かけ算の順序の昔話

算数教育について気楽に書いていきます。

喜楽研の板書本の,かけ算の最初の単元

 算数の「板書本」はこれまで,明治図書出版東洋館出版社で発行されています。2年下はそれぞれ,[isbn:9784184902152][isbn:9784491040257]です。
 後発である利点を生かして,帯には「2024年度新教科書対応」「QRコードより動画、映像、ワークシート、資料など児童のタブレットに配信」とあります。表紙のほか,見開きの各回の授業の右上にも,QRコードがついています。*1
 2年(下)は「かけ算(1)」の単元から始まります。第1時の前に,この単元の指導に当たっての注意事項が見開きになっているのですが,p.11の指導計画を見ると,「A案」が上,「B案」が下で,それぞれ表になっています.いずれも6時間です*2。A案,B案の順に授業,ではなく,2つから1つを選んで進めていき,かけ算(2)以降は一本化されています。
 喜楽研の源流となる数学教育協議会(数教協)による,かけ算の導入で思い浮かぶのは,「ばらばらや」と「おなじや」です。『小学校学習指導要領(平成29年告示)解説算数編』の「乗法は,一つ分の大きさが決まっているときに,その幾つ分かに当たる大きさを求める場合に用いられる。」とも関連する話です。
 B案の第1時は「「ばらばら屋」と「おなじ屋」」ですが,A案は違っていました。といっても,見出しは「ばらばらときっちり」で,p.13のイラストでは,2つのお店の看板は「ばやばらや」と「きっちりや」です。2つの案の第1時の右側の内容は,ずいぶん異なっているように見えました。
 かけ算の式において,1あたりの数に○を,いくつ分のほうの数に□を使用する(数を囲む)のは,共通しています。しかし全部の数の扱いは異なります。A案では,全部の数は,○と□の両方で囲っています。B案ではそのような囲み方はなく,かわりに,「1はこに 3 こずつ 4 はこ分で,ぜんぶで 12 こ」(p.31)の「3」「4」「12」をそれぞれ,○,□,△で囲っています。そのほか,タイルと土台を組み合わせて1あたりを図にしたもの*3を採用しているのはB案のみです。
 かけ算の「順序を問う問題」は,A案にはなく,B案の第6時に含まれていました*4。板書の問題は3問あり,その2番目です(p.34)。

②ふくろが 3まい あります。
 りんごが 5こ ずつ 入って
 います。りんごは ぜんぶで
 何こ ありますか。

 このうち「3まい」を長方形で,「5こ」を楕円形で,囲っており,「りんごは」から文末までには下線を引いています。いずれも赤色です。
 すぐ下に「しき」もあり,「5×3=15」です。3つの数の上には,左から順に「1あたりの数」「いくつ分」「ぜんぶの数」と書かれています。「答え 15こ」です。
 ページ下部には,3人の児童が発言しているような絵があります。セリフは次の通りです。

次は、1あたりの数をいくつ分を探します。あれ? 1あたりの数はどれになるのかな?

順番は違うけど,5個ずつとあるから,5個が1あたりの数だね

いくつ分は,3枚になります。

 最下部にゴシック体で書かれた「B型の文章問題の際に,文章の通りに3×5と立式する児童は必ずいる。「1あたりの数」は何かを見つけることが,文章問題を解く上で最も重要となる。」は,教師向けの情報となっています。
 「B型」は上記の問題です。「A型」は,1あたりの数が先にくる,いわば素直なかけ算の文章題です。「C型」の具体的な文章題は「4cmの テープを 5本 作ります。テープが 何 cm あれば 作れますか。」(p.35)で,倍概念*5と見なすこともできますが,ページ最下部の教師向け情報では「箱のような明確な入れ物がないため,「1あたりの数」が見つけにくい。」と指摘しています。
 合わせてどうぞ:喜楽研の板書本の,かけ算めがね - わさっきhb

*1:1の段の九九(p.88)は,https://takexikom.hatenadiary.jp/entry/2023/07/29/053033で取り上げた事例と類似しています。問題文は「4人分の 数は 何こですか。」のみで,数は図から読み取ります。式は上から順に,3×4=12,2×4=8,1×4=4です。

*2:「かけ算(2)」は11時間,「かけ算(3)」は14時間です。

*3:「数とブロックの図」という表記が,p.27右下にあります。

*4:そのほか,一本化されたかけ算単元で,p.51に「いすが 7きゃく あります。1きゃくに 2人ずつ すわれます。ぜんぶで 何人 すわれますか。」,p.75に「チョコレートが 入って いる はこが 8はこ あります。チョコレートは 1はこに 6こずつ 入っています。チョコレートは ぜんぶで 何こ ありますか。」が,それぞれページ上部(板書内)に掲載されています。

*5:https://www.shinko-keirin.co.jp/keirinkan/sansu/WebHelp/02/page2_16.html