かけ算の順序の昔話

算数教育について気楽に書いていきます。

面積図の縦と横は何を表すのか

 算数で「面積図」というのが,さまざまな形式や用途で使われています。
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 教科書で見かける面積図は,分数のかけ算・わり算が主な適用対象となっています。最初に単位量となる箱---本記事で「箱」とは,長方形または正方形をいいます---を描き,そこに縦や横の線を入れていくことが,あとで述べる他の面積図との違いとなっています。使用方法を知るには以下の2つがおすすめです。

 受験算数で活用されている面積図は,適用対象が異なります。出現する数はたいてい整数です。ある数量を表す箱について,導入(定義)においては1つだけで表しますが,具体的な問題を解く際には複数の箱を並べて,そこから未知の数量が可視化できるようになっています。今月に入って読んだ解説記事にリンクしておきます。

 TOSSの指導で見かける面積図は,5~6年の割合(三用法)が主な適用対象となり,出現する数は整数・小数・分数があります。描き方について,受験算数の面積図と似ていますが,違いもあります。演算決定のツールであり,使用する箱は1問につき一つが基本です。形状については,箱の底辺を少し左に,また左辺を少し右に伸ばし,4つの,数量を書き込む領域をつくります。そこに,問題文に合うよう数量を書き入れます。以下のページがもっとも明快で,そのベースになっている本は『子どもが“面積図”を使いこなす授業』とのことです。

 最後に,「面積図」という名称ではありませんが,同等の図を紹介します。「タイル図」または「かけわり図」と呼ばれ,2年のかけ算の導入から,高学年に至るまで活用されています。タイルを用いて長方形を構成する場合*1,縦のタイルの数が「1あたり量(1あたりの数)」に,横のタイルの数が「いくつ分」に対応します。全体量を箱で描き,左や下に別途,1あたり量やいくつ分に関する要素を描き添えます。数学教育協議会(水道方式)のもとで普及がなされ,例えば以下のページより読むことができます。

 いずれの図においても,箱の面積が,1つのかけ算に対応します。さらに言うと,箱の縦の長さにあたるものが,かけられる数に,横の長さがかける数に,それぞれ対応しています。4年で学習する長方形の面積の公式,「たて×横=面積」を応用した図と言えます。


 当ブログおよびメインブログで,「面積図」に言及した記事には以下があります。

 学術的にはどうか,ということで,CiNii Articlesにて「面積図」を検索したところ,23件が該当しました。タイトルより,小学算数に関するものが10件,中学数学の適用*3が5件,算数・数学教育以外の論文が8件ありました。算数では1972年発表のタイトルにも「面積図」が含まれていることが分かりました。
 ところで,次期の『小学校学習指導要領解説算数編』に,「面積図」の言葉が出現します。第6学年のA(1)(分数の乗法,除法)のところで,分数のわり算の式展開を示したあとに段落を設けて,「なお,このように計算に関して成り立つ性質などを用いて計算の仕方を考えることは,抽象度が高く,児童によっては分かりにくいということがある。そういう場合は,適宜,面積図などの図を用いて考えさせることも大切である。」と記載しています。現行の解説にはない記述です。図は(次期の)解説に入っていませんが,分数のかけ算・わり算ですので,現行の教科書の内容を追随したものと思われます。
 そこでhttps://twitter.com/takehikom/status/1033471112078749696のツイートをしたところ,https://twitter.com/tetragon1/status/1033488398877487104https://twitter.com/tetragon1/status/1033489654358523904のリプライをいただきました。
 面積図|算数用語集で,「下の図を見て\frac45\times\frac13の計算のしかたを考え,説明しましょう。」*4と書かれた図を見直します。上で述べたとおり,縦軸をかけられる数,横軸をかける数とするのが最も素直な解釈です。受験算数の面積図でも,TOSSで見かける面積図でも,同様です。
 しかし,1㎡,または\frac45㎡を表す箱の底辺と,dLの数直線とが,表示上,別になっています。
 これについて,箱の底辺と,dLの数直線とで,二重(比例)数直線を考えることができます。箱の底辺を数直線に見立てて,数と単位,そして未知の値には□を書くと,以下のようになります。
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 ロジックとしてはこうです。\frac45㎡の量を,底辺の右端(1㎡の箱の右下の頂点)に,また0㎡を左端(左下の頂点)に,対応づけます。そうすると比例の考え方*5から,\frac13dLのペンキでぬることのできる面積は,\frac13のすぐ上の,底辺上の点となり,ここが□です。「□」と「\frac45」と「\frac13」と「1」の位置関係から,□はかけ算で求めることができ*6,具体的には□=\frac45\times\frac13です。
 これは,分数のかけ算の面積図を,数直線図に帰着して取り扱えることを意味します。歴史的には,面積図が先に使われてきたわけですが,後発の二重数直線との関連性を見出せたと言えます。
 計算の手続きとしては,dLの数直線において\frac13は1を「÷3」したものだから,面積の数直線においても,\frac45を「÷3」すればよいと考えると,\frac45×\frac13\frac45÷3=\frac{4}{5\times3}\frac4{15}を得ます。
 かける数が単位分数ではない場合には,分子aも分母bも2以上で互いに素のとき,\frac{1}{b}および\frac{a}{b}に対応する箇所をそれぞれ,底辺上*7にとることで,\frac45×\frac{a}{b}\frac45÷b×a=\frac{4\times{a}}{5\times{b}}となります。分数のわり算のうち,等分除(第三用法)はかけ算の逆演算で同様に考えられます。包含除(第一用法)はもう少し工夫が必要かもしれません。
 なお,面積図において縦軸は,かけられる数としてきましたが,「何倍か」,言い換えると割合(したがってかける数)に対応するものとして,認識することも可能です。ここまで見てきた分数のかけ算では,1㎡を\frac45倍してから\frac13倍する,と解釈します。これは4年で,単位正方形をもとに長方形の面積の公式(たて×横=面積)を導く際に,「長方形の面積=単位正方形の面積×縦が単位長の何倍か×横が単位長の何倍か」と考えられることと関連します。面積図|算数用語集の下段にある「砂場(\frac25\frac{1}{10})」についても,「広場の面積=公園全体の面積×\frac25」と考えれば,\frac25はかける数となります。

*1:タイルを並べますので,いわばボトムアップに構成します。それに対し,教科書の面積図は,単位量または全体量を刻んでいきますので,トップダウンのアプローチと言えます。

