- 熊倉啓之, 國宗進, 柗元新一郎, 早川健, 近藤裕: 中学校・高等学校における割合指導に関する研究, 静岡大学教育実践総合センター紀要, Vol.30, pp.49-58 (2020). http://doi.org/10.14945/00027105
フィンランドの教科書の,第8学年の中に,日本だと小学5年で,「3÷0.15=20」という式で求めることになる問題が入っていました(p.51)。
エ 基準量を求める問題(第3用法)
6学年では扱わない第3用法の問題を扱っている.2つの方法を示している点に特徴がある.
(例)大麦を15%含む飼料がある.3.0kgの大麦を摂るには,どれほどの資料*1が必要か?
ア) 3.0/15=0.2,0.2×100=20kg
イ) a×0.15=3.0,a=3.0/0.15=20kg
ア)は帰一法による方法,イ)は文字を使った方程式による方法である.
「帰一法」について,思い浮かぶのは「割合が1のときの数量を求める」です。百分率であれば,1は100%です。なのですが,上記のア)は「1%のときの数量を求める」ということをしています。前のページにも,「まず1%相当の量を求める帰一法」と書かれています。
この意味の帰一法を含む図が,p.51の右カラム上部に掲載されています。
よく見るとテープ図です。上下に伸びています。縦方向に伸び縮みが可能な,言ってみればバーチカルなテープ図です。大麦の問題でいうと,「15%」と「3,0kg」から始まり,これを「1%」そして「0,2kg」にして(/15)から,「100%」の場合(×100)の未知数aを求めようというわけです。
冒頭の文献は,「割合の深い理解」の調査問題を,数直線図ででもリンクしています。当該記事を作成していた際にも,読んでいましたが,海外ではテープ図を縦長に使うこともあるのか,数値を左右に割り振るのは便利かもなあ,という程度の認識でした。
今月出版の,筑波 + 東洋館のほうの板書本で,割合の導入授業に採用されていました。
板書で見る全単元・全時間の授業のすべて 算数 小学校5年下 (板書シリーズ)
- 作者:隆雄, 盛山
- 発売日: 2020/08/11
- メディア: 単行本
割合の第1時の授業は,pp.106-107です。板書の左上には,「Mの容器には,360mLのミルクコーヒーを作るときのコーヒーが入っています。(後からミルクを加えます) Sの容器でも同じ味のおいしいミルクコーヒーを作ります。」とあります。すぐ下に,容器のサイズは360mLでコーヒーの量が90mL*2という,Mの容器を表した,縦長のテープ図と,サイズは200mLという,Sについての縦長のテープ図が並んでいますが,やや煩雑です。むしろ板書の右端の「Lサイズでは?」の件がシンプルで明瞭でした。以下は自作した図です。
ただしこの図のうち,「125mL」は,最後に(かけ算またはわり算で計算したあとに)書くことになります。出題内容を文章にするなら,次のとおりです:Lの容器は,500mLです。Mの容器と同じ味のミルクコーヒーを作るには,はじめにコーヒーをどれだけ入れればよいでしょうか。
授業全体の流れを,三用法と対応づけながら記しておきます。Mの容器(360mLのうちコーヒーは90mL)から,コーヒーを1としたときの容器の割合は,第1用法で,360÷90=4により求められ,「容器のサイズはコーヒーの量の4倍」と表すことができます*3。また,容器を1としたときのコーヒーについては,90÷360=→0.25という割合を求めることになります(これも第1用法です)。「だからミルクコーヒーはコーヒーを容器のまで入れる」も,黒板に書かれています。Lサイズの件は適用題で,期待される式の一つは,500×0.25=125です(第2用法)。「500×」という分数のかけ算は,未習のため,書かれていません。500÷4=125については,「コーヒーを1としたとき」の量ですので,第3用法で求めていることになります。
筑波の算数の割合の導入の授業には,第ナントカ用法も,「割合」という言葉も出現しませんが,すべての要素が詰まっている授業となっているのでした。
なお,「割合」は第2時(p.109)の板書に,「%」は第4時以降に,線分図は第3時に,数直線図(2重数直線)は第4,7,8時に,それぞれ出現します。第8時(割合の単元の最後)の授業で考える問題は,「定価5000円の帽子を,A店では20%引きにしてから20%引きにして販売し,B店では30%引きにしてから10%引きにして販売しています。それぞれ何円ですか。」と表すことができます*4。熊倉ほか(2019)の調査問題の大問4および大問5が,一つになった授業です。
*2:板書の左上の問題文には,「90mL」が書かれていませんが,この文だけでは答えが求められない(いわゆる条件不足問題)のは,筑波の算数授業の出版物でよく見かけます。
*3:ミルクコーヒーでコーヒーとミルクの量の比が1:3というのは,ずいぶんミルクが多いなあと思いながら,少し検索したところ,多くのページで,カフェラテはコーヒー:ミルクを2:8と記していました。1:3よりも,ミルクの割合が高くなります。https://shepherdcoffee.jp/2019/04/01/milk-coffee/によると,上島珈琲の「ミルク珈琲」も,コーヒー2:ミルク8とのことです。