かけ算の順序の昔話

算数教育について気楽に書いていきます。

2020年筑波の板書本に見る,被乗数と乗数の順序

 2003年([isbn:4491019371]),2011年([isbn:9784491027326])のシリーズの改訂版,と言いたいのですが書影・巻末のどちらにも「改訂版」「第3版」とは書かれていません。奥付を見ても,今回の本は「2020(令和2)年8月23日 初版第1刷発行」となっています*1
 構成は踏襲されており,2年下の最初の単元がかけ算なのも同じですが,かけ算の学習内容は,大きく様変わりしたように感じました。
 まず気になったのは,「基準量が後に示された適用題」または「順序を問う問題」を扱った授業が,なかったことです。
 そして,かけられる数とかける数とを反対にした式を,積極的に認めています。「かけ算の式になる場面を探そう!」(pp.36-37)が顕著です。板書では6つの事例が挙げられ,そのうち3つ(いずれもp.37)は,「くつばこ 8×5」に「5×8にも見える」という吹き出しを添えて,反対もOKという捉え方です。
 板書の左側の,かけ算の式が一つずつという3つの場面と,右側(中央部)の,2つのかけ算の式ができる場面とで,違いがあるのか,または前者はとりたてて反対にした式を考えなかったのかが,読み取れませんでした。
 ある場面に対して「4×3」と「3×4」の両方を認めているのは,板書ではp.29ですが,板書(授業)より前,p.19に,以下のように詳しく書かれていました。

 なお,右の絵の場合,4色の花のまとまりを1つ分と見ると「4×3」となるが,同じ色の花を1つ分と見ると「3×4」と表せる。被乗数と乗数の順序は,何をもとにして「1つ分の大きさのいくつ分」と見るかによって変わるのである。問題場面を式で表現する場合に子どもに意識させたい乗法の見方の一つである。この例は,乗法の交換法則を理解するもとにもなる。

 この中の「被乗数と乗数の順序」は,2017年の『小学校学習指導要領解説算数編』に記載されたものです。2011年の書籍からも見ることができ,以下にて関連情報を紹介しています。

 今回の「板書本」をもとに指導する場合,従来の文章題で,かけられる数とかける数が反対なのでバツとされてきたものについて,アレイまたはトランプ配りを根拠とすれば,正解となりそうです。
 上で,「基準量が後に示された適用題」は授業にないと書きましたが,上記引用の前の段落で,次のように記載がありました。「5つの箱」が先,「6個」が後*2ですが,かけ算の式は「6×5」です。なおひとつの段落に「1つ分の大きさ」と「一つ分の大きさ」があるのは原文ママです。

 乗法は,1つ分の大きさが決まっているときに,そのいくつ分かに当たる全体の大きさを求める場合に用いられる。例えば右図のように同じ5つの箱に入ったチョコレートの総数を考える場合,1箱が6個であれば,総数は「1箱に6個ずつ5箱分」と表現することができる。それは「6+6+6+6+6」という加法の式で表すこともできるが,乗法では「6×5=30」,すなわち「一つ分の大きさ」×「いくつ分」=「全部の数」という式で表す。だから,乗法は同じ数を何回も加える加法,すなわち同数累加の簡潔な表現と捉えることもできる。

 ともあれ,次の学習指導要領が出るまでの,「筑波の算数のかけ算の指導はこうだ!」という本が出ました。授業での活用を,静観したいと思います。

*1:ところで奥付では,「板書で見る全単元・全時間の授業すべて」「算数 小学校2年下」の次に,小さく「~令和2年度全面実施学習指導要領対応~」と書かれていますが,ジャケットにも,ジャケットを取った表紙にも,これは書かれていません。

*2:かけ算の最初の授業になるp.21にも,板書の下段(教師向け解説)に「箱の数は5個だと分かっているし,1つの箱の中の数が6個だと分かったからである。」と書かれています。板書の式は「6+6+6+6+6=30」です。