かけ算の順序の昔話

算数教育について気楽に書いていきます。

積概念の教え方・学び方

 もう一つ,メインブログの記事を思い出しました。かけ算の順序論争について(日本語版)です。「かける数が先の文章題」と「a×bとb×a」とで,小節を分けて,説明していました。

事前も事後も不正解が48%の授業実践報告
  • 3.1 かける数が先の文章題
  • 3.2 a×bとb×a
  • 3.3 「倍」と「積」のかけ算
かけ算の順序論争について(日本語版) - わさっきhb

 「かける数が先の文章題」「a×bとb×a」「「倍」と「積」のかけ算」をすべて取り扱った,小学校2年の算数(かけ算)の授業があるのかというと,書籍の1ページになっています。『誰もができる子どもに活用力をつけるワクワク授業づくり』のp.69で,白と赤を1本ずつで取り上げています。

 「かける数が先の文章題」と「a×bとb×a」を含む,今年の(オンライン)出版物といえば,3×2の,子どもたちの発言で紹介した,算数授業通信284号 (令和4年8月4日)の実践報告①です。「今、教室に5人います。おり紙を1人に6まいずつくばります。おり紙はぜんぶで何まいいりますか。」という問題場面に対して,個の解決時間のあと,5×6と6×5の2つの式があったことを教師(ファシリテーター)が告げて,それぞれの根拠を発表させ,この問題文に合う式は6×5であるへと導いています。
 「a×bとb×a」と「「倍」と「積」のかけ算」を組み合わせた授業案が,「板書本」で紹介されています。『板書で見る全単元・全時間の授業のすべて 算数 小学校2年下』のp.29です*1

 しかしながら,4色の花の絵を3行に並べて「4×3」「3×4にも見える!」という事例は,同書の授業ではこの1箇所のみでした。またこの回の授業では,3×5と5×3とで「しきと絵」の対応付けが異なる事例も含まれています。
 「かける数が先の文章題」と「「倍」と「積」のかけ算」の2つを組み合わせた授業というのは,見当たりませんでした。教科書や学習指導案などで,デカルト積でモデル化できる事例は,上の花の絵もそうでしたが,イラストまたは写真で提示されています。そこから「1つ分の数」を設定し,「いくつ分」を見出してかけ算の式にすることが期待されます。
 デカルト積は直積とも書かれ,英語で表すとCartesian productです。他の種類の「積」との違いを含め,メインブログで今年,見直しを図りました。

 《倍の乗法》に相対するものは《積の乗法》である.[Greer 1992]の分類表のうしろの3つ(Cartesian product:直積, rectangular area:長方形の面積, product of measures:量の積)が該当する.これらに共通する乗法の式は「因数×因数=積」である.したがって除法の式は「積÷因数=因数」しかない.
 《積の乗法》の3つの種別では取り得る数量に違いがある.まず,Cartesian productは2つの因数と積がいずれも分離量である.次に,rectangular areaは,2つの因数が同じ種類の量(長さ)で積はそれらと異なる量(面積)である.最後に,product of measuresは,2つの因数と積がいずれも異なる量である.量の積の場面において,2つの因数は一般に異なる量であるが,除法は,「積÷一つの因数=他の因数」と捉えることにすれば,1通りのみとなる.

積に基づく乗法の認識について - わさっきhb

 □△○でシンボル化されたお菓子の件や,4色の花を3行にしたような事例は,Cartesian productに基づいていると言えるのですが,算数の(2年の)かけ算を学習でよく見かける,○など同一物の長方形的配置は,Cartesian productとrectangular areaの両方の要素があるように見えます。引用した「rectangular areaは,2つの因数が同じ種類の量(長さ)で積はそれらと異なる量(面積)」のうち,因数と積を「個数」に置き換えます。「3個×4個=12個」といった種類のかけ算になります(「4個×3個=12個」も認められます)。
 名称としてはrectangular array(長方形的なアレイ)でしょうか。ただし,http://dx.doi.org/10.4236/ce.2013.44038の文献の本文に,rectangular areaと区別してrectangular arrayが書かれています。
 「□△○でシンボル化されたお菓子の件や,4色の花を3行にしたような事例」が,2年のかけ算の学習で脚光を浴びないことについて,いくつか理由が考えられます。一つの場面を異なる式で表せるようになること(そのような場面・事例を経験すること)は,主従関係でいうと「従」であり,「主」になるのは,「1つ分の数×いくつ分」の式に表して,その意味を伝えたり,計算して総数を求めたりできることにあります。そしてこの「主」に関しては,Cartesian productでないモデルを通じて習熟がなされています。
 また別の理由を,上の学年の学習項目が示唆しています。第4学年のB図形の「ものの位置の表し方」*2です。「平面や空間における位置を決める要素に着目し,その位置を数を用いて表現する方法を考察すること。」*3について,念頭に置かれているのは2次元平面や3次元空間ですが,解説では「下駄箱の位置」を例示しています。Cartesian productのモデルで表された図を数量的に詳しく見ていくのは,4年の学習というわけです。「□△○でシンボル化されたお菓子の件や,4色の花を3行にしたような事例」をはじめ,Cartesian produtctについてかけ算の式で表せることの学習は,6年の「事象の特徴に着目し,順序よく整理する観点を決めて,落ちや重なりなく調べる方法を考察すること。」*4で取り入れるのが良さそうです。