かけ算の順序の昔話

算数教育について気楽に書いていきます。

かけ算の順序批判としての,3口のかけ算

 「かけ算の順序」の批判において,a×b×cの式(3口のかけ算)で表される場面を持ち出す主張をときどき見かけます。
 本記事にて集約を図ることにします。まずは主張の事例です。

質問1 犬を大好きな4人が,それぞれ3匹の子犬を連れてきて集まりました.ある御隠居さんが,「可愛い子犬がたくさん集まりましたね.それでは,どの子犬にもビスケットを5枚プレゼントしましょう」と言いました.御隠居さんは何枚のビスケットを用意すればよいでしょうか.
(芳沢光雄『AI時代を切りひらく算数―「理解」と「応用」を大切にする6年間の学び』, 日本評論社, Kindle版)

ここまで書けば,たいていの読者はばかばかしいと思うだろうし,筆者はそれを希望して書いているのであるが,しつこいようだがもう少しやってみよう.始めの3トン積のトラック5台が1列に並んでいて,そういう列が6列あるとする.砂の総量は全部で何トンか.1列で3×5または5×3,だから6列で6×(3×5)または(3×5)×6,…,それともトラックが5×6台または6×5台.1台3トンだから(5×6)×3または3×(5×6),….順序を気にする連中はこのうちどれが正しい書き方でほかのはすべて誤まりであるとしたいのだろう.
(志村五郎『数学をいかに教えるか』, 筑摩書房, p.46)

数学をいかに教えるか (ちくま学芸文庫)

数学をいかに教えるか (ちくま学芸文庫)

 それぞれの主張の思惑を離れ,算数教育そして「かけ算の意味の理解」という観点から,何を読み取るのがよいかを考えてみます。
 ここまでの4つの事例のうち,3つの文章題について,「1つ分の数×いくつ分」で表せる数量関係が含まれています。
 「1個30円のお菓子」の件は,30×3で,3個のお菓子の値段が求められます(3×4により,買う個数も求められます)。ビスケットの件も,ビスケットの枚数に着目するなら5×3で,3匹に合計15枚となりますし,3×4=12はその場面での子犬の数です。3トン積のトラックが5台から,3×5で15トンが得られるのも,「1つ分の数×いくつ分」です。
 『数学をいかに教えるか』に例示された式の中では,5×3と,6×(3×5)の左側の乗算記号と,(5×6)×3の右側の乗算記号は,「1つ分の数×いくつ分」と別の根拠を必要とします。小学校の授業中なら,「それでいいのかな?」と先生が問うことになりそうです。
 3口のかけ算については,教科書の記載や,授業での出題を見ることができます。結合法則と関連づけながら,「かけ算では,じゅんじょをかえてかけても,答えは同じになります。」(学校図書),「多くの数をかけるときには,計算するじゅんじょをかえても,答えは同じです。」(啓林館),「かけ算では,前からじゅんにかけても,後の2つを先にかけても,答えは同じになります。」(教育出版)といった表現になります。交換法則のまとめには,「じゅんじょ」は見当たりません。
 関連するツイートやブログ記事を挙げておきます。

 「順序」が結合法則に使われるのと合わせて,「かけ算の順序」の批判から,うかがい知ることができないのは,2つの数の積を,3つに分解するような授業やテストの事例です。
 例えば次の問題です。あきらさん・いさむさん・すすむさんの式は,授業で子どもたちが立てたものではなく,教師の側から提示して,クラスの子どもたちはそれぞれの式の意味を考えます。いずれのかけ算の式も,25から始まっています。

 あきらさんといさむさんとすすむさんの3人は,クラスのお楽しみ会のおやつを買うために,スーパーマーケットにきています。いろいろまよいましたが,1こ25円のチョコレートを40こ買うことにしました。
 今,3人は,代金がいくらになるのか考えています。
  あきらさん:25×40
  いさむさん:25×10×4
  すすむさん:25×4×10
 3人がどのように代金を求めようとしているのか,それぞれの代金の求め方を絵や図に表して説明しましょう。
交換法則と結合法則についての理解を深める

 テストについては,全国学力・学習状況調査(全国学力テスト)の小学校算数で,数の乗法的な合成と分解が出題されています。2つともB問題で,問題文に計算の仕方を示しており,他のかけ算に対してもやってみようという問い方です。