かけ算の順序の昔話

算数教育について気楽に書いていきます。

3種類を5人に

 何ページかに分けられたまとめに目を通すと,1.2は偶数?へのリンクを見かけました。山本良和氏の著述に関して,今年,増加と合併の区別を読む機会があり,被加数と加数の順序じゃんけんゲームの時系列処理という記事を書いたのでした。
 まとめのツイートに2つ,コメントに1つ,興味深いかけ算の場面が入っていました。

 それぞれのツイートから,問題を抜き出し,ラベルをつけておきます。

  • お弁当の問題:「3日開催のイベントに5人のスタッフを雇いました。お昼にお弁当を出します。いくつ必要ですか?」
  • 参加賞の問題:「クラス対抗のリレーをします。3クラスあって、選手は4人です。選手に参加賞をあげるなら、いくつ必要ですか?」
  • カードの問題:「3種類のカードがたくさんあります。この3種類のカードを1枚ずつ5人の子供たちに配ると、子供たちに配られるカードは全部で何枚でしょう?」

 出題意図や出典を,ツイートした方々は明示していませんが,お弁当の問題とカードの問題は,複比例の関係であり,「積」の乗法が背景にあります。「3×5」または「5×3」の式を立てたとき,それらのかけ算の答えが,どんな数量になるかについての見通しを,読者に委ねた形となります。
 3つの問題のうち,「ひとつ分」が明示されているのは,カードの問題です。「1枚ずつ」とありますが,「1人に1種類,1枚ずつ(カードを配る)」ということですから,1[枚/種類・人]という複内包量*1を見いだすことができ,そこで「1[枚/種類・人]×3[種類]×5[人]=15[枚]」という式に表せます。「1[枚/人・種類]×5[人]×3[種類]=15[枚]」としても,差し支えありません。メインブログの記事(3口のかけ算,かけ算の順序 - わさっき)の《2つに比例》の出題例,「5人家族があります。それぞれ,1日に3個ずつ,ミニトマトを食べます。7日間で,この家族は全部で何個のミニトマトを食べるでしょうか? 式と答えを書いてください。」について,「1日に1個ずつ」に置き換えたものと同型と言えます。
 お弁当の問題では,1日に1人が1個のお弁当を食べることを踏まえて,1[個/人・日]×3[日]×5[人]=15[個]と表すことができ,3[日]と5[人]は入れ換え可能です。
 参加賞の問題は,様相が異なります。というのも,1[個/クラス・人]という量を,考えるわけにいかないからです。参加賞は1人に1つを想定すると,これを表す内包量は1[個/人]です。各クラスから4人ずつ,リレー走者が選出されることと合わせると,式は「1[個/人]×4[人/クラス]×3[クラス]=12[個]」となります。この式において,「1[個/人]×4[人/クラス]=4[個/クラス]」は,「1つのクラスで4つ(ずつ)参加賞を受け取る」と解釈でき,「4[人/クラス]×3[クラス]=12[人]」は,「クラス対抗リレーの参加者数は全部で12人」というのに対応づけられますが,「「1[個/人]×3[クラス]」という式や,かけて得られる「3[個・クラス/人]」について,意味づけを与えるのは困難です。3口のかけ算のうち《箱売り》と関連し,2つの「倍」のかけ算を注意して並べた数量の関係が,背景にあると言えます。
 さて小学校の算数で,お弁当の問題,参加賞の問題,カードの問題について,式を立てて答えを出すとすると,どうなるでしょうか。次元を取り除くと,「1×3×5」あるいは「1×5×3」,「1×4×3」となりますが,いずれも1が不格好です。そこで「3×5」「5×3」「4×3」としてみると,今度は「ひとつ分」が何であるかが不明確になります。高校の数学のように(カードの問題を用いますが他の文章題も同様です),「3枚ずつ5人の子供に配ると考えると,3×5=15(枚)」と,「3種類のカードを1枚ずつ」を「3枚ずつ」に読み替えることを,筋道立てて答えを書くにあたり,要請すべきでしょうか。
 ところでカードの問題には類題があります。デカルト積のピクトリアル - わさっきで紹介した「ふしぎな花のさく木」「お菓子」「風船」です。風船の件はhttp://www.nier.go.jp/seika_kaihatsu_2/risu-2-ikkatu.pdf#page=191より画像のほか,本文中には「この処理は数計算の場合大きな差支えがないかもしれないが,量の扱いではやはり不具合があって,教師たちの丁寧な対応によって乗り越えているところである。」と,そのとらえ方(乗法の意味づけ,と言ってもいいでしょう)に基づく指導で現れる困難な点が記されています。これをもとに,http://www.slideshare.net/takehikom/2x3-3x2/51では「中国の追随になるかも」,http://www.slideshare.net/takehikom/2x3-3x2/70では「日本の算数教育で「どっちでもいい」を採用するのは性急」と,書いてきたのでした。
 「1つの場面に対し,複数のかけ算の式を立ることができる」という場面の提示を目指すとすると,お弁当の問題,参加賞の問題,カードの問題のいずれも,算数教育において十分に洗練されているとは言いがたく,例えばL字型アレイ*2に取って代わるものではないようにも思います。