*2:そこでリンクしたhttp://doi.org/10.5926/arepj.51.198の本文にも,市川伸一氏の発言として「面積図」が書かれています。ただし該当箇所の文は「教科書(それは,教科教育学の結晶でもある)では,線分図や面積図を使って,通分や分数の加減が説明されているが,概念理解や計算手続の定着が極めて悪い。」となっており,ネガティブなとらえ方をしている上に,本記事の想定する適用と異なっています。

*3:例えば(x+a)^2=x^2+2ax+a^2の幾何的解釈として,1辺の長さがx+aの正方形を用いて図にすることができます。

*4:https://www.shinko-keirin.co.jp/keirinkan/sansu/WebHelp/06/page6_03.htmlにある「1dLで\frac45㎡ぬれるペンキがあります。」「\frac13dLのペンキでは何㎡ぬれますか。」に対し,\frac45\times\frac13の式を得てから,計算のしかたを説明することとなります。

*5:リプライツイートに書かれた「倍比例」のことです。個人的にはproportional reasoningという表現が気に入っています。

*6:http://takexikom.hatenadiary.jp/entry/20140117/1389903547より:1と□が“はすかい”になっていれば,かけ算!

*7:a>bの場合には,かける数が1を超えます。このとき底辺を右に伸ばした半直線を考えれば,\frac{a}{b}に対応する点を見つけることができます。

8÷4ではなく4÷8~文献読み直し

 メインブログのA2 - わさっき順序を問う問題 - わさっきに記載していたURLがデッドリンクになっていましたが,題目で検索すると,異なるURLで,PDFファイルをダウンロードできました。メインブログの2件について,URLを変更しておきました。
 この文献で興味深いのは,p.113から始まる第3章(実践研究)第4節(実態調査からみる考察)のところです。平成22年度(2010年度)の全国学力テスト,算数Aの中の「8mの重さが4kgの棒があります。この棒の1mの重さは何kgですか。求める式と答えを書きましょう。」という出題に対し,著者が指導に関わってきたB小の配属学級では,正答率が75.8%で,誤答のうち「8÷4」の式を立てたという類型5の割合は,18.2%となっています。この割合は全国の国立と同程度で,全国の国・公・私立*1岩手県と比べて,明確に正答率が高くなっています。
 その高さにおごることなく,誤答の状況を,次のように分析しています(pp.113-114,強調は引用者)。

 この問題で式と答えの両方を正答していたのは、配属学級は75.8%(全国国立76.9%)であった。しかし、18.2%が式を「8÷4」と解答した、解答類型5の誤答をしている。これは、「整数÷整数」の除法では、被除数の方が除数より大きくなると考えている、つまり、除法は「大きい数÷小さい数」であると考えて8÷4と立式したと推測される。また、問題文に出てきた順に、数を式に当てはめて立式しているかもしれないとも考えられる3)。このような誤答は、授業実践の中でもみられた。実践授業Iでは、「2Lのジュースを3等分したうちの1つ分」を求める際の立式において、「3÷2」という誤答があった。学力調査だけでなく、普段の授業の中でも、このような誤答は現れており、子どもたちの中で除法は「大きい数÷小さい数」、あるいは「先に出てきた数÷後から出てきた数」という誤った理解がされている可能性は高い。この2つの誤った理解を区別するには、問題文を「8mの重さが4kgの棒」という表現から「重さ4kgの長さが8mの棒」というように数値を入れ替えて提示し、立式させてみる必要がある。そして、普段の授業では、立式を考えるとき、何が被除数で何が除数になるのかを明確に捉えたうえで立式するという指導が必要であると考える。

 段落の文章は続くのですが,いったんここでストップします。数量*2を入れ換えても意味が変わらないというのは,「かけ算の順序」とも関連してきます。
 例えば,「さらが 5まい あります。1さらに りんごが 3こずつ のって います。りんごは ぜんぶで 何こ あるでしょう。」という文章題に対し,「1さらに りんごが 3こずつ のって います。そのような さらが 5まい あります。りんごは ぜんぶで 何こ あるでしょう。」と,提示の順番を変えてみます。どちらも同じ数量の関係を表しており,後者は1つ分の数×いくつ分に基づき3×5の式を立てられるのだから,前者も3×5と書けばいい,ということです。この種の問題では,何が被乗数で何が乗数になるかを明確に捉えたうえで立式するという指導がなされているわけです。
 段落の文章の続きは,誤答に対する指導です。「想定」と明記されているのに加え,全国学力テストの出題および結果の公開の時期と,この文献(修士論文)の執筆そして提出の時期を照らし合わせると,実際にこのように指導したわけではないことが読み取れます。

そこで、普段の授業の中でこのような誤答をする子どもがいたときに、講じなければならない指導と評価を、次のような具体的な場面で想定していくこととする。なお、ここで取り上げる誤答は「8÷4」と立式したものとし、数直線図は既にあるものと想定して進める。なお、提案する働きかけは、以後、破線で示すこととする。

 働きかけそのものについては,字数が多くなるため引用を避けますが,はじめに「8÷4になると思います。」と言い最終的には「4÷8。」と言うようになった児童は,C1で一貫しているのに,働きかける側がT1からT11まであって,11人が指導している光景が目に浮かんでしまいました。
 それはさておき,指導の流れとして,児童は「全体÷比べられる量=もとにする量」を含む,割合の三用法を言葉の式として覚えていて,働きかける側は,与えられた場面に対して適切な式を引き出すという指導になっています。
 肝心の「全体÷比べられる量=もとにする量」について,混乱が見られます。「8mの重さが4kgの棒があります。この棒の1mの重さは何kgですか。求める式と答えを書きましょう。」は等分除の拡張であり,第三用法です。言葉の式は,割合の3用法|算数用語集の用語を使うなら「比べる量÷割合=もとにする量」と表されます。被除数と商が,同種の量となります。しかし「全体÷比べられる量=もとにする量」からは,そのことが見出せません。
 また数直線図があるというのであれば,そこに「×8」や,その逆演算となる「÷8」が,どこに該当するかを書き加えることで,割合やナントカの量といった言葉が不要になります。原図(p.114),「×8」を加えた図,「÷8」を加えた図を,以下に並べておきます。2番目の図より「□×8=4」,3番目の図より「4÷8=□」の式を得ることができます。
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 最後に,p.115の<調査結果概要で提案されている図>を見て,関連する調査があるのを思い出しました。

