現行および次期の学習指導要領では,「小数×整数」は第4学年,「小数×小数」は第5学年の学習内容となっています。分数のかけ算や,速さ,円(円周率,面積)とともに,これまでの学習指導要領ではどの学年に配当されているかを,整理してみました。
これまでの分については,学習指導要領データベースインデックスを参照しました。戦後まもなくのものもありますが,現行と同形式となっている,1958年(昭和33年)以降を,今回の調査対象としています。それぞれの算数の節について,リンクのあと,学年ごとに(今回の調査で関心のある)学習事項を並べました。なお,同一学年の列挙について,必ずしも各情報源の記載順ではありません。
- 1958年(昭和33年)告示,1961年(昭和36年)施行*1
- 第3節 算数
- 4年:小数×整数
- 5年:小数×小数,分数×整数,速さ,円周率,円の面積
- 6年:分数×分数
- 1968年(昭和43年)告示,1971年(昭和46年)施行
- 第3節 算数
- 4年:小数×整数
- 5年:小数×小数,分数×整数,速さ,円周率,円の面積
- 6年:分数×分数
- 1977年(昭和52年)告示,1980年(昭和55年)施行
- 第3節 算数
- 4年:小数×整数
- 5年:小数×小数,分数×整数,速さ,円周率,円の面積
- 6年:分数×分数
- 1989年(平成元年)告示,1992年(平成4年)施行
- 第3節 算数
- 4年:小数×整数
- 5年:小数×小数,速さ,円周率,円の面積
- 6年:分数×分数
- 1998年(平成10年)告示,2002年(平成14年)施行
- 第3節 算数
- 5年:小数×小数,円周率,円の面積
- 6年:分数×分数,速さ
- 2008年(平成20年)告示,2011年(平成23年)施行【現行】
- 第3節 算数
- 4年:小数×整数
- 5年:小数×小数,分数×整数,円周率
- 6年:分数×分数,速さ,円の面積
次期については,文科省サイトよりダウンロードできるPDFファイルを参照しました。上記と同じ形式にしておきます。
- 2017年(平成29年)告示,2020年施行【次期】
- 第3節 算数
- 4年:小数×整数
- 5年:小数×小数,速さ,円周率
- 6年:分数×分数,円の面積
いくつか,補足します。「分数×分数」と書いたときの「分数」は整数を含みます*2。「分数×分数」があり,それより下の学年に「分数×整数」がないものは,「分数×分数」を学習する学年で,「分数×整数」も学習することが想定されます。「小数」についても同様です。わり算は今回,とくに取り上げませんでしたが,「小数×整数」と同じ学年で,「小数÷整数」や,「整数÷整数で商が小数になる場合(割り進み)」も学びます。「円周率」に関しては,「円周」の意味や求め方も合わせて学習します.
箇条書きにしてみると,昭和では変化がなく,平成に入って,“いじっている”のが見てとれます。昭和のころおよび現行では,「小数×小数」および「分数×分数」をそれぞれ学習する際,一つ下の学年で,かける数が整数の場合を学習することとなっています。平成に入ってからは,現行を除き,「分数×整数」と「分数×分数」は同学年です。また,「ゆとり教育」と揶揄されることもある,現行の一つ前の学習指導要領では,「小数×整数」と「小数×整数」も同学年となっています。
なお,同じ学年であっても,「かけ算の順序はどっちでもいい」ことを意味しません。実際,1998年(平成10年)告示の第3節 算数について,小数の乗法の記載は以下の通りとなっており(主要部のみ抜粋),「乗数や除数が整数である場合の乗法及び除法」と「乗数や除数が小数である場合の乗法及び除法」が異なる項目となっています。
〔第5学年〕
2 内 容
A 数と計算
(3) 小数の乗法及び除法の意味について理解し,それらを適切に用いることができるようにする。
ア 乗数や除数が整数である場合の乗法及び除法の意味について理解すること。
イ 乗数や除数が整数の場合の計算の考え方を基にして,乗数や除数が小数である場合の乗法及び除法の意味について理解すること。
当時の『小学校学習指導要領解説算数編』*3では,アとイは次のように具体化されていました(pp.131-132)。
a. 乗数, 除数が整数の場合の乗法, 除法の意味(ア)
乗数,除数が整数である場合についての小数の乗法,除法の計算の指導では,その計算の意味を,整数の乗法「(整数)×(整数)」や,整数の除法「(整数)÷(整数)」を基にして考えることができるようにする。そのためには,乗法における積の小数点の位置や除法における商の小数点の位置などについて,整数の場合と比べながら学習できるよう配慮する。
整数に小数を乗除する計算の仕方を考える上で,数の相対的な大きさの見方が有効に働く。例えば,1.2×3の計算では,1.2を0.1が12個あるとみて,0.1×(12×3)のように考えることができる。
b. 乗数が小数の場合の乗法の意味(イ)
整数の乗法は,様々な場面を利用しながら,次第に,一つ分の大きさを知ってその幾つ分かの大きさを求めたり,何倍かの大きさを求めたりする計算として意味付けがされてきている。
この学年では,乗数が小数の場合にも,乗法を用いることができるようにしたり,除法との関係も考えて,より広い場面や意味に用いることができるように一般化していく。その際,数量の関係が同じ場面では,整数の場合に成り立つ式の形は,小数の場合にも同じように用いていくという考えにより,小数の場合の式をつくっていく。
例えば,1メートルの長さが80円の布を2メートル買ったときの代金は,80×2という式で表せる。同じように,この布を2.5メートル買ったときの代金は,80×2.5という式で表せる。
こうしたことから,整数や小数の乗法の意味は,(基準にする大きさ)×(割合)=(割合に当たる大きさ)とまとめることができる。
なぜ「×整数」を,「×小数」や「×分数」と分けて(あるいはより下の学年で)学ぶようにしているのかというと,思いつくのは「累加」です。「0.1×3」と「×6」は,それぞれ「0.1が3つ」「が6個」と考えれば,「0.1+0.1+0.1」「」と表すことができ,たし算で(手間はさておき)計算ができます。かける数が乗数になると,累加で表せなくなり,そこで乗法の意味の拡張*4が意図されているわけです。
「3×0.1」や「6×」といった式に表したり,計算して0.3や4を得たりするのは,今回の調査範囲ではいずれも,それぞれ第5学年と第6学年での学習です。ここで,3×0.1=0.1×3=0.3のような計算の仕方については,小数の乗法において交換法則が成立することを確認してからとなります。次期の『小学校学習指導要領解説算数編』で「そこで実際に120×2.5を今までに学習した乗法の性質を用いて答えを出してみて,実際の値段と一致するか確かめてみることが大切である。例えば乗法の交換法則を用いて答えを出すと,120×2.5=2.5×120=300となる。」と書かれた箇所について,小数の乗法の交換法則を先取りしているように読めます。
*1:http://www.nier.go.jp/guideline/s33e/chap3-3.htmの施行期日(但し書き),およびwikipedia:学習指導要領より,実質的に「1961年度(昭和36年度)」からの施行と判断しました。
*2:小数と分数を含んだ式の計算については,今回参照したいずれにも記載がありませんでした。
*4:メインブログより:http://d.hatena.ne.jp/takehikom/20120301/1330547942,http://d.hatena.ne.jp/takehikom/20151210/1449694799,http://d.hatena.ne.jp/takehikom/20161122/1479743916