*1:この用語は,asin:B000JA2798によります。古い文献や洋書をもとにした,複比例の状況は,当ブログを始めて間もないころのメインブログで,http://d.hatena.ne.jp/takehikom/20120418/1334700739にて整理しています。

*2:http://tosanken.main.jp/data/H22/jittaityousa.pdf#page=5, http://d.hatena.ne.jp/takehikom/20151229/1451314800

定数関数は,関数

 xとyの関係として,xがどのような値であってもy=2となるというのは,定数関数です。yがどのような値であってもx=3となるというのも,定数関数です。前者は「yはxの定数関数」,後者は「xはyの定数関数」です。


 中学の数学で学ぶ関数について,一階述語論理の枠組みで,少し考えてみます。
 発端はhttps://twitter.com/esumii/status/1055780029441892352のツイートなのですが,https://twitter.com/esumii/status/1055785005941645313のツイートを少し書き換え,
F1={f|[∀x∈D1 ∃y∈D2 (x,y)∈f] ∧ [∀x∈D1 ∀y1∈D2 ∀y2∈D2 (x,y1)∈f ∧ (x,y2)∈f ⇒ y1=y2]}
として,集合F1を定めます。「(x,y)∈f」を「y=f(x)」に読み替えると,F1は,「yはxの関数である」と言えるようなもの全体の集合となります。
 「∧」の左の部分,「∀x∈D1 ∃y∈D2 (x,y)∈f」については,「変数xのそれぞれの値に対し,変数yの値が(少なくとも1つ)存在する」を意味します。右の「∀x∈D1 ∀y1∈D2 ∀y2∈D2 (x,y1)∈f ∧ (x,y2)∈f ⇒ y1=y2」は,「変数xのそれぞれの値に対し,対応する変数yの値は,2つ以上ない(たかだか1つ)」と解釈できます。これらを合わせると,「変数xの値を決めると,変数yの値がただ1つ決まる」ということです。
 なおD1およびD2のDは,domainの頭文字で,訳すなら「定義域」ですが,中学数学の用語では「変域」であり,グラフをかくなどの際にはD1,D2とも実数全体の集合が想定されます*1。以下も実数を対象としますので,「∈D1」「∈D2」を取り除くと,
F1={f|[∀x ∃y (x,y)∈f] ∧ [∀x ∀y1 ∀y2 (x,y1)∈f ∧ (x,y2)∈f ⇒ y1=y2]}
と表せます。
 同様にして,「yはxに比例する」という関数全体の集合F2を,以下のとおり表すことができます。
F2={f|[∀x ∃y (x,y)∈f] ∧ [∃a ∀x ∀y (x,y)∈f ⇒ y=ax]}
 比例といったらy=ax,なのですが,「∀x ∃y (x,y)∈f」がないと,例えばy=ax(aは任意の定数)だけれどもx=2のときだけyの値が定められていないような,xとyの関係について,比例と言えなくなってしまいます*2。「∃a ∀x ∀y (x,y)∈f ⇒ y=ax」は「∀x ∀y1 ∀y2 (x,y1)∈f ∧ (x,y2)∈f ⇒ y1=y2」を含む([∃a ∀x ∀y (x,y)∈f ⇒ y=ax] ⇒ [∀x ∀y1 ∀y2 (x,y1)∈f ∧ (x,y2)∈f ⇒ y1=y2]を示せる)ので,F1でfに要請されている2番目の条件は,F2では明示していません。なお簡単のため,a=0の場合(y=0という定数関数)も,F2に属するものとしています。
 一次関数,より正確には「yはxの一次関数である」という関数全体の集合F3は,次のようになります。
F3={f|[∀x ∃y (x,y)∈f] ∧ [∃a ∃b ∀x ∀y (x,y)∈f ⇒ y=ax+b]}
 同様にして,2次元平面上でグラフが直線になるような,xとyの対応付けを記述してみます。
F4={f|[∀x ∃y (x,y)∈f] ∧ [∃a ∃b ∃c ∀x ∀y (x,y)∈f ⇒ ax+by+c=0 ]}
 このように書いてみましたが,これでは,y軸に平行な直線を表す,x=h(hは任意の定数)が対象外となります。少し考えてみると,「∀x ∃y (x,y)∈f」を仮定したとき,「∃a ∃b ∀x ∀y (x,y)∈f ⇒ y=ax+b」と「∃a ∃b ∃c ∀x ∀y (x,y)∈f ⇒ ax+by+c=0」は同値と分かります*3。ですのでF3=F4です。
 ここまでの集合F1からF4までは,「∀x ∃y (x,y)∈f」とあるとおり,任意の実数xに対し,xにfを適用したときの値が存在することを,要請しています。これを入れている限り,x=hで表される,「xはyの定数関数」には対応できないということです。
 https://twitter.com/takehikom/status/1056007347787620352では「定数関数を中学数学で教える必要はなさそう」と書きましたが,『中学総合的研究 数学 三訂版』*4ではp.243に,「x = h,y = kのグラフをかく」というのが入っていました。