 詳しくは,かけ算およびわり算の文章題に対する子どもたちの解法:長期調査 - わさっきをご覧ください。原文ではSub-divisionという分類で例示された"I have 3 apples to be shared evenly between six people. How much apple will each person get?",日本語に訳すと「3つのりんごを,6人に同じになるよう分ける。それぞれの人はどれだけのりんごをもらえるか?」の問題文が該当します。
 小学2年生でかけ算・わり算が未習という最初の段階でも,Table 2によると,小さな数の文章題の正答率が41%あると報告されています。Arrayと同程度であり,FactorやCartesianよりも,高くなっています。
 日本に話を戻して,新しい学習指導要領では,「12個の\frac12は6個」など,簡単な分数を第2学年で学ぶことになりますが,「\frac12個」のようないわゆる量分数としての使われ方は,解説に例示されていません。「3つのりんごを,6人に同じになるよう分ける。それぞれの人はどれだけのりんごをもらえるか?」の文章題で3÷6の式を立てることは,これまでどおり第5学年での学習*3となりそうです。

*1:全体(全国の国・公・私立)の正答率は54.1%です。誤答の割合とともに,http://www.nier.go.jp/10chousakekkahoukoku/02shou/shou_4s.pdf#page=9より知ることができます。http://www.nier.go.jp/10chousakekkahoukoku/02shou.htmの「算数」のリンクです。

*2:原文では「数値を入れ替えて提示し」となっていて,これでは,「8mの重さが4kgの棒があります。この棒の1mの重さは何kgですか。」に対して「4mの重さが8kgの棒があります。この棒の1mの重さは何kgですか。」という文章題を考える,という解釈ができてしまいます。数値だけを交換することで,状況が異なり,求めるべき値も違ってくるというのを示すのには,有用かもしれませんが,演算決定が適切にできていない子どもにとっては,入れ換え前の問題で「8÷4」という式を立て,そして入れ換え後の問題は「4÷8」だ,としてしまう可能性もあります。

*3:次期解説には「除法が用いられる場合として,ほかに,例えば,重さが4kgで長さが2mである棒の1mの重さを求める場合,2kgで400円のものの1kgの値段を求める場合など,一人分を求める場合でなく,比例関係を仮定できる,伴って変わる二つの数量がある場合にも用いられる。」が第3学年の内容として入っています。期待される式はそれぞれ,4÷2=2,400÷2=200です。

じゃんけんゲームの時系列処理

  • 山本良和: 言語としての式の機能の意識化に関する一考察―1年「たし算」―, 算数授業研究, 東洋館出版社, Vol.118, pp.68-71 (2018).

算数授業研究 Vol.118 論究XIII 算数で育てる子どもの表現力

算数授業研究 Vol.118 論究XIII 算数で育てる子どもの表現力

 「研究対象授業」について見ていきます。以下のルール(p.69を改変)で「じゃんけんゲーム」を実施します。

【ルール①】

  • 2人組でじゃんけんを2回する。
  • 1回につき,勝ち3点,引き分け2点,負け1点。
  • 合計点を求め,「x対y」で表す。

【ルール②】

  • 2人組でじゃんけんを2回する。
  • 1回につき,勝ち3点,引き分け1点,負け0点。
  • 合計点を求め,「x対y」で表す。

 これら2つのルールは,異なる授業時間での適用となります。具体的には,【ルール①】のじゃんけんゲームは,「ふえるといくつ」として配当した4時間の授業のうちの最後に実施し,【ルール②】についてはその次,「0のたし算」での実施となります。
 さて,【ルール①】に基づき,クラスの子どもたちが2人組になってじゃんけんゲームを行います。先生(著者の山本氏)が,全員の結果を確認したとしながら,「2対6」「4対4」「3対5」「5対7」「5対5」「5対3」「6対0」「4対3」を黒板に書きます*1
 ですが子どもたちはすぐに,「6対0」はおかしいと指摘します。1回すれば,負けても点数がつくので,2回やって「0点」にならないからです。要は先生による捏造です。
 そこで他の対戦結果についても,起こり得るか否かを,授業を通じてチェックしていきます。上で8つ挙げたうち,「6対0」のほかに「5対5」と「4対3」も起こり得ないと言えます。というのも【ルール①】では,1回のじゃんけんで2人が獲得する点数の合計は必ず4点であり,2回だと合計8点です。「6対0」も「5対5」も「4対3」も,この必要条件を満たさないのです。
 【ルール②】でも同様に実施したのち,先生は「4対1」「3対3」「0対6」「2対2」を提示します。これらはいずれも起こり得ます。その検証に(【ルール①】の授業でも見られましたが),増加の意味の加法が有効活用できます。「4対1」について,1回目は一方の勝ち,2回目は引き分けとすれば,3+1=4と0+1=1という式に表せます。「3対3」については,2人が1回ずつ勝ったという状況が考えられ,式は3+0=3と0+3=3です。「0対6」は,一方が2回勝った場合が該当し,式は0+0=0と3+3=6です。「2対2」は,2回とも引き分けで,1+1=2と1+1=2です。
 加法の記号「+」の左側に,1回目のじゃんけんで獲得した得点を書き,右側には2回目のじゃんけんで獲得した得点を書くことで,合計得点が求められます。また2人のたし算の式を上下に並べて書けば,「+」の左側の(上下に並んだ)2つの数は,「3と0」「1と1」「0と3」のいずれかであり,「+」の右側についても同様です。そうでない場合には,書き間違いがあるよと,指摘をすることもできます。2人が1回ずつ勝ったときに,3+0=3と3+0=3という式を書いたときにも,おかしいんじゃないのと,ツッコミを入れられるわけで,これは昨日付けの記事で引用した「始めにAあったところにBが追加されると「A+B」という式になる。「B+A」としたら変だと子どもが感じられるようになったとき,増加の加法の意味と式という表現が理解できたと言える」と関係してくる話です。
 ここから元の文章を離れた検討を行います。目的は,「+」の左側に1回目,右側に2回目を書かないような,定式化です。ルールを次のように変更します。

