- 山本良和: 言語としての式の機能の意識化に関する一考察―1年「たし算」―, 算数授業研究, 東洋館出版社, Vol.118, pp.68-71 (2018).
算数授業研究 Vol.118 論究XIII 算数で育てる子どもの表現力
- 作者: 筑波大学附属小学校算数研究部
- 出版社/メーカー: 東洋館出版社
- 発売日: 2018/08/13
- メディア: 単行本
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【ルール①】
- 2人組でじゃんけんを2回する。
- 1回につき,勝ち3点,引き分け2点,負け1点。
- 合計点を求め,「x対y」で表す。
【ルール②】
- 2人組でじゃんけんを2回する。
- 1回につき,勝ち3点,引き分け1点,負け0点。
- 合計点を求め,「x対y」で表す。
これら2つのルールは,異なる授業時間での適用となります。具体的には,【ルール①】のじゃんけんゲームは,「ふえるといくつ」として配当した4時間の授業のうちの最後に実施し,【ルール②】についてはその次,「0のたし算」での実施となります。
さて,【ルール①】に基づき,クラスの子どもたちが2人組になってじゃんけんゲームを行います。先生(著者の山本氏)が,全員の結果を確認したとしながら,「2対6」「4対4」「3対5」「5対7」「5対5」「5対3」「6対0」「4対3」を黒板に書きます*1。
ですが子どもたちはすぐに,「6対0」はおかしいと指摘します。1回すれば,負けても点数がつくので,2回やって「0点」にならないからです。要は先生による捏造です。
そこで他の対戦結果についても,起こり得るか否かを,授業を通じてチェックしていきます。上で8つ挙げたうち,「6対0」のほかに「5対5」と「4対3」も起こり得ないと言えます。というのも【ルール①】では,1回のじゃんけんで2人が獲得する点数の合計は必ず4点であり,2回だと合計8点です。「6対0」も「5対5」も「4対3」も,この必要条件を満たさないのです。
【ルール②】でも同様に実施したのち,先生は「4対1」「3対3」「0対6」「2対2」を提示します。これらはいずれも起こり得ます。その検証に(【ルール①】の授業でも見られましたが),増加の意味の加法が有効活用できます。「4対1」について,1回目は一方の勝ち,2回目は引き分けとすれば,3+1=4と0+1=1という式に表せます。「3対3」については,2人が1回ずつ勝ったという状況が考えられ,式は3+0=3と0+3=3です。「0対6」は,一方が2回勝った場合が該当し,式は0+0=0と3+3=6です。「2対2」は,2回とも引き分けで,1+1=2と1+1=2です。
加法の記号「+」の左側に,1回目のじゃんけんで獲得した得点を書き,右側には2回目のじゃんけんで獲得した得点を書くことで,合計得点が求められます。また2人のたし算の式を上下に並べて書けば,「+」の左側の(上下に並んだ)2つの数は,「3と0」「1と1」「0と3」のいずれかであり,「+」の右側についても同様です。そうでない場合には,書き間違いがあるよと,指摘をすることもできます。2人が1回ずつ勝ったときに,3+0=3と3+0=3という式を書いたときにも,おかしいんじゃないのと,ツッコミを入れられるわけで,これは昨日付けの記事で引用した「始めにAあったところにBが追加されると「A+B」という式になる。「B+A」としたら変だと子どもが感じられるようになったとき,増加の加法の意味と式という表現が理解できたと言える」と関係してくる話です。
ここから元の文章を離れた検討を行います。目的は,「+」の左側に1回目,右側に2回目を書かないような,定式化です。ルールを次のように変更します。
〔ルール〕
- 2人組でじゃんけんをn回する。
- 1回につき,勝ちp(w)点,引き分けp(d)点,負けp(l)点。
- 合計点を求め,「x対y」で表す。
勝敗について,G={w,d,l}という集合を定義しておきます*2。nは正整数,pはGから実数への写像とします。n=2, p(w)=3, p(d)=2, p(l)=1と割り当てれば【ルール①】に対応し,【ルール②】についても同様に割り当てを決めることができますので,〔ルール〕は,【ルール①】および【ルール②】の一般化となっています。
各回の勝敗に関する制約条件も,取り入れないといけません。2人組でじゃんけんを1回行ったとき,一人が勝ちならもう一人は負け,引き分けなら相手も引き分けとなることです。これに関しては,一方の勝敗に対する他方の勝敗を,写像として導入します。すなわちoをGからGへの写像とし,o(w)=l,o(d)=d,o(l)=wとします。
2人組の一人に着目して,n回,じゃんけんを実施したときの勝敗を順に,g1, g2, ..., gnと表します。それぞれの回に得た点数は,a1=p(g1), a2=p(g2), ..., an=p(gn)です。相手の勝敗は,順にo(g1), o(g2), ..., o(gn)であり,得点は,b1=p(o(g1)), b2=p(o(g2)), ..., bn=p(o(gn))です。
着目した人の合計得点は,x=Σai=Σp(gi)(範囲を明示するなら,=)であり,もう一人の合計得点はy=Σbi=Σp(o(gi))(==)です。総和を求める手順は関知しない(先頭から足していく必要はない)とすれば,これによって,「たし算の順序」なしに,このじゃんけんゲームの各回の勝敗・得点および合計点を,記述もしくは算出できるというわけです。
ここまでの流れを,1枚の画像にしました。
時系列の扱いは,加法という演算ではなく,「g1, g2, ..., gn」という記号を導入したところで,対応がなされています。1回分のじゃんけんゲームの勝敗を,得点計算のためのルールと分離した,と言うこともできます(それに対し1+3=4といった式には,勝敗を数値化したものと,得点計算のルールの両方が含まれています)。とはいえ,「たし算には順序がない」と主張するときの,このじゃんけんゲームの得点計算に関する認識が,ここまで書いてきた通りであるかどうかは,定かではありません。