*1:反比例を関数として考える場合,変域は,実数全体から0を除いた集合となります。

*2:x=1のときy=aです。しかしx=2のときy=2aではありません。これは,「xの値を2倍すると,yの値も2倍になる」という,比例の性質を満たしません。

*3:「[∃a ∃b ∃c ∀x ∀y (x,y)∈f ⇒ ax+by+c=0 ] ⇒ [∃a ∃b ∀x ∀y (x,y)∈f ⇒ y=ax+b]」を示すには,異なるx1,x2において,ax1+by1+c=0,ax2+by2+c=0を満たすy1,y2が存在することを用います。x1≠x2で,2点(x1,y1),(x2,y2)を通る直線の式は,y=a'x+b'の形で表せます。

*4:isbn:9784010220573

ゆえにアレイ

f:id:takehikoMultiply:20181024062029j:plain

 画像はコマ番号17 (p.29)の一部です。「∴(ゆえに)」を,「点が3つある形」と認識すると,これを横に5つ,縦に4つ,長方形状に並べたとき,点の総数は3×5×4で求めることができます。
 読み進めて見ることのできる,総数を求める式には,「3×(5×4)」「(3×5)×4」「「3×(4×5)」があります。どの式も,最初に出現する数は「3」であり,「4」や「5」が先頭に出ることはありません。
 それに対し,5と4については,順序を反対にした式も見られます。なお,コマ番号17 (p.28)には,「ヽ(片仮名繰返し記号)」を横に5つ,縦に4つ,長方形状に並べた配置をもとに,「例へば4に5を掛けて得る所の積は5に4を掛けて得る所の積に等しきなり」と記しています。同じコマ番号の右側(p.29)で「5×4=4×5」の式もあります。
 とはいえ同様の並びで,何種類か,かけ算の式が立てられるのは,この2年前に刊行されたものにも出現しており,今回見てきた事例が最古というわけでは,ありませんでした。

 書き下ろしで2014年に刊行された志村五郎『数学をいかに教えるか』*1では,批判的な立場から取り上げています.メインブログにて,該当箇所の引用のほか,類似する場面について検討をしてきました。

