かけ算の順序の昔話

算数教育について気楽に書いていきます。

まん中の数のいくつ分~「九九表」の授業提案

 解説編のあと,実践編において各学年で3つずつの単元より,各教科書の状況と,授業例を提示しています。教科書比較の表も多く,p.22の「各社の算数教科書の特徴」では出版社名が明記されています。実践編ではA社などのアルファベット表記で,どうして伏せたのだろうと思いながら,目次に戻ると,p.7の下に,2019年検定済の教科書をもとに解説していることに加えて,A社からF社までの出版社名を明記していました。
 実践編の第2学年の最初は,九九表(pp.50-58)です。それぞれの段は学習済みで,「乗法九九を構成したり観察したりすることを通して,乗法九九の様々なきまりを見付けるように指導すること」(p.50;『小学校学習指導要領(平成29年告示)解説算数編』p.117)に関連する学習内容です。
 授業案における「本時の問題」が,p.53で枠に囲まれていました。

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 「かくしたところの合計はいくつでしょう?」という問題です。1の段の答えが4・5・6のところが隠されています.合計は,4+5+6=15ですが,「まん中の数のいくつ分」という見方を通じて,5×3=15で求めることもできます。ページを進めて,p.55やp.57では,2の段の答えが4から12までを隠しますが,真ん中の数が8であること,隠しているのは5個であることから,8×5=40で求められます(念のため,たし算だと,Linux端末でecho 4+6+8+10+12 | bcというコマンドを実行し,結果は「40」になりました)。図6(p.57)では,4個,6個,...,12個の長方形をそれぞれ縦に並べたタイルをもとに,移動させる*1ことで8×5のタイルにし,「まん中の数のマス分(○倍)になっている!」という,児童の発言を引き出しています。
 ここから,本書を離れた検討です。九九表は,「倍」と「積」のうち,どちらかというと「積」を視覚化したものと言えます。各行を「かけられる数」または「○の段」,各列を「かける数」として,表を構成することが多いですが,行と列を入れ替えても成立し,中の表の値は変わりません。
 では九九から学べるのは,対称性そして交換法則だけなのかというと,そうではないよ*2,というのが今回の授業例と言えます。表の上で,「1つ分×いくつ分」を作り,たし算よりも早く計算できるというわけです。
 どこを隠すかについて,本書の2つのケースはいずれも「横方向に奇数個」です。縦方向は差し支えないはずです。また偶数個の場合には,「まん中の数」は中央値の定義に基づき求める必要があり,小学2年の内容に適していません。
 もう一つ,制約があって,まん中の数は,任意というわけにいきません。大きな数(例えば4の段の20・24・28)を選んだ場合の,かけ算の式の計算は,3年の学習になります。九九を用いて求めるのなら,まん中の数は9までで,「簡単な場合の2位数と1位数との乗法」としても12程度*3までです。九九の表の中で,該当するのは22箇所*4です。
 「縦も横も奇数個」にしても,差し支えないはずです。以下の画像の塗りつぶしについて,まん中の数は8で,9個ありますから,合計は8×9=72です。和で求めても72ですし,これもタイルで考えて,均せば,8枚のタイルが9セットになります。

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 この画像の作成にあたり,啓林館WEBでリンクされている九九の表を使用しました。
 縦も横も奇数個にした場合,まん中の数は,視覚的に中央の数を選ぶ必要があります。「中央値」ではうまくいかない,最も小さなものは,{1,2,3}×{1,2,3}を選んだ場合です。まん中の数は4なのに対し,中央値は3です。そのほか,九九表の積に出現するすべての数値を考えたとき,その中央値は20(ふたたびLinux端末にて,ruby -e 'puts (1..9).map{|i|(1..9).map{|j|i*j}}.flatten.sort[40]'というコマンドの実行で確認しました。最後の40を0に変更すると,出力は最小値の「1」に,80に変更すると最大値の「81」になります)となって,まん中の数の25ではありません。

*1:均しています。「均す」「平均」の概念は,5年での学習ですが,具体物・半具体物を移動させて,同数グループを作り,1つ分の数×いくつ分に基づき,かけ算の式に表す活動は,九九の各段の学習より前に行われていると想定できます。

*2:図2(p.51)には,乗法九九のきまりの共通点として,「乗数と積の関係(乗数が1増えると,積は被乗数だけ増える)」「交換法則(カッコ書き省略)」「分配法則(同)」の3項目が記されています。

*3:『小学校学習指導要領(平成29年告示)解説算数編』p.116より:簡単な場合についての2位数と1位数との乗法として,12程度までの2位数と1位数との乗法を指導する。

*4:「横に並ぶ3個を隠して,中央の数は12以下」となる場合の数は,1の段では7通り,2の段では5通り,3の段では3通り,4の段では2通り,5の段と6の段は1通りずつです。