〔ルール〕

  • 2人組でじゃんけんをn回する。
  • 1回につき,勝ちp(w)点,引き分けp(d)点,負けp(l)点。
  • 合計点を求め,「x対y」で表す。

 勝敗について,G={w,d,l}という集合を定義しておきます*2。nは正整数,pはGから実数への写像とします。n=2, p(w)=3, p(d)=2, p(l)=1と割り当てれば【ルール①】に対応し,【ルール②】についても同様に割り当てを決めることができますので,〔ルール〕は,【ルール①】および【ルール②】の一般化となっています。
 各回の勝敗に関する制約条件も,取り入れないといけません。2人組でじゃんけんを1回行ったとき,一人が勝ちならもう一人は負け,引き分けなら相手も引き分けとなることです。これに関しては,一方の勝敗に対する他方の勝敗を,写像として導入します。すなわちoをGからGへの写像とし,o(w)=l,o(d)=d,o(l)=wとします。
 2人組の一人に着目して,n回,じゃんけんを実施したときの勝敗を順に,g1, g2, ..., gnと表します。それぞれの回に得た点数は,a1=p(g1), a2=p(g2), ..., an=p(gn)です。相手の勝敗は,順にo(g1), o(g2), ..., o(gn)であり,得点は,b1=p(o(g1)), b2=p(o(g2)), ..., bn=p(o(gn))です。
 着目した人の合計得点は,x=Σai=Σp(gi)(範囲を明示するなら,\displaystyle\sum_{i=1}^n ai\displaystyle\sum_{i=1}^n p(gi))であり,もう一人の合計得点はy=Σbi=Σp(o(gi))(=\displaystyle\sum_{i=1}^n bi\displaystyle\sum_{i=1}^n p(o(gi)))です。総和を求める手順は関知しない(先頭から足していく必要はない)とすれば,これによって,「たし算の順序」なしに,このじゃんけんゲームの各回の勝敗・得点および合計点を,記述もしくは算出できるというわけです。
 ここまでの流れを,1枚の画像にしました。
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 時系列の扱いは,加法という演算ではなく,「g1, g2, ..., gn」という記号を導入したところで,対応がなされています。1回分のじゃんけんゲームの勝敗を,得点計算のためのルールと分離した,と言うこともできます(それに対し1+3=4といった式には,勝敗を数値化したものと,得点計算のルールの両方が含まれています)。とはいえ,「たし算には順序がない」と主張するときの,このじゃんけんゲームの得点計算に関する認識が,ここまで書いてきた通りであるかどうかは,定かではありません。

*1:第1学年の授業ですので,「対」は黒板では「たい」となっています。ついでに,「じゃんけんゲーム」ではなく「じゃんけんげえむ」です。

*2:Gはgame,wはwin,dはdraw,lはloseの頭文字です。写像に関して,pはpoint,oはoppositeに由来します。

被加数と加数の順序

  • 山本良和: 感覚的な身体表現から数理的な言語表現を引き出す―「片手バイバイ」,「両手バイバイ」―, 算数授業研究, 東洋館出版社, Vol.118, pp.46-47 (2018).
  • 山本良和: 言語としての式の機能の意識化に関する一考察―1年「たし算」―, 算数授業研究, 東洋館出版社, Vol.118, pp.68-71 (2018).

 「片手バイバイ」は合併,「両手バイバイ」は増加をいいます。1年の加法の意味理解の授業の中で,子どもが「(この話は)片手バイバイだ!」とつぶやいた*1のを著者が拾い上げています。
 2番目の文章は「研究発表」となっています。研究主題について,研究対象,研究内容(2つの研究対象授業),研究の成果と今後の方向性,という4部構成です。
 研究主題の中に,増加を,合併と区別して(子どもが)理解することの意義が書かれた文章がありました(p.68)。

 通常,加法の導入では合併を扱い,その次に増加を扱う。これらの違いは時間である。合併は同時に存在する2つの数量を合わせるのに対して,増加は初めにある数量に追加したり,増加したりしたときの大きさを求める。どちらも「+」を用いた式で表現されるが,式としての意味に違いがある。
 AとBという2つの数量の合併を式に表すと,「A+B」でもよいし「B+A」でもよい。つまり,どちらに先に目を付けるかという違いであり,1年生の子どもも理解できる。一方,増加の加法は時系列の順があり,始めにAあったところにBが追加されると「A+B」という式になる。「B+A」としたら変だと子どもが感じられるようになったとき,増加の加法の意味と式という表現が理解できたと言える。合併と増加の加法の式を対比し,被加数と加数の順序を検討することは,式の言語としての機能を意識することにつながっている。

 「被乗数と乗数の順序」であれば,2017年6月に文部科学省サイトで最初のバージョン(PDFファイル)が公開され,今年書籍として出た『小学校学習指導要領解説(平成29年告示)算数編』に記載があります*2が,「被加数と加数の順序」は見当たりません。この表記は,著者(山本氏)から私を含む読者に対し,『小学校学習指導要領解説算数編』をしっかり読もう*3,そしてその字面に囚われることのないようにしよう,というメッセージであるように思えます。
 ともあれ,http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/new-cs/1387014.htmより本記事執筆時点で参照可能なhttp://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/micro_detail/__icsFiles/afieldfile/2018/05/07/1387017_4_3.pdfを読み直し,増加と合併が使用されている箇所を見ていくことにします。ページ番号はPDFのページではなく,該当ページの最下段に表示されているものを記載します。(あ)から(お)までで構成された,「加法が用いられる場合」の箇条書きは,p.84にありますが,同じページの「加法は二つの集合を合わせた集合の要素の個数を求める演算であり」の箇所から,5つの中で基礎をなすのは合併であることが読み取れます。
 次のページ(p.85)の「例えば,あさがおの種について,昨日取れた個数と今日取れた個数を合わせた個数を求めることを,加法の式で表すことができる。」は,時系列の順を意識するなら増加の意味ですが,合併で考えても差し支えない場面です。同じ段落の,たし算・ひき算の式については,増加・求残の意味と考えられます。
 さらに次(p.86)の「太郎さんは,前から8番目にいます。太郎さんの後ろに7人います。全部で何人いるでしょう。」について,新しい解説に明示*4された(う)の順序数を含む加法ですが,図の直後の「太郎が8番目にいるということは,太郎がいるところまでの人数は8人であり,同時に存在する二つの数量を合わせた大きさを求める場面と数量の関係が同じとみて,8+7というように加法の式に表すことができる。」によると,合併を根拠としています。ここで例示された,順序数を含む加法の場面は,合併に帰着できるというわけです。
 2年に上がると,加法と減法の相互関係(p.111)において,「A(男の子の人数)とB(女の子の人数)が分かっていてC(全体の人数)を求める場合が加法で,A+B=CやB+A=Cとなる。」とあり,合併の場面です。同じページの「はじめにリンゴが幾つかあって,その中から5個食べたら7個残った。はじめに幾つあったか」については,7にあたる量を左,5にあたる量を右に置いてつなぎ,全体を□としたテープ図のすぐ上に「□を7+5として求める。」と書いてあります。時系列として「7個残った」が先,「5個食べた」が後という(すなわち増加として考えている)わけではなく,□-5=7 ⇒ □=7+5というのが,加法と減法の相互関係になっている,と解釈するのがよさそうです*5
 「はじめにリンゴが幾つかあって,5個もらったら12個になった。はじめに幾つあったか」(pp.111-112)について,□を用いた式は「□+5=12」のみです。これは増加の場面です。
 加法の交換法則は,pp.112-113で詳しく述べられています。「ふくろにどんぐりが8個,もう一つのふくろにどんぐりが16個入っています。どんぐりは全部で何個でしょう。」に対し,式は「8+16=24」と「16+8=24」を明示し,「8+16の結果と16+8の結果とを比べることで,加法では,順序を変えて計算しても答えは変わらないことが分かる。図からも,左右の数を入れ替えても,全体の数は変わらないことを見いだすことができる。」としています。合併の場面です。
 『小学校学習指導要領解説算数編』において,増加の場面と合併の場面,そして直接的にはそのどちらでもない場面が,目的に応じて使い分けられているとみてよいでしょう。


