ただ、学習指導要領解説での掛算順序の記述は2017年の改訂で加わったもので、それまでは学習指導要領解説にも掛算の式の表現をどのように教えるか具体的な記述がなく、掛算順序が表現のレイヤーの話であることが明確じゃなかったのだと思います。
「学習指導要領解説」で「掛算の式の表現をどのように教えるか具体的な記述」は,第3学年に例示されています。『小学校学習指導要領(平成29年告示)解説算数編』だと,以下のところです。
- (p.143) また,「内容の取扱い」の(3)では,「乗数又は被乗数が0の場合の計算についても取り扱うものとする」と示している。例えば,的当てで得点を競うゲームなどで,0点のところに3回入れば,0×3と表すことができる。3点のところに一度も入らなければ,3×0と表すことができる。0×3の答えは,実際の場面の意味から考えたり,乗法の意味に戻って0+0+0=0と求めたりする。また3×0の答えは,具体的な場面から0と考えたり,乗法のきまりを使って3×3=9,3×2=6,3×1=3と並べると積が3ずつ減っていることから,3×0=0と求めることができることに気付くようにする。
- (p.148) また,除法は,乗法の逆算ともみられる。そこで,乗法と関連させて,被乗数,乗数のいずれを求める場合に当たっているかを明確にすることも大切である。等分除は,□×3=12の□を求める場合であり,包含除は3×□=12の□を求める場合である。
文科省サイトでダウンロード可能な,「1つ前」の解説にも,同様の文章が書かれています*1。0×3や3×0などについてはp.107,□×3=12や3×□=12などについてはp.110です。
「2つ前」の解説は,電子版を読むことはできませんが,書籍が手元にあります。「平成11年5月31日 初版発行」「平成19年7月20日 一部補訂 1版発行」です。
前後を読んで気づいたのですが,この平成11年版の学習指導要領解説に,乗法の話で「順序」の語が含まれていました。該当箇所を書き出します(p.92)。
第2学年では,乗法が1ずつ増すときの積の変化や交換法則などを学習してきている。この学年(引用者注:第3学年)では,乗法の交換法則や結合法則について,加法についての交換法則や結合法則の場合と同様に考えられるようにする。一般に,a×b=b×a,(a×b)×c=a×(b×c)の式は,乗法では,計算の順序を任意に換えても結果は変わらないことを示している。(以下略)
この冊子の第2学年のところ,そして1つ前と現行の学習指導要領解説の第3学年のところには,乗法の解説*2に「順序」は見つかりませんでした。
そして,「計算の順序を任意に換えても結果は変わらない」は,交換法則と結合法則に関する主張となっています。古い本では,『新式算術講義』に「a, b, nなる三個の數に順次乘法を施こすとき因數の順序は積に影響することなき」「a, bなる二數の積は因數の順序に關係せず」として,同じページに出現します。裏取りできていませんが,中学1年の数学でも,交換法則と結合法則を合わせて,「順序」について言及したものを読んだことがあります。
冒頭のリンク先の内容のうち,「表現という層」の概念や,レイヤー分けには,賛同できません。「かけ算の順序」を視覚化するために自作した図は,かけ算の「順序」について(2017.12)に掲載しています。
*1:https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/new-cs/youryou/syokaisetsu/index.htmより解説のPDFがダウンロード可能です。算数は2つに分かれていますが,各学年の内容は,算数(2)のほうです。
*2:「数の大小や順序」や,加法において「順序を変えて計算しても答えは変わらない」などで「順序」は出現しています。