かけ算の順序の昔話

算数教育について気楽に書いていきます。

算数における順列・組み合わせの扱いについて

 数学(初等組合せ論)における順列について,算数の授業でよく見かけるのは,順列の総数が{}_4P_4(または4!,4×3×2×1)で表される場面です。式は「6×4」です。
 Googleで「算数 学習指導案 順列」を検索し,上位のページから,主要なところを取り出しました。

事例1: 第6学年 算数科学習指導案

ジェットコースター・観覧車・ゴーカート・メリーゴーランドに1回ずつ乗ります。乗る順序には、どんなものがあるか調べましょう。

  • 式は「6×4=24」。板書計画および最終ページの板書写真に見られる。

事例2: 小学校 第6学年 算数科学習指導案

□人でリレーのチームを作ります。走る順番を考えましょう。

  • 「□=2のとき」「□=3のとき」はそれぞれ列挙で「2通り」「6通り」。「□=4のとき」は「Aが先頭は6通り」「B,C,D→6通り」から,「6×4=24」として求めている。

事例3: 算数科学習指導案

  • http://wwwc.osaka-c.ed.jp/category/plan/pdf/15_02_A_06_003_01a.pdfデッドリンク
  • 平成27年10月23日6時間目,第6学年 ひかりコース 15名,単元名 『並べ方と組み合わせ方』(東京書籍)
  • 本時の問題(本時の展開より)

4つのアトラクションをどんな順番で回りますか。

  • 「めあて どんな順番があるか、工夫して全部書き出そう。」で,式なし。

事例4: 第6学年1組 算数科学習指導案

 A,B,C,Dの4つのチームで,バスケットボールの試合をします。
 どのチームも,ちがったチームと1回ずつ試合をするとき,どんな対戦があるか調べましょう。

  • 学習問題の設定に「組み合わせは,どのような方法で考えれば,落ちや重なりがないように調べられるだろうか。」とあり,式なし。

事例5: 第6学年○組 算数科学習指導案

生活の中から「場合の数」の考えで成り立つものを見つけよう。

  • 例として,「おかず,ごはん,牛乳の食べる順番」。「お→ご→ぎ」など記号化して表現し,「全部で6通り」。

事例6: 場合の数~おやつランキングを予想しよう~

5種類のメニューを好きな順番に並べる並べ方は何通りあるかな? 考えてみよう。

  • 3種類と4種類は列挙。5種類の場合には列挙ではなく,次のような表を作成している。
種類 2 3 4 5 6
通り 2 6 24 120 720
  • 式には「720×7×8×9×10=3628800」や,「2通り×3種類=6通り」,言葉の式は「1つ前の通り×種類=通りの数」「前の通りの数×種類=通りの数」が見られる。
  • 「みんなの考えを数式にまとめてみよう!」という表について,「資料2(教材)「算数探検隊 場合の数・順列」(Word:54KB)」の右のリンク先のWordファイルの最終ページには式が書き込まれている.「表から」「図から」と「階乗!」とで,因数の順序が逆になっている。

事例7: 第6学年1組 算数科学習指導案

  • https://www.toda-c.ed.jp/uploaded/attachment/11008.pdfデッドリンク
  • 令和元年11月12日 第5校時6年1組教室,児童数・指導者不明
  • 本時の問題(板書計画より)

1・2・3・4の数字を1回ずつ使って作ったパスワードを、忘れてしまいました。
パスワードを予想して、ロックを解除しましょう。

  • 板書計画の左下には25通りのパスワードが貼り出されている。「2143」と「2413」が3回ずつ出現している(漏れもある)。児童一人につき1つのパスワード予想か。
  • 式なし。

事例8: 第6学年 算数科学習指導案

 A、B、C、D の4つのチームでバスケットボールの試合をします。
 どのチームも、ちがったチームと1回ずつ試合をすると全部で何試合になるでしょう。

  • 表を使用。式なし。
  • 「5チームで試合をします。どのチームとも1回ずつ試合をすると、全部で何試合になるでしょうか。」という出題も(適用題と思われる)。

事例9: 第6学年 算数科学習指導案

  • http://www.kumagera.ne.jp/center/plan/plan_h25/plan_pdf/syogakko/sansu/s_6/sansu_1.pdfデッドリンク
  • 授業者はT1 T2
  • 単元名 場合の数 順序よく整理して調べよう
  • 本時のねらい・学習活動(学習計画より)

 組み合わせについて,落ちや重なりのないように,図や表を用いて順序よく筋道を立てて考え,調べることができる。

  • 4チームの総当たりの場合の,試合数の調べ方を考える。
  • 表や図を用いて考える。
  • 多角形の辺や対角線を使って調べる考えを取り上げる。
  • それぞれの考えについて話し合う。
  • 「本時の実際」は,1位数の繰り上がりのある加法計算で,第1学年の内容。編集ミスと思われる。