 志村氏の批判の結語は,「順序を気にする連中はこのうちどれが正しい書き方でほかのはすべて誤まりであるとしたいのだろう.」となっていますが,これはミスリーディングと言わざるを得ません。アレイ(長方形的配置)を中心として,ものの並びに対しては,かけ算を含むいくつもの式を立てるのを,外在的評価を通じて容易に見つけることができます。例えば都算研の学力実態調査のうちhttp://tosanken.main.jp/data/H26/gakuryokujittaichousa/H26jittaichousa.pdf#page=3(大問5)では,おはじきのL字型配置に対してかけ算を使った式(求め方)を2つ書かせています。ダイヤモンド的配置で,平成元年に日米の小学校4年生に出題したというのもあります*2
 とはいえ志村氏が挙げた,3トン積のトラックの場面も,今回見てきた「∴のアレイ」にしても,小学校の算数でほとんど見かけません。3口のかけ算で,いくつかの式を立てられる(いずれも,その場面を説明した式である)ことの学習に関しては,よりよい場面そして指導の事例が確立されていると想像できます。以下の記事に書いたうち,《倍の合成》と《箱売り》が該当します。

 「∴のアレイ」は,《2つに比例》に密接に関係しますが,異なる点もあります。《2つに比例》の中心となる式は,n1[d1/d2・d3]×n2[d2]×n3[d3]=n1n2n3[d1]なのに対し,今回の件はn1[d1]×n2×n3=n1n2n3[d1]です。《倍の合成》とも異なり,n1[d1]×n3にも意味を与えることができます。


関連:

整除と類別,2の倍数と偶数

 「小学校の算数において,0は偶数だけれど,2の倍数には入れない」件を見直します。はじめにこれまでの情報の整理です。自分が手がけたものではないのですが,以下のページがもっとも分かりやすいと思います。

 当ブログでは2017年の7月から8月にかけて,いくつか記事を書きました。

 一連のツイートを行ったのは,2017年6月,新しい『小学校学習指導要領解説算数編』の最初のバージョンが出て数日後のことでした。

 2018年の出版物として,『算数教育指導用語辞典』の第五版は,第四版と同じ内容でした。算数教育指導用語辞典 第五版を読んだより,該当箇所を書いておきます。

 [2] 倍数・約数
 整数の集合を考察する立場としては,ある整数でわったあまりに着目して類別して考察する場合と,整除性に着目して考察するする場合との二つがある。整数を倍数,約数といった観点から考察するのは,後者の立場である。
 倍数・約数は,分数の約分や通分の際に用いられる大切な内容である。
 (1) 倍数
 ある整数の倍数は,次々に幾つでも作られるという性質がある。例えば,3の倍数は3,6,9,12,15,18,21……というように無限に続くことになる。
 なお,小学校では0を偶数としては扱うが,発達段階からみて指導上に困難点があるので,0をある整数の倍数として扱うことはしていない。0を整数nの倍数としてみるのは中学校である。

 倍数を考える際には0を対象としないと読み取れる情報が,昭和33年改訂の小学校学習指導要領に入っていました。http://www.nier.go.jp/guideline/s33e/chap2-3.htmの第5学年の指導上の留意事項,「倍数,約数の指導は,分数の計算に必要な程度にとどめること。」です。数学的に0は2の倍数かつ3の倍数だからといって,3分の2は,0分の0だとするわけにはいきません。
 なお,昭和43年改訂(昭和46年施行)の小学校学習指導要領では,http://www.nier.go.jp/guideline/s43e/chap2-3.htmによると,留意事項(いわば補足)ではなく内容(メインで指導すること)に入り,表現が「簡単な場合について,倍数,約数などについて知ること。」に変わっています。この「簡単な場合について」というのは,桁数の多い数に関する倍数や約数を学習する(公倍数・公約数を計算できる)のを除外すると解釈もできますが,昭和33年の内容と比較すると,表現を変えたとはいえそこでも,倍数・約数を考えるにあたって0を対象としないことを,暗に含んでいるように思えます。