 文献から離れ,山本氏の記述のうち「対比」に関して,自分なりに検討しておきます。増加・合併に限らず,次のような文を作ることができます。

  • 「2と3を足す」と「2に3を足す」
  • 「2と3を掛ける」と「2に3を掛ける」
  • 「xとyは比例の関係にある」と「yはxに比例する」
  • 「君と僕の意見は同じだ」と「君の意見は僕と同じだ」

 各項目の前者のカギカッコには,英語のandに対応する「と」があり,2と3,xとy,君(の意見)と僕の意見,がそれぞれ,一体として,演算の対象または主語となっています。そして山本氏の記した「「A+B」でもよいし「B+A」でもよい」と同じく,「と」の左右を交換しても意味は変わりません*6
 それに対し各項目の後者のカギカッコでは,2,y,君の意見のみが,それぞれ目的語(演算の対象)または主語となっており,3,x,僕(の意見)は直後の助詞と合わさって,術語(足す,掛ける,比例する,同じだ)を修飾する形です。2つの言葉を交換すると,ニュアンスが変わってきます。とくに算数においては,「2に3を足す」と「3に2を足す」,「2に3を掛ける」と「3に2を掛ける」について,それぞれ異なる意味(具体的な場面)を与えることが可能となっています。
 英語で書かれた文章からも,同様のことを知ることができ,海外では,「かけ算の順序」「たし算の順序」についてどのような見解を出していますか? - わさっきで取りまとめてきました。


 「算数授業研究 Vol.118 論究XIII」を通して読んで,興味深かったところを書き出しておきます。

  • p.25(青山和裕): 「ピーマンを食べれば記録が良くなる」「ピーマン好きは野菜もよく食べていて健康だから記録が良い」を例に,「推測していることをまるで事実のように思いこんでしまうのはとても危ないので注意したい」
  • p.29(高橋昭彦):「どうやって計算したか」ではなく「なぜ数が変わって繰り上がりが増えても筆算を使って計算できるか」
  • p.39(前田一誠):板書「おにいさんがみかんを8ふくろ買ってきました。どのふくろにも2こずつ入っています。」に対し式は2×8=16。「2×8+3×8=5×8」の筆算形式も
  • p.41(細水保宏):最後の数直線図には,2本の数直線をまたぐ矢印が3つ。その一つは,矢印の両端に「×2」が添えられている。残りの矢印には添え字なし
  • pp.42-43(正木考昌):違和感のある「磯部」の出現。最終段落の「6+4の加数分解の計算過程」は「8+6の(以下同じ)」と思われる
  • p.45(夏坂哲志):3\frac35÷\frac34の筆算。商の整数部は4,非整数部は\frac45

*1:感嘆符がつくような「つぶやき」がどのようなものなのか,個人的に想像できないのですが。

*2:http://takexikom.hatenadiary.jp/entry/2017/06/28/054525

*3:今回引用した箇所の4行上,「学習指導要領では」は「学習指導要領解説では」のはずです。

*4:https://twitter.com/takehikom/status/878435461106028545

*5:http://d.hatena.ne.jp/takehikom/20120712/1342032806

*6:こういうときの「交換可能」について,英語では"symmetric"も見かけますが,"interchangeable"をよく目にします。「交換不可能」のほうは,"asymmetric"です。

a×b×cのbは,かける数か,かけられる数か

 小学校の算数で,3つの数のかけ算で立式できる事例をもとに,その2番目の因数の意味を見ていくと,場面(事例)により,「かけられる数にもかける数にもなる」もの,「かける数に限定される」もの,「かける数または因数になる」ものがあります。
 この記事を作るきっかけとなったのはhttps://twitter.com/antiMulti/status/1031525847302193154のツイートであり,「a×b×c」という式も書かれています。


 最初に,以下の文章題を取り上げます。ある小学校の学習指導案が元ネタなのですが現在はデッドリンクです。

1こ90円のシュークリームが、1はこに3こずつ入っています。
2はこ買うと、代金は何円になるでしょう?

 大人モードで,代金を求める式は90×3×2=540,答え540円となります。
 このかけ算の式について,2番目の因数すなわち「3」は,かける数(乗数)にもかけられる数(被乗数)にも解釈できます。
 1箱の代金を求めてから,全部の代金を求めることにすれば,90×3×2=(90×3)×2=540となります。90×3=270,270×2=540と,分けて書くこともできます。いずれにせよ,「3」は「×3」として出現(「90」に作用*1)しており,かける数となっています。
 もう一つの解釈では,先にシュークリームの数を求めてから,全部の代金を求めることにします。90×3×2=90×(3×2)=540となります。3×2=6,90×6=540と書くこともできます。どちらも,「3×2」の中に「3」が出現しまして,かけられる数というわけです。
 2番目の因数が「かけられる数にもかける数にもなる」という,シュークリームの文章題は,以下の記事の《箱売り》の再構築です。


