#掛算 6月20日読売新聞「学ぶ育む」欄 の記事「12人が乗ったバスに途中で何人か乗り込み、28人になった。途中で乗り込んだのは何人?」教員が「足し算ですか?引き算ですか?」と問いかけたと言う。 URL
#掛算 ほぼ全員が「引き算」と答え、教員も「引き算ですね」とまとめようとしたのに対して、「足し算だ」と譲らなかった子が泣き出したという。記事では、教員がこの子をフォローしたことに焦点を当てているが、授業自体が算数教育の闇を反映しているように思える。
2015-06-30 07:53:02 via Twitter Web Client to @sekibunnteisuu
#掛算 もちろんこの問題を、「12+28=40 40人」としたら、それは間違いであり、ちゃんと指導する必要がある。この児童がどういう意図で「足し算」と言ったのか、重要な情報がないのでなんともいえないが、「12+( )=28」ということを考えていたのなら、正しい考えである。
2015-06-30 08:15:03 via Twitter Web Client to @sekibunnteisuu
小学2年生,算数の研究授業の話です.出題は「12人が乗ったバスに途中で何人か乗り込み、28人になった。途中で乗り込んだのは何人?」です.
ツイートそして新聞記事から離れて,真っ先に思い浮かぶのは,「逆思考」です.順思考・逆思考|算数用語集の「花が」から始まる問題と,同じ構成です.
解答にあたっては,テープ図をかいて全体と部分の関係を把握し,途中で乗り込んだ人数を求めるには,28−12=16 答え16人とするのが,標準的な流れです.
しかし新聞記事の研究授業では,淡々と進みません.教員が「足し算ですか? 引き算ですか?」と問い掛けると,A君だけが「足し算だ」と主張し,声をあげて泣き出したというのです.
この出題で,たし算というと,「12+28=40って,おかしいね」というツッコミが想像できます.なのですが,先生は他の子に指示をしてからA君のそばに行き,「『問題をよく読んで考えたんだね.偉かったよ』と語りかけ、もう一度かみ砕いて説明した」とあります.
上のツイートでも指摘されていますが,ここでA君は「12+□=28」といった式が思い浮かんだ可能性が高いです.
子どもがそのように発想し,先生はどう指導すればいいか…『かけ算には順序があるのか』が出る前後に,PDFで読んだ記憶があります.メインブログの記録をたどって,そのURLを見つけましたが,現在はデッドリンクです.幸いにも,Internet Archiveより取得できました.
「算数科,数学科 「計算や式の意味の指導について」」というタイトルで,松江教育事務所「教育展望第46号(平成20年度版)」のコンテンツの1つです.そこでは,逆思考の文章題と,指導の留意点が,以下のとおり書かれています.
文章題を解く際,「あわせて」「のこりは」などのキーワードのみに着目し,それを根拠にたし算やひき算を立式する児童が少なくない。しかしこれでは「あとでシールを7まいもらったので,合わせて16枚になりました。はじめに何枚もっていたでしょう。」などの問題ではつまずいてしまう。そこで,問題場面の数量関係を図などで表し,それらによって計算を意味づけることが大切である。
例えば,上述の問題の場合,図1のようなテープ図に表すことで,求めるはじめの数は,全体の数16本からもらった数9本を取った残りの数だということが視覚的にも明らかになる。
問題の場面や答えを求める計算をどのような式に表したらよいかを考える場面などで,解を求める式だけでなく,必要に応じて関係を表す式など取り上げることが大切である。例えば,前述の問題の場合,はじめの枚数を求める式は16−7=9であるが,これを9+7=16,答え9枚と表現する児童もいる。このように表した児童は,7を足して16になる数を考え,9を見つけて9+7=16と表したと考えられる。実際に□を用いたわけではないが頭の中で□+7=16とし,□を16−7などで見つけたのである。この□+7=16は「はじめの枚数ともらった枚数を合わせて16枚」という状況をそのまま表しており,文の表現と同じ構造でわかりやすい。これが関係を表す式である。この学習はひき算の意味理解を深めることをねらいとしており,答えを求める式は16−7=9であることを理解させる必要があるが,この9+7=16も「答えはわかりにくいが,様子がよくわかる式」などとして否定しないことが大切である。
最後の文は,バスの人数の問題で,A君に対して先生がとった対応と,極めて似ています.このとき,「12+□=28」といった式は,関係を表した式であり,解を求めるための式に至っていない,と見ることができます.
先生が尋ねた「足し算ですか? 引き算ですか?」について,「答えを求めるのに行う計算は」が前にあれば,「引き算」と定まります.演算決定です.
ところでツイートの中に「授業自体が算数教育の闇を反映しているように思える」とあるのですが,この逆思考は2年で学習し,たし算・ひき算の文章題では基本パターンとなっています(小学校の校長という執筆者は,そのことを知っていたはずです).
また「もう一度かみ砕いて説明した」のところから,このタイプの文章題は,研究授業よりも前に,クラスで解かせていたことが推測できます.もし,バスの人数の問題が,その研究授業の主な出題であったなら,教員が「足し算ですか? 引き算ですか?」と問い掛けるのも,児童のほぼ全員が「引き算」と答えるのも,不自然に映ります.
基本パターンは,海外文献でよく整理されています.Common Core State Standardsの数学については,メインブログで書いたことがあります.
2010年に公表されたCommon Core State Standards for Mathematicsでは,「ぜんぶで」という言葉こそ出現しませんが,たし算・ひき算の構造や相互関係が表になっています.「Table 1. Common addition and subtraction situations」(p.88)です.
「ぜんぶで」メモ - わさっき
「Add to」の「Result Unknown」と「Start Unknown」の文章題には,ともに「Three more bunnies hopped there.」という文があります.しかし場面が異なるので,式そして問題の構造が異なります.
なお,同文書のp.15に「8+?=11」「5=□−3」という式も入っていることから,Add to,Take fromの各文章題は,Grade 1に含まれていると見るのがよさそうです.
手順を踏んで解いていく例は,「ぜんぶで」メモ2 - わさっきに原文と私訳を載せています.「おはじきの入った袋があります.おはじきが何個あるか,当ててね!」から始まり,原文では「□−3=4」と式を立て,そこから□に当てはまるのは7と求めています.日本だったらどうかというと,例えば「4+3=7」と,たし算で答えを求めることになります.
ちなみに逆思考でもっとも厄介なのは,減法逆の減法です*1.Core Standardsの表で"Take from"かつ"Change Unknown"にある出題です.我々からすると,5−x=3を解けといわれたらx=5−3=2なのですが,例えば「5−□=3」の□に当てはまる数はいくつですかと,2年生に出題したら,5+3または3+5とやってしまうかもしれません.
*1:これがなければ,「ぜんぶで」とあるけれど全部の数を求めるのでなければ,ひき算(加法逆の減法)で,「のこりで」とあるけれど残りの数を求めるのでなければ,たし算(減法逆の加法)と,パターン化ができるのですが.なお,加法逆の加法は,ありません.Core Standardsの表の2行3列の文章題には,加法逆の減法が2つあり,あとは順思考の加法,順思考の減法,減法逆の加法,減法逆の減法が1つずつです.