かけ算の順序の昔話

算数教育について気楽に書いていきます。

式を具体的な場面に即して読み取る活動(2023.11)

 「えんぴつを 2人に くばります。1人に 7本ずつ くばると,何本 いりますか。」という文章題に対し,正解となる式は「7×2=14」,答えは「14本」です。
 「2×7=14」という式を書いたら,次の2種類の「式の読み」ができます。

  • 1人に2本ずつ,7人に配っている
  • 2人を7倍して14人

 どちらも,問題文に合っていません。

 「8人に4Lのジュースを等しく分けます。1人分は何Lですか。」という文章題に対し,正解となる式は「4÷8=0.5」,答えは「0.5L」です。(0.5は\frac12と書いてもかまいません。)
 「8÷4=2」という式を書いたら,次の2種類の「式の読み」ができます。

  • 8Lのジュースを4人に等しく分けたときの1人分は2L
  • 8人に4Lのジュースを等しく分けたとき,1Lは2人分

 どちらも,問題文に合っていません。

 上記2つの文章題の出典です。

 「2種類の「式の読み」」を含む,メインブログ(わさっきhb)または当ブログの記事です。

(略)「自動車が5台あります。タイヤの数はいくつでしょうか」という問題から始まります。「1台にタイヤは4本」を,クラス内で共有したのち,正解となる式は「4×5=20」です。
 ここでもし,「5×4」だったら,5つのタイヤがついて「五輪車が4台」となる図や,家に車が入った「5台ずつが4つ」という図が現れます(板書は容易ではなく,先生が紙に書くなどして用意しておく必要があるでしょう)。いずれも,問題に合っていません。
 これらは異なる具体的場面であるとともに,他のかけ算の文章題にも適用できます。例えば「さらが 5まい あります。1さらに りんごが 3こずつ のって います。りんごは ぜんぶで 何こ あるでしょう。」に対して「5×3=15」としたら,「5個ずつ3皿」や「5枚×3で15枚になる」といった読み取り方を,挙げることができるのです。

  • 「自動車が5台あります.どの自動車にもタイヤが4つついています.タイヤの数は全部でいくつでしょうか」という出題に対し,
    • 正解となる式は「4×5」です.
    • 「5×4」だったら,次の2種類の解釈(式の読み)ができます.
      • 5つのタイヤがついて「五輪車が4台」
      • 家に車が入った「5台ずつが4つ」
  • 「8mの重さが4kgの棒があります.この棒の1mの重さは何kgですか」という出題に対し,
    • 正解となる式は「4÷8」です.
    • 「8÷4」だったら,次の2種類の解釈(式の読み)ができます.
      • 4mの重さが8kgの棒の,1mの重さ
      • (「8mの重さが4kgの棒」はそのままで)「この棒の1kgの長さは何mですか」の答え

 また,8÷4=2の式を扱う際は,「(大きい数)÷(小さい数)をしたのではないでしょうか。」や「8人に4Lを分けるときに8÷4=2の式になりますね。」*1などと,8÷4と立式した背景を想像し共感的に受け止めながら,問題場面を適切に理解し,数学的に表現できるようにすることも大切である。

*1: 誤記と思われます。「8Lを4人に分けるときに8÷4=2の式になりますね。」に読み替えることで,話が通ります。

 「式を具体的な場面に即して読み取る」には,インプットは上記と同じで,アウトプットが異なる活動があることに,気づきました。アウトプットは,煎じ詰めれば「真偽値」です。「式」が,「具体的な場面」を表しているのなら,Trueを返し,そうでなければ,Flaseを返すのです。この読み取り活動は,真偽判定ということもできます。小学校の算数では,TrueとFalseはそれぞれ,「正しい」と「まちがい」に置き換えることになります。(略)

T:(子どものノートにあった式を板書して)式が2つありました。どちらが正しいと思いますか? 4×□=12と思う人はグー,□×4=12たと思う人はチョキをだします。せーの,どっち!
T:どうして,そう思ったの?
C:□×4=12だったら,「□人のまとまりが4個のあめ分で,全部で12個のあめがある」という意味でよくわからない。
C:□×4=12だったら,□は人だから,12の単位が「人」になって変。
C:4×□=12は,4個のあめのまとまりが幾つ分あるかだから正しい。

 ここから,「6×5」に向けるためのスイッチング・レーンは,「もし、5×6だったら意味が変わる」という子どもの声でした。教師がこれを拾いあげ,問い返し発問をしました。子どもたちの反応を,上と同じように並べます。

もし、5×6だったら、『教室に6人いる。一人に5枚ずつ配る』という問題文になる

5×6だと、5は5人という人を表す。5人のまとまりごとに6つのグループをつくるという意味になる

5×6は、式が5+5+5+5+5+5になるから問題文と合わない

 「4÷8=0.5」が正解,「8÷4=2」が問題文に合っていないほうは,答えの数量が,正解のそれと異なっているので明瞭ですが,鉛筆の文章題については「2×7=14」も正解だという主張を見かけます。例えば,https://twitter.com/ayumu_nico2/status/1723945181248909414では「2[人]×7[本/人]=14[本]」という式を示しています。
 正解とするための「式の読み」は,以下に大別できます。

  • 乗法の交換法則より,「1つ分の数×いくつ分=いくつ分×1つ分の数」であり,この「いくつ分×1つ分の数」に基づいて立式したものである。
  • トランプ配りを使えば,かけられる数とかける数を交換できる。今回の問題だと,「2本ずつ7回」になる。
  • 鉛筆を2行7列(または7行2列)に配置すれば,その総数を表す式は2×7でよい。
  • 人数をかけられる数,1人に配る鉛筆の数をかける数とみなせばよい。

 ここまでの根拠は,以下の図を読み替えたものです。

 画像の下部のURLは,https://takehikom.hateblo.jp/entry/20131116/1384560000です。
 10年以上にわたって,授業やテストの事例(出版物・Webページ)を目にしてきましたが,上記の4項目,そして図の【A-1】から【A-6】までのいずれについても,それらを理由として「正しい(場面に合った)式だ」とする授業やテストの解説は見当たりません。それに対し【B-2】【B-3】【B-4】を根拠とする実例は,3×2の,子どもたちの発言で紹介したとおりで,これは2022年に公開された実践報告です。「2人を7倍して14人」と関連する【B-4】については,リンゴの上におさらが9個~2019年の「積は皿の枚数になってしまう」事例で例示していまして,1951年の評価事例*1や1988年の海外書籍,そして21世紀に入ってからの書籍にも含まれています。【A-2】については,トランプ配りの乗法への適用~書籍からをご覧ください。