- 作者: 礒田正美,小原豊,宮川健,松嵜昭雄
- 出版社/メーカー: 明治図書出版
- 発売日: 2014/02/14
- メディア: 単行本
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タイトルから想像できるように,想定する読者は中学校数学科の教師ですが,内容面ではずいぶんと,小学校算数科の話が入っています。数学の間違えやすい箇所(「はじめに」によると,「62の典型的なつまずき」)を,算数の既習事項を取り入れながら,解説しています。
基本的には見開きが1つの項目で,右側(奇数ページ)の上部に「関連する既習事項」と題して枠で囲まれ,どんな事項をどの学年で学習するかとともに,踏み込んだ説明がなされています。「かけ算の順序」に密接に関連する文章が,p.17にありました*1。
■*2 乗法と累加の関係(小2)
ことばの学習でもある小学校低学年では,四則演算は問題場面に対して定義されます。乗法は「~のいくつ分」で表せる問題場面で定義され,「4×3の答えは,4+4+4の答えと同じ」(累加)も導入されます。その定義から,「4×3は4の3つ分」,「3×4は3の4つ分」というようにその区別を学びます。「答えは同じ」という意味で4×3=3×4とできます。それ以上計算できない「値としての式」は未習であるため,「~のいくつ分」の意味では,両辺は同じ式といえません。
「関連する既習事項」の囲みがp.27から3ページにわたる中で,さらに箱で囲まれた,2つの設問(p.28)が,目を引きました。
①7人にえんぴつをあげます。1人に3本ずつあげるには,ぜんぶで何本いるでしょう。
②おかしが,はこに6こずつ入っています。ぜんぶの数は,6この何倍でしょう。
問いのみで,何が正解・不正解かは明記されていませんが,①についてはその直後の「乗法は(1つ分の大きさ)×(いくつ分)=(全体の大きさ)という状況を表す文章(関係式,等式)で導入されます」から,期待される式は,3×7=21で,答えは21本です。
一方,②は,(1つ分の大きさ)×(いくつ分)=(全体の大きさ)で考えればよいとはいえ,①とは異なる難しさを含んでいます。1つ分の大きさは6(こ)ですが,いくつ分にあたる,具体的な数が,提示されていないのです。言葉の式にするなら,「6×はこの数」ですが,「何倍」と問われています。「はこの数倍」も「はこ倍」も,書いてみると違和感があります。
具体的な数が分かれば,小学生でも(中学生による算数の復習でも)妥当な難易度となります。お菓子が6個ずつ入った箱の絵が添えられていると,その箱の数をもとに,5箱なら「5倍」と言えるわけです。
かけ算とは別で,気になったのを2点,挙げておきます。まず,いくつかのページで,比例数直線を見かけます。これについてp.23の指導のポイントには「教科書には比例数直線はありませんが」とあり,算数偏重の中学数学解説書と感じました。同じページの図の中で「被乗数」はおかしく(被乗数にあたるのは-2だけなので),算数の用語を使うならそこは「もとにする量,比べる量」*3で,「乗数」も「割合」に読み替えたいところです。
「1組の対辺が平行で長さが等しい四角形は,平行四辺形」に関して,pp.98-99に2箇所出現する「△ADC≡△ABC」は,「△ADC≡△CBA」と思われます。