 また別の文章題です。オリジナルから数値を変更しています。

直径が2cmの円があります。その3倍の直径の円の円周は何cmでしょうか。
求める式と答えを書きなさい。
円周率は3.14とします。

 この問題では,式が2種類考えられます。2×3×3.14と2×3.14×3で*2,いずれにせよ計算すると18.84を得まして,答えは18.84cmです。
 「2×3×3.14」という式は,大きな円*3の直径を2×3として求め,次に円周=直径×円周率の公式を適用したものとなっています。それに対し「2×3.14×3」の式では,直径が2cmの円について,2×3.14により先に周*4の長さを求め,それから3倍することで,大きい方の円の周の長さを計算しているわけです。
 「2×3×3.14」にせよ「2×3.14×3」にせよ,「3」は「×3」としての出現(作用)であり,常にかける数です。あえて,かけられる数にしようというのなら,2×3×3.14=(2×3)×3.14とした上で,この「2×3」を1個のかけられる数と見なすのはどうでしょうか。とはいえこの場合でも,「3」は「かけられる数」ではなく,「かけられる数の一部」となります。
 2番目の因数が「かける数に限定される」という,ここまでの内容について,実際には円に限定しません。以下の記事で取りまとめてきました。


 3番目の文章題は,教科書や学力テスト,学習指導案には見かけないものです。

10円玉を次のように並べます。
⑩⑩⑩⑩
⑩⑩⑩⑩
⑩⑩⑩⑩
全部で何円ですか。

 この問題についても,式は2種類,書くことができて,10×3×4と10×4×3です。上に書いた円周の問題と同様に,3はかける数になることが言えるのですが,この場合には10×(3×4)や10×(4×3)といった式にすることもできます*5
 カッコでくくったこの3×4や4×3は,10円玉の枚数に対応します。言い換えると,10円玉が何枚あるかを求め,「10円×枚数」により,総額を求めるのです。大人モードでは,被乗数×乗数とは別のかけ算の考え方,すなわち因数×因数の一部(結局のところ因数の一つ)として,「3」が出現しているわけです。
 10×3×4の式をもとに,この「3」をかける数の一つと見なすと,10×3=30,30×4=120,答え120円となります。
 10×4×3の式をもとに,この「3」をかける数の一つと見なすと,10×4=40,40×3=120,答え120円となります。
 10×3×4の式をもとに,この「3」を因数の一つと見なすと,3×4=12,10×12=120,答え120円となります。
 10×4×3の式をもとに,この「3」を因数の一つと見なすと,4×3=12,10×12=120,答え120円となります。
 2番目の因数が「かける数または因数になる」という,この事例についての関連情報は以下の記事になります。

*1:「作用」という単語でピンとこない方は,http://d.hatena.ne.jp/takehikom/20151121/1448031600にアクセスして「operates on」を検索し,対応する日本語訳をご覧ください。

*2:シュークリームの問題で「90×2×3」の式は,期待されていません。もしそのように,式を立てたのなら,「90×2は何を表しますか?」と問われることになります。

*3:大小は,この問題において本質ではありません。代わりに「最初の円(基準となる円)」「円周を求めたい円」と書き分けるのでもよいでしょう。「直径がaの円があります。そのb倍の直径の円の円周を求める式を書きなさい。円周率はcとします。」に対して式a×b×cを立て,なぜその式になるのかを説明する際に,使用できます。

*4:「円周」と書いても,差し支えなかったのですが,「円の円周」については今春,記事を書いていますので:http://takexikom.hatenadiary.jp/entry/2018/03/02/062640

*5:円周の話で「3×3.14」や「3.14×3」だけを取り出した場合,これは小さい円の直径を基準としたときの,大きい円の円周の割合と見なすことはできますが,実用性に乏しいと言わざるを得ません。

あまりのあるわり算で,九九のどの段を使えば能率的に求めることができるか

 もし、「21÷7の答えは、何のだんの九九を使ってもとめればよいですか」に「3のだん」と答えるのなら、「23÷6の答えは、何のだんの九九を使ってもとめればよいですか」には何と答えるのでしょうか。


 3年で学習するわり算の話です。48÷6=8のような,割り切れる場合のほか,13÷4=3あまり1のような,割り切れない場合も,この学年で学習します。
 わり算はかけ算と密接な関係があります。被除数・除数・商のいずれも整数で,簡単な場合には,商は九九を使用して求められます。48÷6については,6×8=48を用いて,商は8と言うことができます。13÷4を求めようとすると,13は九九の表に出現しませんが,4の段の答えのうち,13以下で最も大きい数である,12に着目すると,4×3=12により商は3,そして13-12=1であまりは1となります。
 これらについて,8×6=48や,3×4+1=13と,式に表してみると,「48÷6を求めるには,8の段を使っても求められる」「13÷4には3の段でもいい」といった主張が可能なように見えます。
 ここまでに関連して,最近出たhttps://twitter.com/sekibunnteisuu/status/1025284205918351361https://twitter.com/flute23432/status/1025400009435410433のツイート(前後も)を読み*1,自分なりに情報収集をしてみました。
 少し検索して見つかったのが,平成16年の学習指導案http://www1.iwate-ed.jp/db/db2/sid_data/es/sansu/e05sa034.pdfです。本時の問題は「色紙が23まいあります。1人に6まいずつ分けると、何人に分けられますか。また、何まいあまりますか。」です。
 とはいえこの授業で,何の段を使えばよいかといった問い方は,なされていません*2。そして「23÷6=3あまり5」をもとに,「23÷3=6あまり5」としたり,九九の3の段を参照して「3の段(を使えば求められる)」と言ったりするわけにも,いきません。3の段において,積が23以下で最も大きい数は,3×6=18ではなく,3×7=21だからです。
 最終ページには,「23÷6=3あまり5」に対するたしかめの式として,「6×3+5=23」が書かれていますが,これで6の段を使っているというよりは,1人に6まいずつ分けると,3人に分けられて5まいあまるのを,一つの式にした,と見ることもできます。これについては後述します。
 『小学校学習指導要領(平成29年度告示)解説算数編』を読み直したところ,http://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/micro_detail/__icsFiles/afieldfile/2019/03/18/1387017_004.pdf#page=155に「12÷3の計算が3の段の乗法九九を用いて能率的に求めることができる。このようなことを考えることができるようにすることがねらいとなる。」が入っています。この記述は,現行と一つ前の解説には見当たりません*3
 この件,教科書に載せて授業で指導していきなさいというよりはむしろ,変わり方の「段数×4=周りの長さ」や,小数の乗法・除法における二重数直線などと同様に,授業事例や教科書が先行し,学習指導要領解説がそれに追随したものと思われます。
 あまりのあるわり算に関しては,「除数と商が1位数の場合」として「48÷6や13÷4など,乗法九九を1回用いて商を求めることができる計算である」が,次期・現行・一つ前の解説に共通して現れます。いずれも,何の段を用いるかの記載はありません。
 除数と商が1位数の場合に,「A÷Bの計算がBの段の乗法九九を用いて能率的に求めることができる」というのは,あまりのある(AがBで割り切れない)場合にもそのまま利用可能となります。それに対し,「A÷Bの商」の段の乗法九九を用いるのでは,わり算(または「A=B×商」という関係式)が入る分,能率的ではありませんし,あまりのある場合には適用できなくなるケースがある,と言うこともできます。

