かけ算の順序の昔話

算数教育について気楽に書いていきます。

春子さん,夏子さん,秋子さん,冬子さんにそれぞれ3枚

 岡山大学教育学部の基礎代数の講義をもとに出版したとのことです。算数・数学の指導内容をどのくらいカバーするのかに関しては,「本書は代数構造や順序構造の基礎事項(とやや発展的な内容)を算数科(から中学校第一学年一学期の数学科まで)の内容と並行する形で構成されている.」(p.9)と書かれています。
 第Ⅳ部(自然数と乗法と除法)のうち,16章から19章までは,大学生が学ぶのに適した数学の内容*1ですが,20 単元「[2] かけ算」は算数です。かけ算の順序を見比べられる文章題が,p.91に書かれていました。

問題21. 太郎君は,春子さん・夏子さん・秋子さん・冬子さんにそれぞれ3枚のカードを配りたいと考えています.全部で何枚のカードが必要になりますか.

 直後に「二通りの考え方ができる:」として,児童Aの操作と,3×4の立式に対して,「単位込みで書けば「3[枚/人]×4[人]」,児童Bの操作と,4×3の立式に対して,「単位込みで書けば4[枚/回]×3[回])を記した箇条書きを配置しています。「このように,問題文から立式は決まらない.」を結論としています。
 ところで,「最後に,著者は本書の執筆に際して,『遠山啓著作集 数学論シリーズ・数学教育論シリーズ』(文献番号省略)を大いに参考にしている.」(p.9)とあり,児童Bの操作はいわゆるトランプ配りです。1960年代からの遠山啓の著書により,トランプ配りの乗法・等分除・包含除への適用(可視化)が見てとれますが,現在学校現場で活用されているのは等分除への適用のみで,遠山没後の海外文献(Anghileri & Johnson, 1988; Greer 1992)と照合することもできます*2。トランプ配りを認めた上で「置き方ではなく,置いた結果に着目させる」を含む,1年の授業案も思い出します*3
 本日取り上げた問題は,メインブログで収集している「かけ算の順序を問う問題」に追加するわけにいきません。「4」が問題文に明記されていないからです。小学校2年の算数教科書で,このような書き方の文章題を目にした記憶はありませんが,かけ算の式を「3×4」のみにするか,それともこの出題の仕方であれば「4×3」も認めるのかについては,学習指導案や授業事例を待ちたいところです。

*1:命題16.1,定義16.1 (p.82)については,文字列の繰り返しにも使えるなと思いながら,節の最初を見ると,対象は可換半群となっていました。文字列の反復を構成するのに先立って必要な,文字列の連結は,半群と見なせるけれど,可換ではありません。

*2:https://takehikom.hateblo.jp/entry/20160522/1463842800

*3:[isbn:9784180808335]; 『算数科のための基礎代数』p.59の問題7について,(3+4,4+3の)「どちらも正しい」としていますが,児童Bが考えたという操作は不自然(花子さんが持ってきた4個を乗せた皿の上に,いったん太郎君の3個を乗せて,皿を取り替えるのは,手間がかかるし非現実的)な上に,そのような操作をしたとしても,問題文の記述において花子さんの操作は数量関係を得るにあたり必須(本質)ではなく,客の太郎君を基準に「増加」の状況を捉えるべきと言えます。