かけ算の順序の昔話

算数教育について気楽に書いていきます。

「せーの」で,5×2? 2×5?

 第3章は「しかけでつくる算数の深い学びの具体例」と題して,各学年4つずつの授業紹介です。目次を見ると,第2学年の1番目は,「5×2? 2×5?【かけ算】」です。さっそく,p.52から読み始めました。
 授業は「鉛筆を2人に5本ずつ配ります。鉛筆は全部で何本いりますか。」の問題から始まります(p.53)。T(先生)は「せーので式を言いましょう。」と言い,その反応として「C1 5×2 C2 2×5」が1行で書かれています。一斉に解答させると,「ごかけるに!」と「にかけるご!」の両方の声があがった,といったところでしょうか。
 次のページ(p.54)の真ん中,集団検討では,「●5×2と2×5のどちらになるのかを話し合う」という小見出しのあと,先生が「1つ分が2ではだめですか?」と問いかけます。これには「C2*1 だめです。問題には5本ずつ配ると書いてあるので,5のまとまりができます。」という意見が続きます。
 2が5つ分ある図と,5が2つ分ある図を,左右に並べ,左には2×5,右には5×2の式を添えます*2。先生は「1つ分×いくつ分になるのですね。」と言っています。
 このかけ算の授業の最後のページ(p.55)には,太線の角丸四角形で文章が囲まれているのが2つあります。上は「まとめ 図をかくと,1つ分の数といくつ分の数がよく分かる。」です。下(ページ中央付近)は「T 2×5の式になる問題を考えてみましょう。」に対する児童らの解答で,「C1 鉛筆を1人に2本ずつ,5人に配ります。(改行)鉛筆は全部で何本いりますか。」と「C2 5人に2こずつあめを配ります。あめは何こいりますか。」の3行です。ページの最下段に,板書例です。この中で2×5と5×2の図は板書写真ですが,他は板書ではなく丸ゴシック体の文字です。
 いくつか,他の書籍を連想します。まず,せーので教室内で声をあげさせると,かけられる数・かける数が反対の2つの式が出て,そこからどちらが良いか検討するという授業事例は,『アイディアシートでうまくいく! 算数科問題解決授業スタンダード』にも載っており,トランプ配りと,うまくやっていく - わさっきhbで取り上げました。2×5の作問課題でC2のように「5人に2こずつ」を解答するのは,『さんすうの授業 第1階梯 小学校1・2・3年生』に,「かけ算の文章題づくり」「分量が先にきている問題」として3例,記載されています(かけ算の順序を問う問題 - わさっきhb)。
 ところで,授業の最初の問題,「鉛筆を2人に5本ずつ配ります。鉛筆は全部で何本いりますか。」について,この種の問題が,児童らにとって初めてであるようには,見えません。というのもp.53の上段には「単元の指導計画(25時間扱い)」と題して表が載っており,表の「25(本時)」より,かけ算の前半の単元(乗法の意味,2~5の段の九九)の最後の授業であることが分かります。22には「1つ分の数といくつ分の数を正しく読みとり,式を立てる。」とあります。「「いくつ分」の数になる数字が先に出てくる」(p.52)という問題は,本書では明記されていませんが,指導計画ではこの22時に学習していたものと思われます。「学習内容の定着を確認し,理解を確実にする」(p.53の表)ために,「せーの」で言わせる授業を採用した,と解釈すれば,まあ一つの単元指導のやり方かなと思います。


 上の学年の授業を読んでいくと,直方体の体積の式は6つの式がp.102に出てきて「どの式が正しいと言えるのだろうか?」を課題に掲げ,授業が進行します。またp.108には「÷1.5ってどういうこと?」と題する授業で,pp.110-111には「×1.5」を含む二重数直線がありました。いずれも第5学年です。
 第6学年は「うどんのメニューは何種類?」(pp.120-123)が興味深い内容でした。5種類のトッピングから何通りのメニューができるかで,授業の進行や板書例を見たところ,組み合わせのCを使って表記すると,{}_5\textrm{C}_1から{}_5\textrm{C}_5までを,かけ算を使わず(ただし{}_5\textrm{C}_3{}_5\textrm{C}_2{}_5\textrm{C}_4{}_5\textrm{C}_1に対応する関係を見つけながら),図や表にして算出しています。総数は,5+10+10+5+1=31で「A. 31通り」です。トッピングなし({}_5\textrm{C}_0の分)が,数に入っていません。

*1:前のページの,「2×5」と言った児童が,見解を変えたというのは,文章から読み取れず,2行前のC1と区別するためのものと思われます.そのあとの発言児童を表すラベルは「C」のみです。

*2:丸の形状や式の筆跡から,異なる児童が黒板にかいたものと思われます。