かけ算の順序の昔話

算数教育について気楽に書いていきます。

月給20万の社員5人がいる会社が1年間に払う給料の総額は

まあそれとここのまとめでは触れられていませんが、「3つ以上の掛け算の順番はどうするんだ?」って別の本質的な問題があるんですけどね。例えば、月給20万の社員5人がいる会社が一年間に払う給料の総額は?って問題だと「先に一人あたり一年に払う給料を計算するのか、一ヶ月あたりの総額を計算するのか?」って感じに途端に破綻しますし。

 関連する文章題が,思い浮かびます。「5人家族があります。それぞれ,1日に3個ずつ,ミニトマトを食べます。7日間で,この家族は全部で何個のミニトマトを食べるでしょうか?」です。

 この記事の「1人1日3個食べる」を含む図を,給料の問題に適用すると,次のようになります。なお,パー書きの数量表記を用いず,要素間には,乗法的オペレータではなく式を書いています。

f:id:takehikoMultiply:20220121201052j:plain

 ここで,教育出版の令和2年度の算数教科書『小学算数3上』p.18,「3つの数のかけ算」の文章題と比較します。問題は「1こ50円のドーナツが,1箱に4こずつ入っています。2箱では,何円になるでしょうか。」です(最初の「箱」の上に,「はこ」と,読みがなが振ってあります)。はるさんは「50×4=200 200×2=400 答え 400円」として求め,ゆきさんは「4×2=8 500×8=400 答え 400円」です。最終的に「50×4×2=50×(4×2)」という式にまとめています。
 この箱売りの問題で,2通りの計算ができることは,次の図のように表されます。

f:id:takehikoMultiply:20220121201110j:plain

 なのですが,先ほどの給料の図と,違うところもあります。2つの図について,右上と左下を,答えを求めるための式に置き換えると,違いが見えてきます。

f:id:takehikoMultiply:20220121201119j:plain

f:id:takehikoMultiply:20220121201127j:plain

 給料では,「20×5×12」と「20×12×5」との対置で,2番目・3番目の因数が入れ替わっています。それに対し箱売りの問題は「(50×4)×2」と「50×(4×2)」です。カッコを取り除けばどちらも「50×4×2」で,この式の2つのかけ算のうち,どちらを先に計算するかが異なるのです*1
 矢印に添えた,2項演算のかけ算は,次の通りです。

  • 給料
    • 20×5=100
    • 100×12=1200
    • 20×12=240
    • 240×5=1200
  • 箱売り
    • 50×4=200
    • 200×2=400
    • 4×2=8
    • 50×8=400

 いずれも,「1つ分の数×いくつ分=ぜんぶの数」のかけ算です。「4×2=8」だけは,ドーナツの数を求めるかけ算です。他については金額の計算で,すべて,かけられる数と積がともに金額で,かける数はそれらと異なる数量に対応付けられます(「4×2=8」についても,ドーナツの数×箱の数=ドーナツの数です)。
 https://togetter.com/li/1833142に出現する他の表記を使用し,本記事の結論にします。「月給20万の社員5人がいる会社が一年間に払う給料の総額は?って問題」については,「(一つ分の数)×(いくつ分)」に基づいて式を立て,答えを求められることを確認しました。
 ただし,本記事で紹介した教科書の文章題では,読者は式を立てません。
 はるさん・ゆきさんによる式と答えがあって,そこから式の読みを行う---先に何を求めるのかが2通りの計算で異なる---という中で,「(一つ分の数)×(いくつ分)」が使われます。「(一つ分の数)×(いくつ分)」も「1つ分の数×いくつ分=ぜんぶの数」も,教科書の該当ページには見当たりません。

*1:給料の「20×5×12」と「20×12×5」では,ともに左から計算しています。後ろのかけ算を先に計算すると,それぞれ「5×12=60」と「12×5=60」ですが,このかけ算は,https://takexikom.hatenadiary.jp/entry/2018/01/31/053153に載せた図の,左上と右下を結ぶ矢印と関連します。このかけ算も興味深いのですが,算数の教科書や授業事例では見かけません。