- 宇野友美, 佐藤愼二: かけ算学習における効果的な指導法―視覚化と動作化を取り入れたユニバーサルデザインの授業づくりを通して―, 植草学園短期大学研究紀要, No.17, pp.55-68 (2016). http://id.nii.ac.jp/1512/00000224/
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副題の「ユニバーサルデザイン」のほか,本文で「特別支援教育」の言葉も見かけますが,特別支援教育としての実施ではなく,「通常学級における授業に視覚化,動作化を意図的に取り入れること」がなされています。2年生の学習ということもあり,「基準量」の「いくつ分」を指導し定着させることが試みられています*1。
かけ算(2)の11(p.61)には,「ケーキが5つあります。1こずつのせると,いちごは何こいりますか。」という問題を使用しています。表の右の列を見ると,T(教師)は「A 5×1=5」「B 1×5=5」と板書し,そこから子どもたちの発言を促します。C1からC4までのうち,理由を説明している3人の発言を取り出します。
C1:わたしはBだと思います。どうしてかというと、5の方が先に書いてあるけど、1個の方にはずつと書いてあるからです。
C2:私もBだと思います。Aだとケーキの上にいちごを5このせて1つ作ることになるからです。
C4:私もBだと思います。ケーキが5こあって、それに1こずついちごをのせるってことだからです。
このうちC1は,C2やC4と比べて,「ケーキが5つあります。1こずつのせると,いちごは何こいりますか。」という問題の場面をきちんととらえておらず,「ずつ」のあるほうがかけられる数になるという方略を採っているように思えます。その一方で,C1の発言を肯定的に捉えるなら,既習の「基準量が後に示された問題」を思い出しながら,どちらがかけられる数か,かける数かを,適切に認識していると見ることもできます。
評価テスト問題(p.64)は以下の通りです。いずれの問題文にも,「ずつ」が出現しません。
1 1はこ 3こ入りの ドーナツ 5はこ分では、何こに なりますか。
2 1まい9円の 画用紙を 6まい 買います。何円に なりますか。
3 8チームで やきゅうの しあいをします。1チームは 9人です。みんなで 何人 いますか。
4 長いすが 6つあります。1つのいすに 4人 すわります。みんなで 何人 すわれますか。
5 三りん車が 5台 あります。1台の タイヤの数は 3つです。タイヤの数は ぜんぶで いくつですか。
6 かぶと虫が 8ぴき います。1ぴきの 足の数は 6本です。足の数はぜんぶで何本ですか。
各出題の意図は,同じページに「1,2は出てくる順番通りに立式すればよいが,3,4は逆になるので難易度が高くなる。5,6も逆になる問題であるが,キャラクターを使うことで問題場面がイメージし易くなれば正答率が上がることが予想される」と書かれています。得意なA児は全問正解,苦手なB児は1,2,5,6に正解しており,全体の正答率*2においても3,4が低く,キャラクターを使った5,6が高くなっています。
かけ算(2)の11,「ケーキが5つあります。1こずつのせると,いちごは何こいりますか。」に話を戻します。支援について,〈確認するための視覚化〉と〈思考を促すための動作化〉が書かれていますが,「1×5」で「いちご」という語呂合わせ,あるいは聴覚的支援もまた,意図されていたのではなかったでしょうか。
*1:この観点でも,アレイに基づく場面では,かけられる数とかける数とを交換した2つのかけ算の式が正解(その場面を表す式)となり得ますが,かけ算(1)の7(p.58)の,牛乳瓶が5×4に入った場面について,「4×5はだめだよ。だって問題に5本ずつ4れつって書いてあるから。」という子どもの発言を,反応に入れています。
*2:図17 (p.65)に見られるパーセント表記の正答率について,「対象児童28名」という実態に,少々合っていません。小数第2位がいずれも「0」ですがこれは記載ミスと思われます。「基準量が先に示された問題」となる1と2では,2問合わせた正答数が53であれば,正答率は53/(28×2)×100=94.64…と求められます。3と4の合計正答数は38,5と6については合計50で,紀要に記載の値と最も近くなります。