 出版物やWebの情報発信から少し離れ,整除,偶数そして倍数に関して,2項演算および単項演算との関連性を考えてみます。
 2項演算と単項演算の違いは,たし算やかけ算にも現れます。かけ算なら,「5と3をかけると15(5×3=15)」のように,2つの因数について自由に(小学校算数の場合は0を含む整数の範囲で)値を変えることができます。これが2項演算です。それに対し,「1に3をかけると3(1×3=3),2に3をかけると6(2×3=6),…,5に3をかけると15(5×3=15)」という見方もできます。この場合,「に3をかける(×3)」が固定され,かけられる数を3倍して,かけ算の答えを得るということになります。かける数のほうは固定し,かけられる数だけが可変なので,単項演算となります。かけられる数のほうを固定し,かける数を変えることもできます。被乗数固定は,2年で何の段として学習する際に活用されます。
 かけ算を2項演算と見る場合,「5と3をかけると15(5×3=15)」と「3と5をかけると15(3×5=15)」とは同等となります。それに対し単項演算においては「5に3をかけると15(5×3=15)」と「3に5をかけると15(3×5=15)」とは概念的に異なる*1ものになります。
 わり算について,5÷3と3÷5を同一視するわけにはいきません。ですが「比」は,2項演算と単項演算を考えることができます。「酢とサラダ油の量は3:5」*2と書くのが,2項演算の見方です。2つの値を自由に変えられるほか,「サラダ油と酢の量は3:5」と書くこともできます。
 この酢とサラダ油の体積比に関して,サラダ油を基準として,酢はどのくらいの割合になるかを考えることもできます。3÷5=0.6と計算したとき,サラダ油1に対して,酢をその0.6倍の量にすれば,同じ配合になるというわけです。3÷5=0.6は3:5の比の値と呼ばれます。酢を基準としたときの,サラダ油の割合は,異なる数(逆数)になります。
 整除は,素朴には「aがbで割り切れる」と定義されます。これについて,2つの数をとりますが,加減乗除と異なり,整除の結果は「割り切れる」または「割り切れない」,ですので真偽値です.整除は2項演算というよりは2項関係と捉えるのが自然ですが,wikipedia:二項演算ではベクトルの内積を例に,「2変数の写像f:A×B→Cを形式にこだわらずに二項演算とか積などと呼ぶ場合もある」と述べられており,整除も同様に扱うことにします(AとBは整数全体の集合,Cは例えば{T, F})。「割り切れる」ための十分条件として,bが0のときにも扱えるよう,「a=kbを満たす整数kが存在する」と書くこともできます。小学校の算数なら,a,b,kには具体的な数を入れた上で,「a=b×kと表される」となります。
 整除をもとに偶数を定義するには,b=2に限定します。1は2で割り切れないので,偶数ではありません。2は2で割り切れるので,偶数です。3は2で割り切れないので,偶数ではありません。4は2で割り切れるので,偶数です…として,まずはすべての正整数について,偶数かそうでない(奇数)かを判別できます。0に関しても,0は2で割り切れるので,偶数とです。負の数も同様に奇偶判定ができます。一つの値を固定して,他方の値を任意に変えるというのは,単項演算の見方となるわけです。
 ところでbは,他の定数にもできます。実際,b=3とすると,整数全体を,3で割り切れるか,1余るか,2余るか,という3種類に分割することができます*3。このことに関連する用語は「剰余類」です。この語は,小学校の算数では学習しませんが,かわりに『算数教育指導用語辞典』や『小学校学習指導要領解説算数』に出現するのは「類別」です*4
 かけ算では,2項演算の一つの因数を固定することで,単項演算を考えました。整除から偶数(や剰余類)を考えるのも同様でした。それらは,2年で学習するかけ算や,5年で学習する偶数・奇数について,(数学的背景のもとで)定義する方法の一つであり,それに従う必要がない点にも注意したいところです。2+2+2=6というたし算(累加)の考え方は,かけ算にも,偶数かどうかの判定にも,活用できます。

*1:http://d.hatena.ne.jp/takehikom/20140924/1411511070より:「手続きbとcの間には強い非対称性がある.それらは,乗法の交換法則によって数学的には等しいかもしれないが,概念的には同一ではない.」

