かけ算の順序の昔話

算数教育について気楽に書いていきます。

板書本に見る,負の数のかけ算の学習の順序

 「令和3年度全面実施学習指導要領対応」をうたう2冊の本の電子版を購入し*1,負の数のかけ算の導入の授業を読んでいきました。

 2021年出版でPDFの,明治図書の板書本では,正・負の数の第13時(p.40)が,「乗法の計算の仕方を考えよう」となっています。「正・負の数のかけ算はどのように計算すればよいだろう。」を課題として示し,問題1は「(-2)×3の計算の仕方を考えよう。」です。2×3を「2を3個集めた数」とし,2×3=2+2+2=6で求められることを踏まえ,(-2)×3も「-2を3個集めた数」として,(-2)×3=(-2)+(-2)+(-2)=-6と求める,という流れを,p.41上部の板書写真の左3分の1で見ることができます。かける数が正の整数のときは,かけられる数の正負を問わず,累加で求められる,というわけです。
 問題2は「2×(-3)の計算の仕方を考えよう。」です。板書写真の右の列で,「かける数を1ずつ小さくしていくと...」と書いたあと,以下のように,かけ算の式を並べています。

2×3=6
2×2=4
2×1=2
2×0=0
2×(-1)=-2
2×(-2)=-4
2×(-3)=-6

 この数式の並びの右には,「積は2ずつ小さくなっている」「同じきまりを当てはめる」と書かれています。「乗数が1ずつ増減したときの積が被乗数の大きさずつ増減することについて成り立つことを調べ,この法則を活用できるようにする」というのは,『小学校学習指導要領(平成29年告示)解説算数編』p.144で述べられていますが,そこでは被乗数および乗数の範囲は0以上の整数でした。これを,負の数に対しても適用しています。
 「負の数×負の数について考えよう」は,第14時です(p.42)。問題1は「(-2)×(-3)の計算の仕方を考えよう。」で,p.43の板書写真の中列を見ると,(-2)×3=-6から始まり,かけられる数を固定し,かける数を3から1ずつ減らして-3までのそれぞれについて,積を求めます。こちらでは「積は2ずつ大きくなっている」が添えられています。そうして,(-2)×(-3)=6を得ています。
 2つの板書写真に,数直線は使用していません。後者の板書の右列上段には,かけられる数・かける数のそれぞれが正の数,負の数のときに,どのように求めればよいかを,「符号」と「絶対値」に分けて示しています。どちらも負の数のときの内容は,「符号…正」「絶対値…2数の積」です。

 2022年出版でKindleより読むことのできる,東洋館出版社の板書本では,正の数と負の数の16/26 (p.54)が「乗法の意味や計算のきまりについて考えよう」となっています。同ページの板書イラストの最初は,○/○の日付のあと,「乗法の意味や計算のきまりについて考えよう」を2行に分けて書き,下線を引いています。本書ではここで,「かけ算のことを乗法という」としています。
 内容ですが,「花子さんは東に向かって分速70mで歩いています。現在の地点を0mとして,東の方向を正の向きとします。また,1分後を+1分とします。」という文章と,花子さんを中心に置いた数直線のあとに,「Q19 花子さんが,1分後,2分後,1分前,2分前にどの地点にいるかを計算で求めるには,どうすればよいでしょうか。」という出題があります。
 かけ算の式は次のように並んでいます。なお,「どの地点にいるかは,(速さ)×(時間)とかけ算で求められる。」というのは,板書の外,同ページ左下のS(生徒)の発言になっています。

(+70)×(+2)=+140
(+70)×(+1)=+70
(+70)×0=0
(+70)×(-1)=-70
(+70)×(-2)=-140

 並びとしては,時間にあたるかける数を,+2から-1まで減らしていきますが,この式の右には,縦書きそして色違いで,「かける数が1増えるごとに積は70増える」とあり,下から上への矢印も見られます。
 「かけ算」は「乗法」,その結果は「積」という表記のあと,「太郎さんは」から始まる文章です。西に向かって分速70mで歩き,図の中には「分速-70m」とも書かれています。
 次のページに移って,上に挙げた式から,かけられる数と積の符号を反対にした並びが,板書イラストに含まれています。右の縦書きは「かける数が1増えるごとに積は70減る」です。最後の行は「(+70)×(-2)=+140」で,太郎さんの2分後の地点は,東の方向を正の向きとして,+140mにあるというわけです。
 問題場面の理解のために数直線を採用する一方で,計算に,累加を使用していないのは,明治図書の板書本との大きな違いと言えます。
 「Q21 正の数と負の数の乗法を数直線を使わずに,2数の積を計算するにはどうすればよいのでしょうか。」という出題に対し,「同符号」と「異符号」に分けています。それぞれ2つずつのかけ算の式の右に,同符号においては「符号…正の符号」「絶対値…絶対値の積」を書いて箱で囲み,異符号については「符号…正の符号」で絶対値については同符号と同じです。なおQ21のうちの「2数」について,3数以上の乗法の積は,次時のp.57にあり,さらにpp.58-59は「3数以上の乗法の計算をしよう」と題して,計算方法をまとめるとともに,(-4)²や-3²,2^{-3}といった累乗の計算につなげています。

 かけ算の学習の順序として対比すると,明治図書の板書本は「正×正(小学校で学習)」,「負×正」,「正×負」,「負×負」の順番です。それに対し東洋館出版社の板書本は,「正×正(小学校で学習)」,「正×負」,「負×正」,「負×負」の順となっています。以前に,図を作っていました。

 『生き抜くための数学入門』では,プラス×プラスを既知とし,マイナス×プラス,プラス×マイナス,そしてマイナス×マイナスの答えと見ていっています.

 それに対し『中学数学再入門』では,プラス×プラスを既知とし,プラス×マイナス,マイナス×プラス,そしてマイナス×マイナスという順番です.

 ほかに2件,メインブログで事例紹介をしていました。