かけ算の順序の昔話

算数教育について気楽に書いていきます。

東京新聞「日本の算数・数学 大丈夫?」のうち二重数直線を目にして思ったこと

  • 東京新聞:日本の算数・数学大丈夫?:特報(TOKYO Web)http://www.tokyo-np.co.jp/article/tokuho/list/CK2018040602000161.html(現在はデッドリンク

 この記事について,紙面の複写を得ることができました。東京新聞 2018年4月6日朝刊 11版 26・27面です。
 「はじき」「くもわ」の図の使い方を詳しく紹介した上で,では実際に小学校で,それを使って(あるいは使うことなく)どのような授業がなされているのかは,書かれていませんでした。速さに関する出来はというと,東京都算数教育研究会が実施している調査の中で,「はじき」で解くことのできない問題に対し75~77%の正答率が報告されています(アンチはじき)。その出題を,新聞記事に載せるべきだったとまでは主張しませんが,この団体に問い合わせた形跡がないのは,記事の信頼性を大いに損なわせていると感じました。
 東京新聞は昨年も,算数教育について記事を「特報」しています。西沢宏明氏・芳沢光雄教授の名前は,どちらの記事にも出現します。
 4月6日の記事では,西沢宏明氏のコメントの中に,「二重数直線」が出現します。

 ツイッター上で算数の奇妙な教え方を批判してきた静岡県三島市の学習塾「大場数理学院」の西沢宏明代表も問題視している一人。塾で「15分間で30キロメートル進んだときの時速は」との問題に「30÷15=時速2キロメートル」と答えた子がいたという。
 「そもそも速さの意味や理屈を分かっていないので、自分が出した答えが直感的におかしいと思えない」と西沢氏。比例の問題を解く際に使われる「二重数直線」や「かけわり図」も、同じ弊害があるという。

 「はじき」「くもわ」「二重数直線」「かけわり図」と並べてみると,二重数直線には違和感があります。質問文にしてみます。

  • 「はじき」を使った,テスト問題の実例はありますか?
  • 「くもわ」を使った,テスト問題の実例はありますか?
  • 「二重数直線」を使った,テスト問題の実例はありますか?
  • 「かけわり図」を使った,テスト問題の実例はありますか?

 このうち真っ先に思い浮かぶのは,「二重数直線」です。昨年(平成29年度)実施の全国学力・学習状況調査では,算数Aの最初の大問に,二重数直線が出現します。

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 調査結果資料から正答率を見ると,(1)は97.0%,(2)は70.0%です。算数Aでは60%台が何問かあるので,60と0.4と□の該当箇所を選ぶ大問1の(2)は,ほどほどの難易度だった,といったところでしょうか。
 平成28年度にも,見つかりました。算数Aの大問4で,シート1㎡あたりの人数を求める式を書くという問題ですが,そのすぐ上に,人数と面積に関する二重数直線が記載されています。
 二重数直線について,東京新聞の記事では「比例の問題を解く際に使われる」と書いていますが,これもまた記者が算数教育の動向について,未消化のまま,記事にしてしまったものと認識しています。『小学校学習指導要領解説算数編』でも,算数の教科書でも,二重数直線が使われるのは5年なのに対し,比例は6年で学習します。*1
 「比例の問題を解く際に使われる」を「割合の問題を解く際に使われる」に置き換えてみると,実際に使う児童もきっといるだろうけれど,「数量の関係を表す」というもう一つの大事な視点が,抜け落ちています。全国学力テストで使われていた2問は,二重数直線をかきなさいというのではありません。二重数直線*2を提供するのは出題者側であって,それをもとに数量の関係を把握したり,関係を式で表したりするのが解答者側(児童)となっています。
 二重数直線に関しては,重要な文献があります。著者はみな,東京の公立小学校の教師です。

 20年以上が経過した今なお,著者の全員が算数教育に携わっていることは,期待できないにせよ,どなたかにインタビューを試み,全国学力テストや次期の『小学校学習指導要領解説算数編』に,この数直線が採用されていることの感想を得ながら,東京における小学校教育・算数教育の実情を,次回の記事で「特報」することを,希望します。
 なお,上で4問並べましたが,「はじき」「くもわ」「かけわり図」については答え(テスト問題の実例)を持ち合わせていません。それから,東京新聞の記事の後半では,大学入試センターの施行調査のことが書かれていますが,入試ではなく高校生の学力を把握するために実施された,選択式と記述式を組み合わせた調査については『高校生の数学力NOW 9―2013年基礎学力調査報告』という本から読むことができ,理系数学の5択問題 - わさっきにて紹介しています。

*1:「比例」の用語と,「簡単な場合の比例の関係」は,5年で学習します。

*2:類似の図式として,テープ図を揃えて上下に並べたものも,よく見かけます。全国学力テストからだと平成26年度の算数A大問2,教科書からだとhttp://www.shinko-keirin.co.jp/keirinkan/sansu/WebHelp/05/page5_21.htmlです。これらもまた,問題文をもとに子どもたちがかくわけではありません。