基準量のいくつ分ですが,この意味は案外子どもに理解されていません。3×4と4×3の違いを理解させるとともに,3+4との違いについても意味を統合的に理解させます。絵をかかせると一発です。」と述べています。
 載っている絵ではキャンディを使用しており,「3」や「4」が分かるよう,まとまりごとに角丸長方形で囲まれています。
 ある本の図をもとに,自分なりにPowerPointで作図を試み,JPEG画像にしました。

(1) 3×4
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(2) 3+4
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(3) 4×3
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 「ある本の図」は,以下のp.131からです。

  • Lannin, J., Chval, K., and Jones, D.: Putting Essential Understanding of Multiplication and Division into Practice in Grades 3-5, National Council of Teachers of Mathematics (2013). [isbn:0873537157]

 図はこうです。原文では,総数を求める対象となる12個の丸が薄いオレンジ,「Groups of equal size」から差す矢印が濃いオレンジ,他は黒です。

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 矢印は色以外にも違いがあります。上向きの濃いオレンジの3本の矢印について,その先は,四角形(まとまり,group)の中に入っており,どのまとまりにも同じ数(4つ)ずつ,丸があることを表しています。それに対し「Number of groups」から下に伸びる3本については,矢先は,四角形のそば(外側)で止まっていて,まとまりが3グループあることを示したものです。
 しかしながら,両方に「groups」があるのは,ちょっと引っかかります。「Groups of equal size」のかわりに「Number of each group (equal size)」であれば,違和感を減らせます。かけられる数もかける数も,ともに「数(number)」ですが,それぞれの役割は異なるということが,「of each group」と「of groups」によって区別できます。なお「(equal size)」は,最初のまとまりは3個,次のまとまりは4個,といった場合にはかけ算が適用できないことを含んでおり,省略できない情報です。
 原文を読み直すと,図のすぐ上の段落には,コロンのあと,「(a) groups that are equal in size (in this case, groups containing 4 circles), (b) the number of groups (in this case, 3 groups), and (c) the total number in all the groups (in this case, 12 circles).」として,3つの要素の説明がありました。これなら文句ありません。この(a)を,「Group of equal size」と短縮して,Fig. 6.5に入れたのでしょうか。...
 同じページで引用している文献を探すと,本文撮影画像を,オーストラリアの大学のドメインより取得できました.タイトルに「the difference between additive and multiplicative thinking」とありますが,かけ算で求められる場面において「たし算で考える子ども」と「かけ算で考える子ども」の違いに焦点を当てており,当記事の冒頭のように出題側から3×4と3+4と提示するということは,していません。

 「groups of equal size」を含む文が,p.307に入っていました。

It was the work of Kouba (1989), Steffe (1992), Mulligan & Mitchelmore (1997), Mulligan & Watson (1998) that led to the conclusion that children must first come to recognize multiplicative situations as involving three aspects: groups of equal size (a multiplicand), numbers of groups (the multiplier), and a total amount (the product).

 「multiplicand」「multiplier」「product」の3者が明示されているのはいい*1のですが,カッコ書きの「a multiplicand」は,「equal size」を説明したものであって,「groups of equal size」と結び付けてしまうと,「numbers of groups」との違いがなくなります。
 この文献による「three aspects」を,Lanninらが重要視して本文および図*2に入れた際に,「groups of equal size」もそのまま使用し,Fig. 6.5における三者関係の一つであるようになってしまったと考えられます。
 「group」と「equal size」を含む,さらに古い文献があるかなと思いながら調べると,一つ,見つかりました。上記の書籍・論文のいずれも,この文献を引用しています。

 該当箇所はp.66の以下の箇所です。訳は差し控えますが,「groups of equal-sized groups」「composites of composites」という言葉の使い方に加え,「three sixes」を米国式に3×6と表したとき,3と6が同等ではないと読めるのは,興味深いところです。

For a true understanding of multiplication and division the child needs eventually to coordinate groups of equal-sized groups and recognise the overall pattern relating composites of composites (e.g., "three sixes").


 冒頭の「絵を かきましょう」の問題に戻ります。(1)の答えを,次のような図にしたら,どうでしょうか。

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 これは,実際には何をどう考えているのか—2冊読み比べのShelbyの解答と同等と言えます。次のようにすることで,3×4と4×3が区別できます。

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*1:3つの語のうち,multiplicandの前だけが不定冠詞のa,後二者の前には定冠詞のtheとなっているのは,かけ算で求められる場面では,かけられる数を決めれば,かける数が定まり,かけ算の答えも特定されることを意味しており,妥当だと思います。ただし「numbers of groups」は「the number of groups」であるべきです。

*2:Jacob & Willis (2011)には,Fig. 6.5と同様の図は出現しません。ただしp.313には,http://takexikom.hatenadiary.jp/entry/2019/12/16/062016で紹介した,Tile taskと類似した作業をさせるための図を見ることができます。