昔,参加者として,また開催する側として,かかわった級位認定のことを思い出しながら記録に残します。先に結論を書くと,8×0と0×8は違う状況を表します。
1990年代の,とあるテレビゲームです。ゲームソフト開発会社が設立した「協会」のもと,「公認大会」を全国に展開し,「段」と「級」を認定していました。
全国大会は別にして,「公認大会」を行うのは基本的に,「加盟団体」です。書類申請と登録料金により,簡単に加盟することができました。企業ではなく,店舗(ゲームショップ),学校(文化祭・大学祭などでの開催),またそのゲームだけの活動をする団体というのもありました。
段級位の認定のあらましを書きます。加盟団体が,本戦参加者に「級カード」を交付します。紙製で,裏面に1から9までの枠があり,そこのいずれかに(加盟によりもらう)判を押し,発行年月日を手書きして,何級であるかを示します。公認大会の本戦は,8人,16人,32人,64人,128人のいずれかによるトーナメント形式,とルール化されていたように記憶しますが,最も多く開催されたのは16人でした。参加者が多いと予選を行い,予選落ちの人には,級カードの発行はありませんでした。公認大会の実施にあたっては,加盟団体が本戦参加者数を含む事前申請を行い,そのつど,無記載のカードを受け取っていました。
級位の認定を,級カードを持っていない人,持っている人に分けて説明します。まず級カードを持っていない人が,本戦1回戦または2回戦で負けた場合には,9級のカードをもらいます。2回戦突破以降は,2回戦を含め1回勝つごとに,一つ上の級になります。本戦16人の大会で,ベスト4は(2回戦まで勝ったので)8級,準優勝は7級,優勝は6級です。理論上,本戦128人のトーナメントで優勝したなら,3級スタートとなります。
級カードを持っている人が,公認大会の本戦に出場したときは,カードは更新されます。本戦1回戦または2回戦で負けた場合には,級は変わりません。2回戦以降は,2回戦を含め1回勝つごとに,一つ上の級になります。本戦16人の大会で優勝したら,「3級上がる」ことになります。なお,1級の「一つ上の級」は初段となり,加盟団体は級カードを受け取って報告します。該当者には後日,名前の入ったプラスチック製の初段カードが郵送されます。
ここまで書いたルールを厳格に適用していくと,参加者は,紛失しない限り,持つことのできる級カードはせいぜい1枚となります。
しかし,公認大会の増加に伴い,異なる運用がなされるようになりました。本戦16人の大会なら,16枚の級カードについて,1回戦・2回戦敗退の12枚には9級,ベスト4の2枚には8級,そして1枚ずつ準優勝の7級と優勝の6級に,事前に級位認定の判を押して(日付その他も書いて)おき,終了したら該当者に手渡しておしまい,とするのです。
この運用が広まると,一人でいくつもの公認大会に本戦出場し,級カードを土産に持ち帰るという参加者が出てきました。
そうすると,「級ポイント」の概念が考え出されました。次のように,級とポイントとを対応づけます。
級 | ポイント |
---|---|
9級 | 0 |
8級 | 1 |
7級 | 2 |
6級 | 3 |
5級 | 4 |
4級 | 5 |
3級 | 6 |
2級 | 7 |
1級 | 8 |
(初段申請) | 9以上 |
この対応付けは,上に書いた「級カードを持っていない人,持っている人」の級位認定と整合するとともに,加法性を有します。例えば,ある人が4つの大会に本戦出場し,8級,9級,9級,6級の級カードが手元にあったとすると,ポイント換算して加えると1+0+0+3=4ポイントで,5級というわけです。
かけ算で,考えることもできます。本戦参加者の4分の3に配付される9級のカードは,何枚持っていても,上の級になることに寄与しません。「9級カードを100枚持っていても9級」と,言われたこともありました。
逆に,厳格な運用で1級のカードを持つ人が,公認大会で2回戦を突破してから,自分のカードを持参するのを忘れたのに気づいたという場合には,初段申請ができません。級カードを持つプレイヤーではなく加盟団体が手続きをするからです。
ここでかけ算の式にします。1級カードを持っているのに,大会に持参しなかったら,8ポイント×0=0ポイントで,9級扱いの本戦参加となります。9級カードを100枚は,さすがに多すぎるので,8枚持っているとすると,0ポイント×8=0ポイントで,9級扱いというわけです。
小学校学習指導要領の算数の第3学年の乗数又は被乗数が0の場合の計算についても取り扱うものとする。に関して,それぞれ8×0=0,0×8=0の事例と,言うことができます*1。
*1:級ポイントの概念は,「級+ポイント=9」と表せます。これは第4学年の「伴って変わる二つの数量を見いだして,それらの関係に着目し,表や式を用いて変化や対応の特徴を考察すること。」https://w3id.org/jp-cos/8250243312100000に含まれます。