ここまでのまとめ

 以下では,「順列の総数が{}_4P_4で表される場面」のことを「{}_4P_4の場面」と表記します。左右の4は他の数値に,また(順列の)Pは(組み合わせの)Cに,変わることもあります。
 事例1,事例2,事例3,事例6,事例7に,{}_4P_4の場面が含まれていました。
 そして事例1,事例2には,求める式として「6×4=24」が書かれています。
 事例6では,表に基づいて(帰納的に)「1つ前の通り×種類=通りの数」という言葉の式を得ており,種類が4のとき,1つ前の通りは6なので,ここからも6×4=24が言えます。
 事例2では{}_2P_2の場面と{}_3P_3の場面,事例6では{}_3P_3の場面について,いずれも,すべて(漏れなく重なりなく)列挙して,何通りかを求めています。
 {}_3P_3=6なのを確認したのち,{}_4P_4を求めるわけですが,4つの対象の一つを先頭として固定したとき,残りの3つの対象の順列は,6通りです。この6が,2年で学ぶかけ算の言葉の式,「1つ分の数×いくつ分=ぜんぶの数」のうち,「1つ分の数」にあたります。
 「いくつ分」のほうは,{}_4P_4の場面においては4です。というのも,4つの対象のどれを先頭として固定しても,残りの3つの対象の順列は,6通りとなるからです。
 これが,算数の学習指導案や子どものノートを通じて,「6×4=24」という式を見ることの背景となります。
 事例4,事例8,事例9は,組み合わせであり,{}_4C_2の場面と言えます。いずれも式ではなく列挙により,「4チームの総当たりは全部で10試合」を求めています。
 また,ここまで見てきた事例では,「{}_nP_nの場面」と「{}_4C_2の場面」ばかりでした。後者について「{}_nC_2の場面」に拡張することも可能と考えられます。
 それに対し「{}_nP_2の場面」や「{}_nC_3の場面」というのは,ありませんでした。「{}_nP_2の場面」は,「1からnまで書かれたカードから2つ選んだときの順列」「n人が競争したときの1位と2位」といった応用が考えられますが,算数の授業では積極的に取り上げられていないわけです。教科書を含めさらなる調査が必要です。

東京都算数教育研究会 令和3年度 実態調査では

(1) はるとさん、かずまさん、ゆうさん、けいさんの4人が、同じチームのリレーの選手に選ばれました。この4人の走る順序は何通りありますか。

  • 求め方・式ともに不要。正答の「24(通り)」は71%,「6(通り)」が5%,「左記以外の誤答・無答」が24%。
  • この年度より新設した問題で,解説には「今回は7割の正答率と、基礎的な順列の理解はできていると考えられる。」

東京都算数教育研究会 平成30年度 実態調査では

(1) 0,2,4,6の4枚の数字カードが1枚ずつあります。この数字カード4枚の中から3枚を使って3けたの整数を作ります。全部で何通りあるでしょう。
(2) バニラ,チョコ,ストロベリー,抹茶,グレープの5種類のアイスクリームの中から2種類を選びます。アイスクリームの組み合わせは全部で何通りあるでしょう。

  • 求め方・式ともに不要。正解は,(1)は「18(通り)」,(2)は「10(通り)」。平成30年度実施分では(1)に「24(通り)」と解答したのが14%,(2)に「20(通り)」が10%。
  • 平成28年度(未公表)より追加の問題。

現行の学習指導要領では

〔第6学年〕
D データの活用
(2) 起こり得る場合に関わる数学的活動を通して,次の事項を身に付けることができるよう指導する。
ア 次のような知識及び技能を身に付けること。
(ア)起こり得る場合を順序よく整理するための図や表などの用い方を知ること。
イ 次のような思考力,判断力,表現力等を身に付けること。
(ア)事象の特徴に着目し,順序よく整理する観点を決めて,落ちや重なりなく調べる方法を考察すること。

現行の『小学校学習指導要領解説算数編』では

 第6学年では,起こり得る場合を順序よく整理して調べることができるようにする。起こり得る場合を順序よく整理して調べるとは,思いつくままに列挙していたのでは落ちや重なりが生じるような順序や組み合わせなどの事象について,規則に従って正しく並べたり,整理して見やすくしたりして,誤りなく全ての場合を明らかにすることを指している。
 例えば,4人が一列に並ぶ場合を考えるときには,特定のAに着目して,まずAが先頭に立つ場合を考える。2番目の位置にBが並ぶとすれば,3番目はCかDになる。次に,2番目の位置にCが並ぶ場合,Dが並ぶ場合と考えを進めていく。そうすると,Aが先頭に立つ場合は,次の図のように6通りであることを明らかにすることができる。Aのほかにも,B,C,Dが先頭に立つことができることから,起こり得る場合を図にかいて調べると24通りであることが分かる。
(図省略)
 また,四つのチームの対戦の組み合わせを考えるときには,次の図や表に示すような方法で,全ての場合を落ちや重なりがないように調べていくことができる。
(図省略)
 このように,図や表を適切に用いることができるようにする。

一つ前の学習指導要領では

〔第6学年〕
D 数量関係
(5) 具体的な事柄について,起こり得る場合を順序よく整理して調べることができるようにする。

一つ前の『小学校学習指導要領解説算数編』では

 第5学年までの分類整理して考える活動の上に,第6学年では,起こり得るすべての場合を適切な観点から分類整理して,順序よく列挙できるようにすることをねらいとしている。
 起こり得る場合を順序よく整理して調べるとは,思いつくままに列挙していたのでは落ちや重なりが生じるような順序や組み合わせなどの事象について,規則に従って正しく並べたり,整理して見やすくしたりして,誤りなくすべての場合を明らかにすることを指している。
 指導に当たっては,結果として何通りの場合があるかを明らかにすることよりも,整理して考える過程に重点をおき,具体的な事実に即して,図,表などを用いて表すなどの工夫をしながら,落ちや重なりがないように,順序よく調べていこうとする態度を育てるよう配慮する必要がある。
 例えば,4人が一列に並ぶ場合を考えるときには(現行の『小学校学習指導要領解説算数編』とほぼ同じなので省略)
 このように,図や表を適切に用いることができるようにするとともに,条件に従って筋道を立てて考えを進めていけるようにすることが大切である。また,名前を記号化して端的に表すことは,順序よく整理して調べる際に有効であることを実感できるようにすることも大切である。