かけ算の順序の昔話

算数教育について気楽に書いていきます。

Common Core Curriculumでは,5×3=5+5+5は間違い

 現時点でページ上には「翻訳日:金」と表示され,2021年12月31日に公開されたものとなっています。以下では翻訳版と呼びます。
 またRechard Muller氏のアイコンと氏名のあと,「この回答は次の質問に対するQuora英語版での Richard Muller さんの回答です (ご本人は翻訳の成否を確認しておりません) :」ともあります。以下のリンク先を原文と呼びます。この原文が書かれた日付は不明ですが,「Updated 2 years ago」なので,2019年に作成・公開されたと推定できます。

 それぞれの主要箇所を取り出す前に,いくつか外部の情報を見ておきます。タイトルの「5 x 3 = 5 + 5 + 5」で連想するのは,http://imgur.com/gallery/KtKNmXGの画像です。Multiplication in classes - わさっきhbでは,賛否を記した情報にリンクしています。
 翻訳版の内容で,目についたのは,「更新:」からあとのいくつかの段落です。

5+5+5という答えは、数学ではなくアルゴリズムの変換を学ぶクラスであるため、間違っていると判断されたのです。それにしては、言葉の意味が非常に特殊で、「コモン・コア・カリキュラム」では、5×3=3+3+3+3が正解で、5×3=5+5+5が不正解と指定されていたのです。
もちろん、数学的にはどちらも正しいのです。しかし、アルゴリズム翻訳の観点からは片方が間違っていたのです。

ここで、数学の素養のある人が皆、納得するような類似の問題を紹介しよう。
1 + 3 x 3 の数値を求めなさい。

アルゴリズム変換は、特に数学の表記を簡略化するのに便利なスキルですが、「不正解」を説明しないと害になることがあります。私は、生徒たちに「慣例は実は数学だ」と思わせないほうがいいと思います。慣例は言語の一部です。例えば、足し算の前に掛け算をするのは慣例ですが、これは便利ですが数学ではありません。
だから、答えが間違っていると判定されることには、私はやはり抵抗があります。この答案は、数学は本当に理解しているが、アルゴリズム変換を学習していないことを示しています。その違いに気づかない限り、数学の学習を阻害することになりかねません。

 原文では,次のようになっています。

The answer 5+5+5 was marked wrong because the class was not learning math but algorithm translation. For that, the meaning of the language was highly specific; the “common core curriculum” specified that 5 x 3 = 3+3+3+3+3 was the correct answer, and 5 x 3 = 5+5+5 was incorrect.
Of course, they are both correct mathematically. But one was wrong from an algorithm translation perspective.

Here is a similar problem on which anyone with a math background would agree:
Evaluate 1 + 3 x 3

Algorithm translation is a useful skill, particularly for simplifying math notation, but it can do harm if the “incorrect” answer is not explained. I think it is better not to make students think that conventions are actually math; they are part of language. It is a convention that we multiply before we add; that convention is useful but it is not math.
So I still object to the answer being marked wrong. The answer given showed real understanding of math, but failure to learn algorithm translation. Unless the student realizes the difference, it can impede the learning of math.

 数式に着目すると,「5×3は3+3+3+3+3(であって5+5+5ではない)」と,「1+3×3を計算すると10(であって12ではない)」を,同列に扱っているように見えます。
 違いもあります。1+3×3の計算を,「数学の素養のある人が皆、納得するような類似の問題」として紹介しています。それに対し,5×3は3+3+3+3+3でなければならないのか,5+5+5でもいいのではないか,としてみると,「数学の素養のある人が皆、納得」できるような答えが確定していない,とも言えます。
 共通点としては,「5×3を3+3+3+3+3と表すこと」も「1+3×3=1+9=10」も,米国のmathematicsにおける「取り決め」である点です。前者(5×3)について,「コモン・コア・カリキュラム」においては,http://www.corestandards.org/Math/Content/3/OA/#CCSS.Math.Content.3.OA.A.1の"Interpret products of whole numbers, e.g., interpret 5 × 7 as the total number of objects in 5 groups of 7 objects each."が関連します。またhttp://www.corestandards.org/Math/Content/mathematics-glossary/Table-2/でも,"3 x 6 = ?"の場面において,3が乗数,6が被乗数であることが確認できます。
 ただしCommon Coreで公開のStandardsは,日本の学習指導要領やその解説と同じように,教科そして学年で何を学ぶべきかが指定され(specified),何が正解・不正解かは指定されていないように見えます。正解・不正解は,各Standardをもとにした指導やテストに依存するところが大きいように,思っています。
 最後に,この問題(problemではなくissue)についての個人的な見解を述べると,「交換法則により5×3は3×5と等しい」という事実と,「5×3をたし算で表すなら(米国では)3+3+3+3+3」という取り決めは,いずれも小学校のmathematicsで学んだり,5×3という式をもとに示せるようになってほしいと考えます。いずれも数学的素養であり,翻訳版のうち「慣例は実は数学だ」に賛成するものです。補足すると,「5×3をたし算で表すなら3+3+3+3+3」の取り決めを含む,数学の体系を作ることができます。例えば『新式算術講義』では乗法を累加で導入しています。
 教科としての数学(日本の算数を含む)においては,外在的評価を含む各種テストを通じて評価し,出題者(教師またはそれに近い立場)と解答者(学習者,言い換えると子どもたち)に適切な形でフィードバックされることが期待されます。国内のテストで連想するのは,東京都算数教育研究会の学力調査です(都算研のH30年度学力実態調査について)。小学6年生・中学3年生が解答する全国学力テストでは,解説資料などに「乗数と被乗数を入れ替えた式なども許容する。」という注意書きを見かけますが,かけ算の式の読みを含め,順序に配慮した出題を見ることもできます(順序を問う問題 - わさっきhb)。