監修者が書いたという序章の,最初の2ページ(「(1) 教科内容と教材を区別すること」,pp.10-11)を読んで,いくつか戸惑いを覚えました。まずp.11で,啓林館の3年の教科書の「2011年度版」を取り上げることの妥当性が見えてきませんし*1,p.10に戻って本文中の「はした(半端)の長さ」の表記も,「はした」を漢字で表すのなら「端」だし,小学校学習指導要領の算数に出現する語句だと「端数部分」なのだけどと,思いました。
最も違和感があったのは,以下の,小節を締めくくる段落です(p.11)。
足し算の計算式で単位をつけなかったり、掛け算で計算の順序が違ったりしていると×にされたといったことが、学校の特殊ルールや謎ルールとして批判の対象になることがあります。それらの多くは、計算の意味理解を図り、長期的に見て子どものつまずきを減らすための先人の知恵であったのが、形骸化したものが多いのです。そうした素朴な「なぜ?」を大事にすることが、教科書の読み解きにつながり、教材理解を深めるでしょう。
表記としては,「それらの多くは…多いのです」の文や,「足し算」「掛け算」になじめません。演算の表記は「たし算」「かけ算」または「加法」「乗法」がわかりやすく他の算数教育・指導の情報源と整合します。「足し算の計算式で単位をつけな」いことで「×にされた」というのは,複名数の加法(例えば,1m80cm+2m30cm=4m10cm)のことでしょうか。「掛け算で」「順序が違ったりしていると×」というのは,計算ではなく立式に関する話のはずです。また『小学校学習指導要領(平成29年告示)解説算数編』には,第2学年の乗法の解説の中に「乗法の計算の結果を求める場合には,交換法則を必要に応じて活用し,被乗数と乗数を逆にして計算してもよい。」が入っています。「×にされたといったこと」を「形骸化したものが多い」と結びつけて,よいものなのでしょうか。
「足し算」「掛け算」について,子どもたちが最初に学習するのは1~2年です。『算数教科書のわかる教え方 1・2年』が,同じ監修者,そして樋口万太郎著で出版されるとのことで,取り寄せて読み直したいと思います*2。
「5・6年」の加固氏の著述では,教科書の抜粋(p.25ほか)にJEPGでよく見かける「ぼやけ」「ぎざ」があるほか,教科書の抜粋ではなく本書用の数直線の図で,同じ種類の量の数値の配置が揃っていない(p.81の図が顕著)のは,見て気になりました。二重数直線(比例数直線)が多用されているけれどもその必要性・妥当性やレディネス(この図を使用して問題解決するにあたり何を知っておくべきか)を見出すことができませんでした。
*1:監修者は平成27年度・令和2年度の算数教科書では学校図書の編集者に名前があります。
*2:Amazonでは,1・2年の[isbn:9784867570043]の発売日は2022/7/21,3・4年の[isbn:9784867570067]は2022/8/3でいずれも予約受付中となっています。5・6年の発売日は2022/7/7ですが「今すぐ購入」ができます。手持ちの本は書店で購入したもので,「2022年7月20日 初版発行」です。