*2:関連:http://www.shinko-keirin.co.jp/keirinkan/sansu/WebHelp/06/page6_08.html

*3:関連:https://twitter.com/flute23432/status/1051811919080783872

*4:ただし「類別」は,「ある整数でわったあまりに着目」以外にも考えることができ,例えば(0以上の)整数を,「素数」と「合成数」と「素数でも合成数でもない数」に類別することもできます。数直線を使うと,奇数・偶数や剰余類は,規則正しく表現できますが,素数についてはそうはいきません。

反比例や2乗に比例における係数を,比例定数と呼ぶことについて

 ラフに言うと,こうです.伴って変わる2つの量XとYの間に,\frac{Y}{X}=Aという式(ただしAはXにもYにも依存しない値でA≠0)が成り立つとき,Y=AXと書けますので,YはXに比例(正比例)し,その比例定数はAです.
 この比例の関係,そして比例定数という用語について,XやYは単純な独立変数に限定しません。「惑星の公転周期の2乗は,軌道長半径の3乗に比例する」という,ケプラーの第3法則(Kepler's Third Law)にも適用できます。公転周期をT,軌道長半径をdとし,X=d^3Y=T^2としたとき,\frac{Y}{X}すなわち\frac{T^2}{d^3}は一定ということですので,その定数値は,比例定数(the constant of proportionality)となります.
 そこまで複雑でなくても,Y=yとし,Xを,x分の1またはxの2乗と表したとき,y=\frac{a}{x}またはy=ax^2のaを,比例定数という(反比例定数や2乗比例定数などといわない)のは,正比例に帰着して考られるからです。さまざまな種類の比例を,統一的に取り扱うことができる,と言ってもいいでしょう。
 ここまで書いてから,批判サイドのまとめを読みました。

  • https://togetter.com/li/1274531(中学数学では、y=3/xの3や、y=4x^2の4を「比例定数という」と教えているらしい。 - Togetter,リンク切れ)

 上記Togetterまとめを知らずに,軽く調べていくつかツイートしていました。URLは2つだけですがそれぞれ複数のツイートがつながっています。ケプラーの第3法則の件も,取り上げています。

 ツイート状況を見るには,Yahoo!のリアルタイム検索です。「比例定数」の結果から,自分で調べたのと別で,良質の情報を得ることができました。一つだけ,リンクしておきます。

 さて,「ラフに言うと」には,いくつか補足をしておかないといけません。まず,比例の定義は\frac{Y}{X}=Aではありません。その定義を採用すると,Xが0のとき取り扱えないからです。小学校の算数の「商一定」と密接に関係のあるこの式は,「変数の値が0の場合を除いて」といった文言をつけて比例の性質の一つとするほか,比例であると判断する*1ための十分条件として活用されます。
 比例定数を決定する際には,2つの変数(変量)が区別されます。「XとYは比例の関係にある」と書くと,2量は対等という見方ですが,「YはXに比例する」と書いたとき,Xが独立変数(説明変数),Yが従属変数(従属変数)と解釈され,このもとで,Y=AXのAが比例定数となります.独立変数と従属変数が反対になると,比例定数も変わります*2ケプラーの第3法則のX=d^3や,球の体積が半径rの3乗に比例するといった場面では,dやrが独立変数(説明変数)なのではないのかと,言いたいところですが,比例関係においては,説明するサイドの変量と思えばいいでしょう。
 文字をおくことで,変域が変わり得る点にも注意が必要です。y=ax^2について,xの変域が実数全体であっても,X=x^2の変域は0以上となります(yの変域はaの符号に依存して,y≧0またはy≦0となります)。このことをきちんと理解しようとするなら,合成関数(合成写像)への理解も欠かせません。

*1:比例定数の具体的な値に関心のないときは,\frac{Y}{X}=\mbox{const.}などとも書かれます。wikipedia:定数に「const.」が出現し,英語版にはなかったのでこれは日本限定かもと思いながら他言語版を見ると,ロシア語版のwikipedia:ru:Постояннаяに「C = const.」がありました。

