かけ算の順序の昔話

算数教育について気楽に書いていきます。

かけ算の「意味づけ」について

 かけ算(乗法)の「意味」と別に,「意味づけ」という表記をよく目にするので,ここで整理します。その特徴は,以下のように表すことができます。

  • かけ算という「演算」に対する「意味づけ」を示しています。
  • 学習者(子どもたち)ではなく,教師が認識しておくべき「意味づけ」です。
  • かけ算の意味には複数あることを念頭に置き(各著者が列挙し),単元指導または小学校算数(中学数学以降も)を見通しながら,「この意味を採用する」を意図して,「意味づけ」を使用しています。

 まったく異なる,「意味づけ」の使われ方もあります(例えば,『小学校学習指導要領(平成29年告示)解説算数編』)。上記と対比させると,次のようになります。

  • 算数・数学の問題発見・解決の過程の中のあるステップで,「意味づけ」を行います。
  • 教師が働きかけることになっても,「意味づけ」を行うのは学習者です。
  • 数学的に表現した問題に対し,処理(立式・計算など)して結果が得られたとき,その一連の活動*1は何を行ったものであるか(意味)を,当初の対象と照らし合わせて理解する行為を「意味づけ」とし,しばしば言語化を伴います。


 それでは,かけ算を解説した中で「意味づけ」が出現するものを紹介します。

(p.292)
 さらりと書かれているが,ここには計画上重要ないくつかの観点が取り上げられている。まず,はじめは,いくつかある「かけ算の意味」の中から「1あたり量×いくつ分=全体の量」という意味づけを選択したことが示されている。次には,計算の規則を与えて,それを使って答えを求めさせるという「計算規則の与え方」をするのではなく,まず図を利用して先に答えを出し,はじめの式と答から途中の計算規則を考えさせようという決定をしたことが,そして,いくつかの分数の型の中から「導入の問題の型」として帯分数とうしのかけ算を選択したことが,それぞれ示されている。
 三つの観点について,ありうる選択・決定を組み合わせてみると,多くの授業計画が成り立つ。はじめの「かけ算の意味」という観点では,選択されたものの他に,例えば「長さ×長さ」や「○倍」という意味のかけ算がありうる。(以下略)

(p.76)
 a) 乗法を累加の考えで指導することについて
 累加の考えをさけようというのは,算数の指導についての基本的な立場の相異によることであって,乗法という問題だけで考察することは適切とはいえない.(この点については,あとでもう少し詳しく考察する).しかし,乗法を加法の特別な場合を簡潔に表わすという立場から意味づけることは,とくに,低学年の場合には,教育的にも意味のあることであり,さきのラパッポルト氏の反論にもある.
 (略)ラパッポルト氏の指摘にもあるように,整数の段階では,集合の直積に近い意味づけをしても,累加の考えに帰着してほぼ処理できることや,直積の考えのままでは,実際に乗法を適用するに当たって,困難をともなうことなどの理由があげられよう.
 b) 小数・分数(有理数)の場合に,どんな意味づけをするか.
(以下略)

(p.77)
 イ. 乗数と被乗数の区別を離れた一般的な意味
 上でのべたような抽象的な意味づけまでは到らないにしても,現在よりも,もう少し一般的な意味づけを目指す必要はないかは,研究の余地があることである.
 これを考える一つのねらいは,乗数と被乗数の区別なく用いられる意味づけを必要としないかということである.この点に関して,本会誌(1968,2月号)で,次のような意味をもたせることを提案しておいた.
 『A×Bを,AとBとに比例する「もの」』としてとらえる見方である.

(p.7)
要約
 本研究の目的は,小数の乗法を割合で意味づける立場の意義,及び,この立場に基づく教材・授業展開を明らかにすることである.割合で意味づける立場とは,乗数が整数の場合に「同数累加」で,乗数が小数になったときに「割合」でとらえる立場である.そこで,このように意味づけることの意義を明らかにするとともに,この立場の問題点を探り,その改善の方向性を示す.
 本研究の結果,以下のような知見を得た.割合による意味づけは,「拡張の考え」を指導する場となることや整数・小数・分数を統一的にみられるという価値がある.(以下略)

(p.7)
 2. 小数の乗法を割合で意味づける指導
 (1) 小数の乗法の意味づけ
 小数の乗法の意味づけは,様々な立場から行うことが考えられる.それらの立場の代表的なものとして,「同数累加」,「量×量」,「基準量×割合」の3つがある.

(p.66)
 以上の記述状況を前に,数学教育協議会の遠山の知見に改めて立ち返ってみよう。遠山(1974)によれば,かけ算をたし算の繰り返しとする従来の意味づけでは,“かければ増える”という考え方が自ずと形成され,その結果,かけても増えない「×3/4」「×0.3」「×1」「×0」「0×」で児童はつまずくことになる。加減と乗除を“別の演算として”扱い,かけ算を「1あたりの量×いくつ分」と意味づければ,そのつまずきは生じない(遠山 1972a, 1974)。このように「×分数」「×小数」という“九九の後の”学習内容との関連も踏まえて,遠山は九九の式を新たに意味づけている。

 ここまでの「意味づけ」についての共通点は,冒頭に記したとおりです。
 以下の書籍や論文にも,乗法・除法に関して述べた中に「意味づけ」または「意味付け」の表記がありました。その使われ方は,必ずしも,上記と同様ではありません。

 ここで,『小学校学習指導要領(平成29年告示)解説算数編』のPDFファイルの中で「意味づけ」を検索すると,かけ算と関係ないところ(p.8)に出現していました。そのもとになっているのはhttps://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/053/siryo/__icsFiles/afieldfile/2016/12/12/1380468_3_4_2.pdf#page=2の「算数・数学の学習過程のイメージ」の図で,下段の「結果」から左に向いた,「日常生活や社会の事象」へのブロック矢印に添えて,「活用・意味づけ」とあります。

*1:例えば,算数の計算は単位をつけないけれど,文章題だから,その場面に合った単位をつけて「答え」とする,という行為は「意味づけ」と見なされません。

*2:この文献は,前出の中島の文献を引用しています。