- 山本孫一, 中野恭一: 尋常小学新算術取扱の実際 第2学年用, 目黒書店 (1925). https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/938863
この書籍は,令和2年度算数教科書読み比べ(5)~a×bとb×a,答えは同じでも意味が違うの末尾で取り上げていました。コマ番号110の右のページ(p.207)の「9×3と3×9とはどうちがひますか。」です。コマ番号105(p.196)には,「3の八倍も8の三倍も同じことを図で表はしてごらん」,またコマ番号106(p.198)には,「8×5と5×8が同じ数になることを図で表はしてごらん。」という出題もありますが,かけられる数とかける数を交換した2つの式について,「意味(どのような数量関係を表すか)」が同じというではなく,「答え(結果としていくつになるか)」が同じとなるのを,意図した出題とみなしてよさそうです。
「第二学期 乗法」を読むと,かけ算の順序を問う問題を見つけることができました。次の3つです。
- コマ番号68(p.122): 子供が八人ゐるのにだれにも同じやうに四枚宛紙を与えるのに皆で紙が何枚いりますか。
- コマ番号87(p.160): 栗が4袋ある、1袋に30宛あると皆で幾つあるか。
- コマ番号106(p.198): 8人家内でだれも同じ様に着物を九枚宛もってゐるとしたら皆で何枚ありますか。
今の算数であれば,式はそれぞれ,4×8=32,30×4=120,9×8=72です*1。
ところでこれらの文章題には共通して,「宛」という漢字が使用されています。Webの辞書を見ておくと,Weblio辞書(デジタル大辞泉)の宛では,「あて【当て/宛】」の中に「配分する数量・割合を表す。あたり。「ひとり宛二個」」と書かれています。ですが用例の「ひとり宛二個」と,文章題のうちの「四枚宛紙を与える」は,合っているように見えません。
もう少し調べると,「宛」には「ずつ」という読み方があり,金融業界で使われているのを知りました。
漢字ペディアで書かれている意味・用例の最初が「①同じ数を割りあてることを表す。「一人二個―配る」」で,これは「四枚宛紙を与える」「1袋に30宛ある」「着物を九枚宛もってゐる」と合致します。「4枚ずつ」「30ずつ」「9枚ずつ」とし,Equal groups*2に注意すると,これらがかけられる数になる,と認識すればいいのです。
*1:ところで「8人家内」というのは,日常で見かけない表し方だと思います。今だと「八人家族」です。
*2:"Equal groups"や他のモデルについては,https://takexikom.hatenadiary.jp/entry/2019/09/10/211914をご覧ください。「ずつ」の必要性や,「ずつ」のつく数量が「乗数を修飾している」という事例は,https://takexikom.hatenadiary.jp/entry/2017/12/18/060027で取り上げています。