*2:数としては逆数になります。ただし物理量においては,単位を添えて比例定数を書くのが一般的ではないかと思います。

二元一次方程式について問う全国学力テストの問題

 学校の授業やテストでは,用語を答えさせて他の関連する語句との違いを確認するのに対し,通う学校の先生が出題者ではない学力調査や入学試験においては,用語を書かせるかわりに,選択式など多様な形式で,用語や概念を正確に理解しているかの把握を試みている,と思っておくのがよさそうです。

 このまとめに出ていない,用語の問題で,個人的によく覚えているのは,「範囲」です。具体的には平成29年度の全国学力・学習状況調査(全国学力テスト,http://www.nier.go.jp/17chousa/17chousa.htm),数学Aの大問14 (1)です。「40 46 47 48 53 53 56」という,生徒7人の反復横跳びの記録に対し,記録の範囲を求めるのですが,統計の話ですので,最大値-最小値で計算し,答えは16です。範囲だからといって「40から56まで」と答えるのは,想定された誤答であり,同年8月に出された報告書には,「誤答については,「40から56*1」と解答した解答類型2の反応率が32.6%である。この中には,数学用語*2としての「範囲」を日常用語としての「範囲」と捉えている生徒がいると考えられる。」とあります。
 この数学A問題を読み直してみると,錯角を問う大問6 (1)も,興味深いものでした。「錯角は等しい」という認識は誤りであり,正確な理解は「平行な2直線に他の直線が交わったときにできる錯角は等しい」です。そして平行線のない状況でも,錯角を見つけることができるのです。
 まとめのやりとりや,コメントの最初に,「二元一次方程式」という用語の必要性を感じないという趣旨を見かけますが,上記の数学A問題には,二元一次方程式の意味を問う問題が入っています。大問3 (3)です。二元一次方程式x+y=2の解について,4つの選択肢の中から正しいものを1つ選ぶものとなっており,正解は「ウ x+y=2を成り立たせるx,yの値の組すべてが,x+y=2の解である」です。
 続く(4)では「連立方程式(式省略)を解きなさい。」という出題で,「二元」も「一次」も書いていません.(3)では「二元一次方程式」を明示することで,x+y=2はx(だけ)の方程式でもy(だけ)の方程式でもなく,2つの文字x,yの値の組を考えて,どんな値の組が等式を満たすかどうかを考えることが,期待されているわけです。
 連立でない二元一次方程式は,一次関数とも関連します。xとyの係数がともに0でなければ,2次元平面上にグラフを描くと,直線になります。ここまで参照してきた数学Aでは,大問13として,「二元一次方程式2x+y=6の解を座標とする点の全体を表すグラフ」を問題文に明記し,4つのグラフの中から該当するものを選ばせています。
 学習者ではなく大人向けの情報を書いておくと,現行および次期の学習指導要領の中学校数学に「連立二元一次方程式の必要性と意味及びその解の意味を理解すること」の項目が設けられており,『中学校学習指導要領解説数学編』では,連立をつけない二元一次方程式についての説明を読むことができます。
 出題事例の検索対象を,全国学力テストではなく,高校入試の数学に切り替えてみると,どうでしょうか。都道府県別 公立高校入試[問題・正答]で,近畿の2018年度の出題をざっと眺めてみると,兵庫*3には「中点連結定理」と「同位角」,奈良*4には「平行線と線分の比」が正解となるものがありました。いずれも名称を書かせるのではなく,選択式の出題です。

*1:解答用紙の該当箇所には右に「回」が印字されているので,「40から56回」という解答になります。

*2:個人的に「範囲」は統計の用語と認識していますが,中学の数学で学習するという意味で,「数学用語」となっていると思われます。なお,「40から56まで」と関連する数学用語は,「区間」です。

*3:https://resemom.jp/feature/public-highschool-exam/hyogo/2018/math/question04.html

*4:https://resemom.jp/feature/public-highschool-exam/nara/2018/math/question03.html

算数教育指導用語辞典 第五版を読んだ

算数教育指導用語辞典

算数教育指導用語辞典

 ざっと目を通してから,『算数教育指導用語辞典 第四版』*1と読み比べました。第四版で抜き書きしたいくつかの箇所は,そのまま第五版でも読むことができました。
 覚えているのは次の2つです。まず交換法則をはじめとする計算の性質と,かけ算の式についてです。第四版はpp.18-19,第五版だとpp.20-21に,同一の記載があります。