補足1:「23÷6」のような式は何通りあるか

 「23÷6」と同じように,九九の「商」の段を使おうとすると,うまく行かない場合を,Rubyワンライナーで求めてみました。被除数をa,除数をb,商をq,あまりをrとし,bもqも2以上9以下とします。この場合,「うまく行かない場合」は,q≦r≦b-1という不等式で表せます。そしてa=bq+rの式により,b,q,rの値に応じたaの値が算出できます。
 実行コマンドは「ruby -e '2.upto(9){|b|2.upto(9){|q|q.upto(b-1){|r|a=b*q+r;puts "#{a}÷#{b}=#{q}あまり#{r}(NG:#{a}÷#{q}=#{b}あまり#{r})"}}}'」で,出力は以下の84通りとなりました。

8÷3=2あまり2(NG:8÷2=3あまり2)
10÷4=2あまり2(NG:10÷2=4あまり2)
11÷4=2あまり3(NG:11÷2=4あまり3)
15÷4=3あまり3(NG:15÷3=4あまり3)
12÷5=2あまり2(NG:12÷2=5あまり2)
13÷5=2あまり3(NG:13÷2=5あまり3)
14÷5=2あまり4(NG:14÷2=5あまり4)
18÷5=3あまり3(NG:18÷3=5あまり3)
19÷5=3あまり4(NG:19÷3=5あまり4)
24÷5=4あまり4(NG:24÷4=5あまり4)
14÷6=2あまり2(NG:14÷2=6あまり2)
15÷6=2あまり3(NG:15÷2=6あまり3)
16÷6=2あまり4(NG:16÷2=6あまり4)
17÷6=2あまり5(NG:17÷2=6あまり5)
21÷6=3あまり3(NG:21÷3=6あまり3)
22÷6=3あまり4(NG:22÷3=6あまり4)
23÷6=3あまり5(NG:23÷3=6あまり5)
28÷6=4あまり4(NG:28÷4=6あまり4)
29÷6=4あまり5(NG:29÷4=6あまり5)
35÷6=5あまり5(NG:35÷5=6あまり5)
16÷7=2あまり2(NG:16÷2=7あまり2)
17÷7=2あまり3(NG:17÷2=7あまり3)
18÷7=2あまり4(NG:18÷2=7あまり4)
19÷7=2あまり5(NG:19÷2=7あまり5)
20÷7=2あまり6(NG:20÷2=7あまり6)
24÷7=3あまり3(NG:24÷3=7あまり3)
25÷7=3あまり4(NG:25÷3=7あまり4)
26÷7=3あまり5(NG:26÷3=7あまり5)
27÷7=3あまり6(NG:27÷3=7あまり6)
32÷7=4あまり4(NG:32÷4=7あまり4)
33÷7=4あまり5(NG:33÷4=7あまり5)
34÷7=4あまり6(NG:34÷4=7あまり6)
40÷7=5あまり5(NG:40÷5=7あまり5)
41÷7=5あまり6(NG:41÷5=7あまり6)
48÷7=6あまり6(NG:48÷6=7あまり6)
18÷8=2あまり2(NG:18÷2=8あまり2)
19÷8=2あまり3(NG:19÷2=8あまり3)
20÷8=2あまり4(NG:20÷2=8あまり4)
21÷8=2あまり5(NG:21÷2=8あまり5)
22÷8=2あまり6(NG:22÷2=8あまり6)
23÷8=2あまり7(NG:23÷2=8あまり7)
27÷8=3あまり3(NG:27÷3=8あまり3)
28÷8=3あまり4(NG:28÷3=8あまり4)
29÷8=3あまり5(NG:29÷3=8あまり5)
30÷8=3あまり6(NG:30÷3=8あまり6)
31÷8=3あまり7(NG:31÷3=8あまり7)
36÷8=4あまり4(NG:36÷4=8あまり4)
37÷8=4あまり5(NG:37÷4=8あまり5)
38÷8=4あまり6(NG:38÷4=8あまり6)
39÷8=4あまり7(NG:39÷4=8あまり7)
45÷8=5あまり5(NG:45÷5=8あまり5)
46÷8=5あまり6(NG:46÷5=8あまり6)
47÷8=5あまり7(NG:47÷5=8あまり7)
54÷8=6あまり6(NG:54÷6=8あまり6)
55÷8=6あまり7(NG:55÷6=8あまり7)
63÷8=7あまり7(NG:63÷7=8あまり7)
20÷9=2あまり2(NG:20÷2=9あまり2)
21÷9=2あまり3(NG:21÷2=9あまり3)
22÷9=2あまり4(NG:22÷2=9あまり4)
23÷9=2あまり5(NG:23÷2=9あまり5)
24÷9=2あまり6(NG:24÷2=9あまり6)
25÷9=2あまり7(NG:25÷2=9あまり7)
26÷9=2あまり8(NG:26÷2=9あまり8)
30÷9=3あまり3(NG:30÷3=9あまり3)
31÷9=3あまり4(NG:31÷3=9あまり4)
32÷9=3あまり5(NG:32÷3=9あまり5)
33÷9=3あまり6(NG:33÷3=9あまり6)
34÷9=3あまり7(NG:34÷3=9あまり7)
35÷9=3あまり8(NG:35÷3=9あまり8)
40÷9=4あまり4(NG:40÷4=9あまり4)
41÷9=4あまり5(NG:41÷4=9あまり5)
42÷9=4あまり6(NG:42÷4=9あまり6)
43÷9=4あまり7(NG:43÷4=9あまり7)
44÷9=4あまり8(NG:44÷4=9あまり8)
50÷9=5あまり5(NG:50÷5=9あまり5)
51÷9=5あまり6(NG:51÷5=9あまり6)
52÷9=5あまり7(NG:52÷5=9あまり7)
53÷9=5あまり8(NG:53÷5=9あまり8)
60÷9=6あまり6(NG:60÷6=9あまり6)
61÷9=6あまり7(NG:61÷6=9あまり7)
62÷9=6あまり8(NG:62÷6=9あまり8)
70÷9=7あまり7(NG:70÷7=9あまり7)
71÷9=7あまり8(NG:71÷7=9あまり8)
80÷9=8あまり8(NG:80÷8=9あまり8)