 H.ハンケル(1839~1873)は,ピーコックの不完全さを見直したうえで,さらにこの原理が拡張された実数系や複素数系にまで及んで成立することを示した。さらに,原理に示された三つの計算法則は,高々複素数の範囲までに止まることを示し,さらにその拡張が多元数に及ぶときは,これらの三つの法則どれかが不成立になることを示唆している。例えば,多元数のなかでW.ハミルトンの四元数については交換の法則は成り立たない。また,A.ケーリーが示した八元数の場合では,交換法則のほかに結合法則も不成立となるのである。

計算法則に関する注意事項
 数の拡張では,三つの計算法則の確かめが必要であったが,これはあくまでも形式であって,これと離れた具体的な場面では注意すべきことがある。
 例えば,交換法則に関しては,同じ加法でも合併なら交換が可能であるが,追加(増加)の場合では交換は不可能である。例えば,ミカンが5個あっても3個もらうと8個になるということから,3個もらって5個あってというのは意味が曖昧になってしまう。不用意に交換すると時間差を無視したりすることになる。
 また,乗法で,被乗数と乗数を交換しているのは,2次元的な面積の場合が,縦横同じ種類のものが並んでいる人間とかおはじきなどの数を求める場合はわかりよい。
 ただし,この場合でも,被乗数と乗数を交換したとき,その基準量をどうとらえたか,操作の観点をどこに置いたかをよく考え,その違いをはっきりとつかんでおかねばならない。同数累加や倍概念で操作する1次元的な乗法では,安易な交換は許されない。
 例えば,三つの皿にみかんが2個ずつあるとき,みかん全部の個数は2×3で求められる。しかし,皿の数三つにみかんの数2個をかけて3×2というのは意味がなく,このような具体的な場面で2×3が3×2に等しくなることを理解させるのは,かなり無理があると考えられる。

 もう一つは,「長方形は正方形」に関連する,図形の包摂関係の扱いです。第四版ではp.45,第五版からはp.47です。

図形の名称
 各図形の名称については,次のように決められている。
 すなわち,一般の図形の集合から,条件が付加されて特殊な図形の集合が作られたとき,その特殊な図形の集合に名づけられた名称が,その図形の名称となるということである。例えば,長方形も正方形も平行四辺形の条件はもつが,平行四辺形とよばず,付加された条件でできた集合の名称を用いるのである。

 新たに一つ,取り出します。0は偶数だけれど,2(や他の整数)の倍数ではないという話です。第四版のp.195で,第五版はp.203になります。

 [2] 倍数・約数
 整数の集合を考察する立場としては,ある整数でわったあまりに着目して類別して考察する場合と,整除性に着目して考察するする場合との二つがある。整数を倍数,約数といった観点から考察するのは,後者の立場である。
 倍数・約数は,分数の約分や通分の際に用いられる大切な内容である。
 (1) 倍数
 ある整数の倍数は,次々に幾つでも作られるという性質がある。例えば,3の倍数は3,6,9,12,15,18,21……というように無限に続くことになる。
 なお,小学校では0を偶数としては扱うが,発達段階からみて指導上に困難点があるので,0をある整数の倍数として扱うことはしていない。0を整数nの倍数としてみるのは中学校である。

 第四版と第五版とで,違いもあります。目次を合わせ見て,すぐに気づくのは,第五版には「ICT機器の活用」「プログラミング教育」という項目があるのに対し,第四版には見当たらない点です。
 「全国学力・学習状況調査」「TIMMS」「PISA」はどちらの版にもありますが,それぞれの本文を見ると,全国学力・学習状況調査では脚注の問題例が差し替えられていました。TIMMSとPISAのそれぞれで,調査結果の表は第五版には2015年の調査結果(第四版刊行よりあとに得られた情報)が入っています。
 「速さ」の解説はほぼ同じですが,本文の見出しの右にある,学年・領域のところは,第四版は第6学年B,第五版は第5学年Cになっていました。
 今後は第五版を活用していくことにします。