 被除数で並べ替えてみると,「23÷」から始まるものは,「23÷6=3あまり5」「23÷8=2あまり7」「23÷9=2あまり5」の3通りがあります*4。「18÷」と「24÷」までについて,それぞれ3通りの式が得られます。

補足2:あまりのある包含除・等分除とかけ算の順序

 平成16年の学習指導案におけるたしかめの式「6×3+5=23」について,かけ算の順序と関連する話があるので,以下で整理しておきます。
 「6×3+5=23」の式については,3要素2段階の場面*5と見なして立てたというほか,「(除数)×(商)+(あまり)=(被除数)」に当てはめて、たしかめをしたと考えることもできます。なお,(解説のつかない)学習指導要領に書かれている関係式は,http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/new-cs/youryou/syo/san.htm#4gakunenより見ることができ,「(被除数)=(除数)×(商)+(余り)」となっています。
 ともあれ包含除の場合,それら2通りの考え方で,式が一致します。
 それに対し,「色紙が23枚あります。6人に同じ数ずつ分けると,何人に分けられますか。また,何まいあまりますか」という,あまりのある等分除を考えてみると,わり算の式は23÷6=3あまり5で変わらないのですが,たしかめの式は,6×3+5=23だけでなく,3要素2段階の場面とすると,3×6+5=23も認めてよいのではとなります。
 包含除だから1通りで等分除になると2通りになるのは,「(除数)×(商)+(あまり)=(被除数)」を採用していることも,影響しています。代わりに「(商)×(除数)+(あまり)=(被除数)」を採用すれば,(あまりのある)等分除に対応する,かけ算・たし算の式が1通りで,包含除のほうが2通りとなります。
 「(除数)×(商)+(あまり)=(被除数)」あるいは「(被除数)=(除数)×(商)+(余り)」あるいはa=bq+rでも,「(被除数)=(商)×(除数)+(余り)」あるいは「(商)×(除数)+(あまり)=(被除数)」あるいはa=bq+rでも,よいのではないかとすると,包含除・等分除を問わず,2通りの式が得られます。

補足3:除数の段を用いない方略について〔2019年7月19日追記〕

 https://twitter.com/LimgTW/status/1151908343994126336を見ました。
 28÷8を求める際に,九九の中から,因数として8を持ち,かつ積が28以下となる,かけ算の式を,8の段以外で探すとなった場合には,3の段の「3×8=24」だけでは不十分であり,その前後の段を見て,それらが不適であることを確認する必要があります*6。2の段の「2×8=16」では,あまり(28-16=12)がわる数以上となり,4の段の「4×8=32」では,割られる数の28を超えてしまうのを,把握することが,「探索」のプロセスに含まれます。
 このように考えると,「28÷8は,何のだんの九九を使ってもとめればよいですか。」と問いを立てたとき,その答えとして「3のだん」は,許容できるように思えません。
 それに対し,8の段に着目すると,8×2=16や8×4=32は8の段に含まれています。他の数で考えてみても,除数の段を用いる方略は,「九九1回適用の除法計算」で「あまりなし」「あまりあり」のいずれにも利用可能なのが分かります。
 a÷bを求めるのに使用する九九の段に関して,「因数としてbを持ち,かつ積がa以下となるものを探す」という方略で,\lfloor\frac{a}{b}\rfloorの段が答えとなるというのは,十分性・能率性のいずれの観点からも,賛同できません。

*1:歴史的にはhttps://twitter.com/vecchio_ciao/status/466752273163362304https://twitter.com/genkuroki/status/819064167361458177も重要と思われます。

*2:PDFで読むことのできる学習指導案のいくつかには,「九九1回適用の除法計算(あまりあり)」と記載されていました。

*3:「能率的」という語に関しては,現行および次期の(解説のつかない)小学校学習指導要領の算数で,各学年の目標および内容のあと,「指導内容の作成と内容の取扱い」の中に,出現します。解説のPDFファイルで機械的に検索すると,次期のほうが「能率的」の出現回数が多くなっています。

*4:「23÷7=3あまり2」については,3×7=21と23-21=2でも,うまく行くため,除外されます。

*5:http://www.shinko-keirin.co.jp/keirinkan/sansu/WebHelp/03/page3_05.html

*6:「1×8=8,2×8=16,3×8=24,4×8=32」と,わり算の式のわる数を,かける数として固定し,九九の1の段から見ていくという手続きも考えられますが,これも,探索の対象は「3の段」だけではありません。

2018/08/02に公開の動画


 7分強の動画を,勝手ながら要約すると,「『りんご,みかん,バナナ,ぶどうが3つずつ。全部で果物は何個』に対する式として,学校では3×4だけを正解とし4×3は間違いとするだろうが,アレイやトランプ配りを使えば,4×3でも正解になる」といったところでしょうか。
 文章題に対し,アレイを用いることについては,以前にスライドを作っていました.「算数教育において認められていない(世界的に見ても,SMSGの主張が衰退した)」というのが,国内外の文献をもとにして得られる知見となります。
f:id:takehikoMultiply:20170524062102j:plain
 この画像はhttps://www.slideshare.net/takehikom/2x3-3x2/64からも見ることができます。
 アレイを「立式の根拠」ではなく「式で表す場面」として使用することについては,実例があります。例えばhttp://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/micro_detail/__icsFiles/afieldfile/2018/05/07/1387017_4_3.pdf#page=53より見ることのできる画像のうち,下のものについて,「3×4,又は4×3と式で表すことができる」となっていることが関連します(上の写真について,式は「4×3」のみが記載され「3×4」が書かれていないのと,対照的です)。
 トランプ配りについては,一つは,これまで等分除の操作としてわり算の学習で活用されており(かけ算では想定されていない),もう一つは,かけ算の場面へのトランプ配りの適用(配慮)が,昨年公開の『小学校学習指導要領解説算数編』に記載されたので,再来年度からの教科書がどうなるか見たい,といった認識を持っています。メインブログと当ブログで以前に書いた記事にリンクしておきます。

 ところで,「かけ算の順序」批判の動画を見るのは,2017/09/09に公開の動画以来となります。バナナを「~個」で数えるのには抵抗がありますし,ぶどう「1個」が1房なのか1粒なのか曖昧ですので,そういったことも合わせて,「りんご,みかん,バナナ,ぶどうが3つずつ。全部で果物は何個」を,2年のかけ算の文章題で問うのは適切ではないようにも思っています。https://www.slideshare.net/takehikom/2x3-3x2/60が,関連するところでしょうか。